047
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18時23分
八尾姫神社付近
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【ぼくくん】
「ぼくは幼馴染の浴衣姿を見て大騒ぎした、オッペケペーのオタンチンやろーです……」
アレから俺は。
ミコトに一発、渾身の右ストレートをキメられて、ようやく正気を取り戻した。
その頃にはすでにちょっとした人だかりができていて、とんでもない醜態を晒してしまったことになる……。
何よりおそろしかったのは、俺がそーしてバグりつつも〝ミコトと二人で祭りにきていた〟という事実が、あっという間に――それこそほんの一〇分とたたぬ内にあちこちへと拡散したらしく、祭りの会場である八尾姫神社に近づくにつれ、俺たちは老若男女を問わぬ島民からやんややんやと囃し立ての集中砲火を浴びなければならなかった。
【ミコト】
「あ、どーも! コンバンハー!」
「ええ、ええ! そーなんですよ!」
「二人で! 二人で一緒に来てるんです!」
「アハハハハハハハ!」
ミコトなんてもうほとんどヤケクソである。
好奇の視線もなんのその、なんなら目があった相手にはむしろ自分から近づき、その都度俺の腕をグイっと引いてナゾのあいさつ回りを展開していた。
【俺】
「あ、おい!」
「痛てーよ! 痛てーって!」
「んなひっぱんな!」
【ミコト】
「うっさい!」
「誰のせいでこーなったと思ってんだ!」
【俺】
「もしかして、だが……俺のせいか?」
【ミコト】
「もしかすんなこのバカ!」
【俺】
「ギャー⁉」
……とまあ、そんなこんなで。
俺たちは石段をのぼり、神社へと向かっていく。
人口数百人の小さな島とはいえ、その一同が集まるともなると熱気・活気は相当なモノ。俺はまだ会場に着いてないにもかかわらず、そこら中から漂うムワッとした情熱のほとばしりを覚えずにはいられなかった。
ちなみに同じように神社へと向かう中には、観光客らしき人の姿も少数ある(平日だが早めの夏休みでも取っているのだろうか?)。
やはり彼ら彼女らはよく目立つ。
残念ながら、どこにいってもヨソモノというのはよく目立ってしまうのだ。
ソレは俺も、島に戻って最初の一週間くらいでつくづく痛感している。
【俺】
「お――」
石段をのぼりきり、鳥居が見えてきた。
その向こうは別世界。
きっと空の上から眺めれば、あの一画だけはさぞ明るい電飾で満ちていることだろう。
常時流れっぱなしのスピーカーからは、俺でも知っている夏の名曲たちが太鼓の音と一緒になって夜の空気を震わせていた。
【ミコト】
「あ、おいちょっと――」
そのまま鳥居をくぐろうとした時である。
「真ん中。真ん中は通っちゃダメなんだって」
ミコトがはたと俺を制止した。
【俺】
「へ? そーなのか」
【ミコト】
「そーなんだよ」
「神さまの――八尾姫さまの通り道だからな、真ん中は」
【俺】
「じゃーどこ通ればいいんだよ」
「右か? 左か?」
【ミコト】
「真ん中じゃなきゃどっちでもいい」
「それで、通る前は軽く一礼」
【俺】
「ふぅん……」
「あ」
「そーいやソレ、昔も教えてもらったな」
【ミコト】
「ようやく思い出したのかよ……バカ」
何故だかそっぽを向くミコト。
そして続けざまに、
「ほら」
「……こうやるんだよ」
ぺこりと軽くお辞儀をする。
ほんのりと赤みが差した小麦色の頬が、やけにまぶしく感じられた。
【俺】
「お、おう」
「これでいーか?」
俺はドギマギしながら見様見真似で一礼する。
【ミコト】
「うん。よし」
「で、そしたらアッチで手を洗って口をゆすぐ」
【俺】
「へいへい」
鳥居をくぐって左側にある手水舎で言う通りにした。
【ミコト】
「順番は左手、右手をやってから口」
「で、その後にもう一回左手な」
「最後にひしゃくを立てて柄を洗うのも忘れるなよ」
ミコト曰く、これで身を清めたことになるのだとか。
さすが神社の跡取りだけあってよく知ってる。
【俺】
「うし、終わったぞ」
俺は濡れた手から水滴を振り払う。
【ミコト】
「うん、こっちも終わった」
ミコトの手も同様に水でテカテカと光っていた。
【俺】
「………。………………。………………………。」
【ミコト】
「………。………………。………………………。」
俺たちは黙ったまま見つめあい、どちらからともなく手を握る。
清めの水を纏ったミコトの手は、ほんの少しだけ、ひんやりとしていた――。




