表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふぁでぃす・ばでんでぃん! ~バッドエンドからはじまるループもの~  作者: 作一生一
ミズコガエシ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/64

057

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 20時47分

 八尾川(やおがわ)付近

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 

瑞古還(ミズコガエ)シ〟

 

 祭りの名でもあるこの言葉は、本来、島に伝わる()()()()を指すモノだった。

 

 その儀式というがコレ、

 

【俺】

「あー、そういやこんなんだったなぁ……」

 

 社務所(しゃむしょ)で配られた人形――通称〝ミズコ人形〟を八尾川から流す、というモノである。

 

【俺】

「たしか……アレだよな」

「この人形って、瑞古草(ミズコソウ)で作られてんだろ?」

 

【ミコト】

「ああ。根を乾燥させたヤツを縄にしてな」

 

【俺】

「なるほどなぁ……」

 

 俺たちは今、石段を下りて八尾川のほとりへと向かっていた。

 

 祭りの流れ的にはコレが最後にしてメインのイベントなので、奉納舞(ほうのうまい)を鑑賞した人の大半がそのままこちらへと流れてきている。

 

 道もそんなに広くないので、この付近だけを切り取ると、あたかも内地の大きなお祭りみたいな混雑っぷりだった。

 

 これだけ人が多いとろくに動きも取れないので、アツシたちとの合流は難しそうである。

 

 ……ていうか、そもそもアイツらの姿がまったく見当たらなかった。

 

 どこにいるんだろう。

 

 社務所でミズコ人形を受け取る時もいなかったし……。

 

 俺はなんとはなしに手にした人形へと目を移した。

 

【俺】

「……ん?」

 そこで気づく。

「なんだコレ……」

 

 人形の胸の辺り。

 

 そこに何か……模様のようなモノが描かれていた。

 

 といってもひどく単純なソレである。

 

 アスタリスの線を増やしたかのような――

 

【ミコト】

「ああ、ソレ?」

社紋(しゃもん)だよ、ウチの神社の」

 

【俺】

「え、Shamone?」

 Hee-hee! とか Pow! とか返すべきだろうか。

 

【ミコト】

「ナニ言ってんだオマエ……?」

 じっとりとした目で見てくるミコト。

「そうじゃなくって、社紋――神社の〝社〟に、紋章の〝紋〟で、社紋だよ」

 

【俺】

「ああ、なるほどな」

「要は家紋の神社版ってことか」

 

【ミコト】

「そんな感じだな」

 

 言われてみれば神社の中でも同じマークを目にした気がする。

 

 たしか本殿(ほんでん)にも刻まれていたはずだ。

 

【ミコト】

「てか前にも話しただろ、コレ」

 

【俺】

「え? そ、そーだったか」

 

 悪いが全然記憶にない。

 

 多分、俺が島を出る前の話だろう。

 

【ミコト】

「まったく……すーぐに忘れやがって」

 

【俺】

「はは、わりぃわりぃ……」

「お、それよりついたみたいだぞ。こっから流すんだろ、人形」

 

【ミコト】

「ウン、もうはじまってるみたいだな……」

 

 見れば前の方から列になって二人ずつ瑞古還シをしていた。

 

【俺】

「俺らも並ぶか」

 

【ミコト】

「だな」

 

 助かることに、そんな時間を取るモノではない。

 

 少し待っているだけで順調に列が消化されていく。

 

【俺】

「これってやっぱアレなのか」

「川に流されたヤオと……あとその末っ子に対しての儀式なのか」

 

【ミコト】

「ウン、まあな」

八尾姫(ヤオヒメ)さまたちの御霊(みたま)(なぐさ)め、(しず)めるっていうのが本来の趣旨(しゅし)

 

【俺】

「へぇ……」

 

【ミコト】

「でも時代と共に少しずつ変わっていって、今じゃ七夕(たなばた)みたいに願いごとを叶えてもらう、って感じでもある」

「ホラ、あの子とか」

 

 ミコトが示す方を見ると、まさに今、人形を流そうとする子がいて、何やら熱心に願掛けしている。

 

【俺】

「……いいのか、神社的にはソレで」

 

【ミコト】

「いーんだよ。神社的にもコレで」

「元々の慰めるとか鎮めるとかだって、そもそもは漁の安全とか豊漁を祈願したモンだったんだ」

「だから時代が変わって少しくらい変わったとしても、ちゃんと聞き入れてくれるさ」

 

【俺】

「なるほどねぇ……」

 

 そーいう考え方もあるのか。

 

 俺はふむふむとうなずく。

 

 その間にまた列が進み、次はいよいよ俺たちの番だった。

 

【ミコト】

「ほらナタロー、行くよ」

 

【俺】

「お、おう」

 

 俺はミコトと一緒に川べりへと立つ。

 

 そして、前の人たちの見様見真似で人形を両手に持った。

 

【ミコト】

「………。………………。………………………。」

 

 さすがに自分から〝神社的にもコレでいい〟と言ってただけあって、ミコトは先の子にも劣らぬ真剣な願掛けである。

 

 俺もその様子を見て、

 

【俺】

「………。………………。………………………。」

 

 目をつむり、真面目に祈った。

 

 幸い、何を願うかで今さら悩むことはない。

 

 ――あの日から、いつだって願いごとは一つしかないのだから。

 

【ミコト】

「……ナタロー」

 

【俺】

「……ああ」

 

 願掛け後、俺たちは目を開け、川から一緒に人形を流す。

 

 瑞古草(ミズコソウ)――。

 

 この川のほとりでしか咲かない青い花が、夜の風に揺れながら人形たちの()く末を見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ