046
*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*
7月19日(月曜日)、18時00分
帯渡島本道、ナナマート北店付近
*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*
〝賭け〟と言えば賭けだったし、
その賭けに〝勝った〟と言えば勝った……ことになるのだろう。たぶん。
今日は七月一九日、月曜日。
瑞古還シの祭りの日だ。
とはいえ平日であることに変わりはなく、いつも通り学校に行って授業を受けてから帰宅する。
そこからは自分の部屋でただひたすらにソワソワとソワソワでソワソワした時間を過ごし、やっとのことで夕方になったので家を出てきた。
……正直、何かをやらかした気がしてならない。
忘れもの、だろうか? いや、だが財布やケータイもちゃんと持ってるし、身なりだって整えてきた。
こうして待ちあわせの場所にも時間通り着いたんだし――
【俺】
( 待 ち あ わ せ! )
その甘美にして危険な単語は容易に俺の脳ミソをどーにかしてしまう。
ましてやあとに「誰との?」とか「何の?」なんて続けた日にゃ卒倒もんだった。
鼻どころか全身の穴という穴から血を噴き出して悶絶死してもおかしくはない。
……それでも。
それでも、あえて質問に答えるならこうだった。
待ちあわせ、である。
ミコトとの、
デートの。
【俺】
(ふぅおおおおおおおおおおおっ!)
(ふお、ふぅおおおおおおおおっ!)
デートなんてオオゲサな、という向きもあるかもしれないが、なにせ狭い島である。
こーした日に、二人でいるということは、そりゃあもう、大変に深淵にして遠大な声明を出した、と捉えられてしまうのだ。
……おそらく、明日から当分の間は島中で話のネタにされるだろう。
事実、アツシもレイコと付き合いたての頃は散々に冷やかされたと言っていた。
だからこそ、そうした事情を俺よりよほどよく知っているにもかかわらず、OKをくれたミコトには、本当に、頭が上がらない思いだった。
【???】
「ナ、ナタロー……?」
どうやらそのミコトが来たらしい。
俺は背後からのおずおずとした声に振り返る。
するとそこにいたのは、
【ミコト】
「お、おまたせ……!」
浴衣ァァァァアアァァァァアアアアアアアッァアアア!
アアアァァアアアアァァアアアアアアアァァアアアア!
アアァェエエイイイゥウォエオアアアアアアアアアッ!
【俺】
(なんてこったァ……!)
(ジーザス……ジーザス・フ●ッキン・クライストッ!)
そーきたか!
そーきやがったか、こんチキショーめェーッ!
めェ~! めェ~、めェ~ッ!(ひつじさん)
【ミコト】
「お、おい。なんだよ……?」
ミコトが着てきたのは濃い藍色の生地に白線で縁取られた水色の花が咲く浴衣だった。
これぞジャパニーズ・トラディショナル……ッ!
フジヤマハラキリワッショイショイのとてつもねェーインパクトだァーッ!
【ミコト】
「や、やっぱりヘンか……?」
赤らめた顔でそっぽを向くミコト。
そのまま、繊細い声でつぶやく。
「はじめてなんだよ、こーいうの……」
ふぉおおおおおおおおおおおおおおっ!
おっ! おっ! おっ!
おぉぉおおぉぉぉおおおおぉおおおっ!
お前は俺を殺す気か⁉
このままじゃ俺の方こそヘンになっちゃうよ!
【ミコト】
「なんか言え、よな――」
━【 俺(カットイン演出) 】━━━━━━━━
「 なんか言え⁉ 」「 なんか言えだとぅ⁉ 」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【ミコト】
「ひゃあ⁉」
【俺】
「んなもん決まってんじゃねーか!」
「サイコーだよ! サイコー!」
「ひかえめに言ってもサイコーのフ●ッキン・グッドだね!」
「どっからどー見たってエクセレントでワンダフォーなマーヴェラスだ!」
「メイド・バイ・神サマかよ⁉」
【ミコト】
「な――」
【俺】
「ああ俺は今、後悔している!」
「モーレツに後悔している!」
「どーして東京でカメラを買っておかなかったんだと!」
「この際、使い捨てでもいい! 〝写ルンです〟でかまわねーさ!」
「そしたらこの場でフィルム丸々一本使い切ってでもお前のその可憐で清楚で涼やかな姿を余すとこなく激写しただろーに!」
「俺はなんてバカなんだァァァァアアアァアアア!」
「ウワァアアアァアアアアアアアアアアアアアッ!」
【ミコト】
「おいバカ! さわぐな、やめろ! 見られてる――」
【俺】
「 誰かっ! 」
「 誰か俺を殺してくれェーッ! 」
「 ぬわぁああああああああああああ~ッ!!! 」
暮れなずむ島の一画に、俺の魂の叫びが響き渡った――。




