043
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13時09分
帯渡島小中学校、校舎裏
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【令子】
「見た、ですって……?」
令子の吊り上がり気味の目がカッと開かれる。
「あの子を……?」
【雫】
「はい……」
雫は視線を落として肯定した。
【令子】
「………。………………。………………………。」
【雫】
「………。………………。………………………。」
長い沈黙が両者の間に舞い下りる。
ソレはまるで、粘度を持った瘴気のようだった。
少しずつ少しずつ身体に絡みつき、やがては思考を蝕んでいく――。
【令子】
「……フフ、フフフ、フフフフフフフ」
令子は唇の端を歪め、嘲りの笑みを浮かべようとした。
「何を言うかと思えば……」
だができなかった。
精緻な造りの顔は、引きつったように強張るのみ。
「バカね、シズク。そんなワケないじゃない」
それでも令子は意志の力だけでどうにかそう言い切った。
【雫】
「ほ、ほんとーなんですよぉ……!」
「アレは絶対にユイだった………………と思います」
雫も内心では認めたくなのか、やや尻すぼみ気味である。
「そりゃあ暗かったし、ボサボサに伸びた髪で顔もちょっと隠れちゃってたけど……」
「でも、目鼻立ちとかの感じは、どう見たってユイでした」
【令子】
「………。………………。………………………。」
令子は一度ゆっくりと深呼吸をし、
「あのねえ、シズク」
そこから努めて柔らかい声を出した。
「よく考えてごらんなさい」
「もしアナタの言う通り、あの子が本当に生きていたとして――」
「それならなんで、戻ってこないの?」
【雫】
「あ」
【令子】
「どうしてそんなふうに隠れ続けているというの?」
「しかも、アナタが見たという場所は南地区でしょう」
「全然関係ないじゃない。あの場所ならともかく」
【雫】
「それは、たしかに……」
「ウチも、ちょっとおかしいなって思ってたんですけど……」
【令子】
「でしょう?」
「あの子さえ戻ってくれば、藤代の家だって静かになるというのに……」
「なのになんで、戻ってこないの?」
【雫】
「で、でもでも!」
「レーコさんだって言ってたじゃないですか……!」
「他にも見たヒトがいるって」
「村会でもそういうウワサがあるって――」
【令子】
「……きっと何かの見間違いよ」
「実際ね、今ソレとはベツに不審者が潜んでるのはたしかなの」
【雫】
「……例の学校とか村役場を荒らしてたヤツのことですね?」
【令子】
「ええ。一昨日の夜は図書館にも入り込んだらしいわ」
「お婆様はもうカンカンよ。お母さまも頭を抱えていたわ」
【雫】
「そうだったんですか……」
【令子】
「だからね、シズク」
「アナタが見たっていうのも、他の人が噂してるのも、単にソイツを見間違えただけのことじゃないかしら?」
【雫】
「で、でもぉ――」
【令子】
「きっとそうよ」
「人間の想像力は時に壁のシミだって魑魅魍魎に仕立て上げるわ」
「……あれからもうすぐ一年だもの」
「アナタや他の人が、不審者をあの子と勘違いしても不思議じゃないわ」
【雫】
「で、でもレーコさん」
「ウチ、なんだかもうホント、こわくって……!」
【令子】
「……わからないからよ」
「わからないからこそ、こわくなるのよ」
「いつだって、理解の追いつかないことには恐怖が伴うわ」
「だから、ね。シズク――」
令子は雫の小さな肩に手を遣り、物々しい声色で切り出した。
「……確かめに行きましょう」
「あの場所に」
「〝八尾姫さまのお臥所〟に」
「瑞古還シはもう――明後日なんですから」




