051
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19時52分
八尾姫神社、石段
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――いがみあうより、仲良くやれた方がイイにきまってる。
その言葉に嘘偽りはなかった。
ましてやここみたいな小さいコミュニティではなおさらである。
あーだこーだといざこざを起こしてもしょうがない。
その辺のところをアツシもすぐに汲み取ってくれたらしく、俺たちはそこから一緒に回って祭りを楽しむ。
【俺】
「ヒャッハーッ!」
「俺の辞書に〝正々堂々〟なんて言葉はねーんだよォー!」
【アツシ】
「バカな⁉ スプーンじゃとォ⁉」
「どこに隠し持っとったんじゃー⁉」
そんな感じでトウモロコシの早食い対決からはじまり、射的やコイン落としで白熱したバトルを繰り広げた。
案の定、レイコとシズクは当初「はん、バカバカしい……」みたいシラけちゃいたが、これまた案の定、俺がプールの時みたいにカタログの話を持ちだすと、おもしろいくらいにのってくる。
特におどろかされたのはシズクのカタヌキで、店のおじさんが「ウチの最難関だよ」と自信満々に出してきた〝ダイオウ・イソギンチャク〟を、ものの五分でパーフェクトに仕上げてしまった。この神業っぷりにはおじさんも俺も脱帽する他なく、カタログの譲渡を約束する。なお、意外にも一番ポンコツだったのはレイコで、あろうことか初手爆死。どうもアイツはパワー系で、精密さとはほど遠いようだ……。
その後は青年団が企画した〇×クイズやビンゴ大会で大いに盛り上がり、最後らへんは箸が転んでも爆笑状態で盆踊りに加わる。
【俺】
「いやー、たのしかったなぁ……!」
そんな感じでひとしきり祭りを堪能した俺たちは、おのおの適当な食べ物や飲み物を手に取り、神社の石段に腰掛けた。
この石段はそれほど長くないが、島のもろもろは還津山から見て下り坂になっているので、ここからだと居住区を介して港や海までが良く見える。
【俺】
「この後ってたしか……花火があがるんだよな。港から」
【ミコト】
「ああ」
「ソレが終わったら奉納舞、最後に〝瑞古還シ〟でシメだな」
【俺】
「ミズコガエシって……あ、そっか」
「川から流すんだよな、あの人形」
【ミコト】
「ミズコ人形な……あとで取りに行こう」
【俺】
「おう」
俺がミコトにうなずくと同時に――
「うおっ⁉」
ドォーン、と。
空気を震わせ、こちらの心臓まで揺さぶってくるような轟音。
見れば満天の星空を背景に、大きな花火が打ち上げられていた。
パッと散って、サラサラ消えて。
一秒一秒で見える形と色がまるでちがう。
たぶん、だからこそ花火は美しくて――そしてすこし、せつないのだろう。
【俺】【ミコト】【アツシ】【レイコ】【シズク】
「「「「「………。………………。………………………。」」」」」
俺たちはしばらくの間、無言で花火を眺めていた。
咲いては散り、散っては咲いてゆく光の花。
いつしか腹の底にまで響く爆音は、一種の律動となって身体中を巡っていた。
しばらくして、
【アツシ】
「これが……」
アツシが独り言のようにポツリとこぼす。
「これが、オレがこっちで見る最後の花火じゃ……」
【俺】
「はぁ?」
何やら不穏な発言に俺は思わず口をはさんだ。
「最後のって……どーゆうことだよ」
【アツシ】
「ん?」
「ああ、すまんのぅ。誤解させてしまったか」
「なーに、深い意味じゃない」
「ただ来年からは、オレもアッチに回るっちゅーだけじゃ」
言って港の方をアゴで示すアツシ。
【俺】
「アッチに回る……?」
【アツシ】
「なんだナタロー、おまえ知らんかったか?」
「あの花火、打ち上げとんのはウチん家じゃぞ」
【俺】
「え、そーだったんか」
【アツシ】
「おう」
「港はウチの――参潮の管轄じゃからの」
「だから来年からオレはコッチにはおれん」
「アッチでオヤジやジーチャンの手伝いをせにゃならんからな」
【俺】
「そっか……」
アツシが中学を出たら家業を継ぐというのは聞いていた。
つまり来年からはもう立派な社会人ということである。
なんだかどんどんと差をつけられている気がするなぁ……。
さみしいことこの上ない……。
【アツシ】
「そーいや、ナタロー」
「お前はどーするんじゃ?」
「やっぱ内地の高校にでもいくんか」
【俺】
「ん、俺か?」
「ああ、そーだぞ」
「元々そのつもりでコッチに戻ってきたよーなモンだからな」
ソレは――ウソではない。
ウソでは。
【アツシ】
「そうか」
「まぁ、おまえのアタマならどこだって行けるんじゃろーが――」
【レイコ】
「……それで?」
不意にレイコが割って入ってきた。
「内地に行って、高校に進学して」
「それでアンタ、どうするつもりなの」
「その先」
【俺】
「さぁ……」
「たぶん、どっかの大学を受験すんじゃねーか」
幸い資金面で不安はない。
したくはないが、一浪か二浪くらいならなんとかなる。
【レイコ】
「ふぅん……」
「それで?」
「その先は」
【俺】
「いや、その先って言われてもなぁ……」
「やっぱまあ、就職だろ。普通に考えて」
【レイコ】
「どこに?」
【俺】
「んなもん今の時点で決められっかよ……」
強いて言えばゲーム会社に入りたいなぁとは思っちゃいるが……。
でもなぁ。
俺が今、ゲームを〝楽しい〟と感じてるのは、あくまでユーザー目線での話だ。
開発者側に立ったら、はたしてその時どんなモノが見え、どう思うかがまったく想像できない。
言い換えれば〝好きなことを仕事〟にした時、果たして自分が本当にソレを好きなままでいられるかに自信がないのだ。
なまじ俺の場合、もっとも身近に父さんというまさしく好きなことを仕事にした人間がいて、その苦労の一端やソレをどう乗り越えたかを見てきてしまっているので、ただ無邪気に〝自分は大丈夫だ!〟とは信じきれないのである。
【レイコ】
「フン……お気楽でいいわね」
【俺】
「お気楽って、お前なぁ……!」
ヒクヒクと眉毛を動かす俺。
「そーゆー自分はどうなんだよ、ええ?」
「さぞご立派な人生設計でもあるってぇーのか」
【レイコ】
「……アンタ、ソレ本気で言ってるの?」
ふとその時、レイコが視線を下に落とした。
吊り上がった目に……ほんの少しの憂いをにじませながら。
【俺】
「え?」
【レイコ】
「アンタも見たでしょう、今日」
「ウチのお母さまとお婆様」
「……アレがそのまま、未来のワタシの姿よ」
「三〇年後と、六〇年後の、ね……」
【シズク】
「レーコさん……」
シズクが心配そうな目をしてレイコを見る。
【レイコ】
「だいじょうぶよ……」
レイコはシズクの小さな肩にポンと手をやってから、再び俺へと視線を戻した。
「ワタシ、家族に相談したこともないわよ」
「高校に行きたいなんて」
【俺】
「そうなの……か?」
【レイコ】
「ええ」
「お母さまは中卒、お婆様にいたっては小学校しか出てないからね」
レイコはフッと自嘲の笑みを浮かべる。
「言ったところで、答えは目に見えてるわよ」
「きっと〝お前にはそんなことよりやるべきことがあります〟でしょうね……」
「いつものことだわ」
そうつぶやくレイコの目は、まるで人生に倦み疲れた老婆のようだった。
きっとその細い肩には、俺などの知るよしもない重荷がのっているのだろう。
【俺】
「………。………………。………………………。」
俺は何も言えず、ただただ暗闇の中、花火で彩られるレイコの横顔を見ていた。
【レイコ】
「まあ、でも――」
重い空気を嫌ったのか、そこでレイコは声色を変えた。
「だからといって、悪いことばかりではないけどね」
「……アナタとずっと一緒にいられるのだし」
言ってアツシに熱っぽい目を送るレイコ。
【アツシ】
「お、おう……!」
照れて頬をかくアツシ。
……なんだよ、ここにきてノロケかよ。
俺は途端にケッとひがみモードにはいる。
ソレを察してか、レイコはさらに畳みかけてきた。
【レイコ】
「ふふん」
「アツシが一八になったら、その日の内に結婚してやるわ」
【シズク】
「うわぁー、ステキですぅー!」
「式には絶対呼んでくださいね、レーコさん!」
【レイコ】
「モチのロンよ」
そこからはレイコの独壇場だった。
やれ盛大な式をあげるだの、子どもは何人欲しいだの言いだし、シズクの黄色い声援も相まってか大演説である。
アツシなんて途中からゆでダコのように真っ赤になりながらウムウムとうなずくだけの機械と化していた。
ただそんな中――、
【俺】
「ん?」
【ミコト】
「………。………………。………………………。」
ミコトだけは何やら浮かない顔をしている。
俺はそれが気になり、声をかけようとしたが――、
【俺】【ミコト】【アツシ】【レイコ】【シズク】
「「「「「 ! 」」」」」
ひときわ派手な打ち上げの音。
大トリを飾る、最後の花火が咲いたのである。
俺たちはいっせいに夜空を仰ぎ、火の粉の一粒が闇に溶けきるまでを見届けた――。




