057
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20時47分
八尾川付近
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〝瑞古還シ〟
祭りの名でもあるこの言葉は、本来、島に伝わるある儀式を指すモノだった。
その儀式というがコレ、
【俺】
「あー、そういやこんなんだったなぁ……」
社務所で配られた人形――通称〝ミズコ人形〟を八尾川から流す、というモノである。
【俺】
「たしか……アレだよな」
「この人形って、瑞古草で作られてんだろ?」
【ミコト】
「ああ。根を乾燥させたヤツを縄にしてな」
【俺】
「なるほどなぁ……」
俺たちは今、石段を下りて八尾川のほとりへと向かっていた。
祭りの流れ的にはコレが最後にしてメインのイベントなので、奉納舞を鑑賞した人の大半がそのままこちらへと流れてきている。
道もそんなに広くないので、この付近だけを切り取ると、あたかも内地の大きなお祭りみたいな混雑っぷりだった。
これだけ人が多いとろくに動きも取れないので、アツシたちとの合流は難しそうである。
……ていうか、そもそもアイツらの姿がまったく見当たらなかった。
どこにいるんだろう。
社務所でミズコ人形を受け取る時もいなかったし……。
俺はなんとはなしに手にした人形へと目を移した。
【俺】
「……ん?」
そこで気づく。
「なんだコレ……」
人形の胸の辺り。
そこに何か……模様のようなモノが描かれていた。
といってもひどく単純なソレである。
アスタリスの線を増やしたかのような――
【ミコト】
「ああ、ソレ?」
「社紋だよ、ウチの神社の」
【俺】
「え、Shamone?」
Hee-hee! とか Pow! とか返すべきだろうか。
【ミコト】
「ナニ言ってんだオマエ……?」
じっとりとした目で見てくるミコト。
「そうじゃなくって、社紋――神社の〝社〟に、紋章の〝紋〟で、社紋だよ」
【俺】
「ああ、なるほどな」
「要は家紋の神社版ってことか」
【ミコト】
「そんな感じだな」
言われてみれば神社の中でも同じマークを目にした気がする。
たしか本殿にも刻まれていたはずだ。
【ミコト】
「てか前にも話しただろ、コレ」
【俺】
「え? そ、そーだったか」
悪いが全然記憶にない。
多分、俺が島を出る前の話だろう。
【ミコト】
「まったく……すーぐに忘れやがって」
【俺】
「はは、わりぃわりぃ……」
「お、それよりついたみたいだぞ。こっから流すんだろ、人形」
【ミコト】
「ウン、もうはじまってるみたいだな……」
見れば前の方から列になって二人ずつ瑞古還シをしていた。
【俺】
「俺らも並ぶか」
【ミコト】
「だな」
助かることに、そんな時間を取るモノではない。
少し待っているだけで順調に列が消化されていく。
【俺】
「これってやっぱアレなのか」
「川に流されたヤオと……あとその末っ子に対しての儀式なのか」
【ミコト】
「ウン、まあな」
「八尾姫さまたちの御霊を慰め、鎮めるっていうのが本来の趣旨」
【俺】
「へぇ……」
【ミコト】
「でも時代と共に少しずつ変わっていって、今じゃ七夕みたいに願いごとを叶えてもらう、って感じでもある」
「ホラ、あの子とか」
ミコトが示す方を見ると、まさに今、人形を流そうとする子がいて、何やら熱心に願掛けしている。
【俺】
「……いいのか、神社的にはソレで」
【ミコト】
「いーんだよ。神社的にもコレで」
「元々の慰めるとか鎮めるとかだって、そもそもは漁の安全とか豊漁を祈願したモンだったんだ」
「だから時代が変わって少しくらい変わったとしても、ちゃんと聞き入れてくれるさ」
【俺】
「なるほどねぇ……」
そーいう考え方もあるのか。
俺はふむふむとうなずく。
その間にまた列が進み、次はいよいよ俺たちの番だった。
【ミコト】
「ほらナタロー、行くよ」
【俺】
「お、おう」
俺はミコトと一緒に川べりへと立つ。
そして、前の人たちの見様見真似で人形を両手に持った。
【ミコト】
「………。………………。………………………。」
さすがに自分から〝神社的にもコレでいい〟と言ってただけあって、ミコトは先の子にも劣らぬ真剣な願掛けである。
俺もその様子を見て、
【俺】
「………。………………。………………………。」
目をつむり、真面目に祈った。
幸い、何を願うかで今さら悩むことはない。
――あの日から、いつだって願いごとは一つしかないのだから。
【ミコト】
「……ナタロー」
【俺】
「……ああ」
願掛け後、俺たちは目を開け、川から一緒に人形を流す。
瑞古草――。
この川のほとりでしか咲かない青い花が、夜の風に揺れながら人形たちの行く末を見守っていた。




