055
その頃。
浜辺で事切れたはずのヤオが目を覚ました。
アサカの凶行を知ったヤオは血相を変えて家へと戻る。
しかし時すでに遅く、夫と娘たちは無残な亡骸と化していた。
ソレを見たヤオは意を決する。
……ややあって、死んだはずのヨビトが目を覚ました。
見れば胸の傷も塞がっている。
それだけではない。
娘たちもまた、七人が次々と息を吹き返したのである。
だが……末っ子だけがいない。見当たらない。
それに、ヤオもまた――。
不安に駆られたヨビトは娘たちと一緒になって家を飛び出す。
するとそこには。
川辺で仰向けに倒れ、その腕に末っ子を抱いたヤオがいた。
だが――ない。その下半身が、ない。
失われている。
辛うじて息のあったヤオは、ヨビトたちに気づくと、今にも消え入りそうな声で語りだした。
曰く、ヤオの正体は〝八尾の人魚〟であり、生まれ持った命とは別に、その尾にはそれぞれ一つずつ命が宿っている。
一度はアサカに殺されたヤオだったが、その内の一つを使ってよみがえり、家族の下に駆けつけたのだ。
ヤオには一片の躊躇いもなかった。たとえ己が持つすべての命を手放してでも、夫と娘たちを救うつもりだったのである。
そうしてヤオは一つ、また一つと命の象徴たる尾を失いながらも家族を蘇生させた。
だが。
夫が一人と娘が八人。
対するヤオは八尾である。
だからどうしても末っ子だけは助けられなかった――。
ヤオは最後にこう言い残す。
すべての命を失った自分は間もなくして死ぬ。
だからこのまま末っ子と一緒に川に流し、海へと還して欲しい、と。
ヨビトは涙を流しながら感謝と別れを告げ、ヤオの言う通りにする。
不思議なことに、川の水に混じったヤオの血は朝日を浴びて青く輝いていた。
そのままヤオと末っ子がゆっくりと川の流れに乗ると、水辺では一斉に淡い青色の花が咲いていく。
この花こそが瑞古草であり、以後、ヨビトとその子孫の生活を長きに渡り支え続けた――。




