042
【俺】
「ふぅ……」
念のため、俺はもう一度タックンのメールを最初から読み直した。
やたらと抽象的だったり婉曲的だったりな表現が多かったが、間違いない。
タックンはハツホをふったのだ。
俺の解釈が正しいなら、理由は都会で新しい彼女ができたからである。
……てかタックンさぁ。
結論は先に書こうよ……。
読むのすげーしんどかったよ……。
アメリカだとマジで嫌われるからな、そーいう書き方……。
まあ、ソレはさておき、
【ハツホ】
「 」
俺はようやくコイツのむごたらしい有様に納得がいった。
つまりはこのハツホ――先ほどからうつろな目で口からヨダレがダラダラのおねーさま。
現在絶賛失恋+傷心中である。
まぁ無理もない。
あんだけ毎日電話なりメールなりでイチャついてたとこに、いきなりのこの強烈なアッパーカットだもんなぁ……。
そりゃあ、ノックアウトも必至でしょ。
【ハツホ】
「 」
【俺】
「………………………。」
俺は。
俺と瓜二つの顔をした従姉の、傷つき迷えるその姿を見て。
俺は、俺は――
【俺】
「 ブワァァアアアアッハッハッハッハ! 」
爆笑した。
「 ホヒヒ、ホヒヒィ! ホヒヒヒヒッ! 」
腹の底から、爆笑しまくった。
「も、〝木綿のハンカチーフ〟女でげそ!」
「この、平成の世に! 2000年を控えたこの時代に!」
「都会に男を取られた、ハンカチーフ女がいるでげそーっ!」
「アーッハッハッハッハハハ!」
「ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャホヒャヒャ!」
「……ぼ、ぼくを! ぼくをゆるちてー!」
「ウヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャ!」
「お、おなかいたい!」
「ポンポンいたいよぉー!」
「オヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャヒャヒャヒャヒャ!」
なんならその場で倒れ込み、ゴロゴロと転がりながら腹を抱えて笑いまくってやった。
コイツにはさんざんドーテーだのなんだのバカにされてきたからな。
こんくらいやってもバチはあたるまいよ、うん。
【俺】
「オラァ! 最後のわがままねだるんだろ⁉」
「木綿のハンカチーフが欲しいんだるるぉ⁉」
「ナーッハッハッハッハハハハハハハハ!」
調子に乗り、俺はゲシゲシとハンカチーフ女を足蹴にしていたが、
しかしそこで、
【ハツホ】
「………。」
いきなり無言でぬおんと立ち上がるハツホ。
【俺】
「お、おおん……⁉」
やばい。
さすがにキレたか?
俺はそう思いあせったが――ちがう。
そうではない。
【ハツホ】
「………………。」
ハツホはおもむろにソファで仰向けにゴロンと横になった。
しかもあろうことか、大股開きで。
本人曰く、三枚で千円いくかいかないかの安物パンツを惜しげもなく〝コンニチワ!〟させながら。
……え?
なになに。突然どーしたの? なにしてんの、コイツ。
ハツホの予想外の行動に俺は戸惑いを隠し切れなかったが、しかしながらヤツが次に口にした言葉は、大気圏外まで一直線にかっ飛ぶような、さらなる衝撃的なソレだった。
【ハツホ】
「……もーこうなったらキサマでかまわん」
「 抱け 」
【俺】
「……はぁ?」
【ハツホ】
「聞こえなかったか?」
「抱け、と言っている」
【俺】
「……念のために聞くがソレは性的な意味でか?」
【ハツホ】
「念のために答えてやるがコレは性的な意味でだ」
【俺】
「………。」
【ハツホ】
「………。」
【俺】
「………。………………。」
【ハツホ】
「………。………………。」
【俺】
「………。………………。………………………。」
【ハツホ】
「………。………………。………………………。」
【俺】
「……いやいやいや、」
「いやいやいやいやいや」
「なに言ってんだお前。頭おかしいんじゃ――」
【ハツホ】
「 うるせぇぇぇぇぇぇええええええええええっ! 」
キ、キレた。ブチキレた。
いきおいよくガバっと飛び起きる。
そのまま〝ガシィ!〟とコッチの襟首掴んできた。
【ハツホ】
「こちとらなぁ!」
「来年までに卒業できなきゃヤラハタなんだよ!」
「ボロクソのクソミソにバカにされちまうんだよォォォオオオッ!」
【俺】
「知らねーよ!」
「むしろ知りたくもなかったよ!」
「……てかそもそもよく考えろ!」
「お前だって言ってたろ⁉ 散々言い続けてきたんだろ⁉」
「〝ない〟って!」
「お前とだけは〝絶対にありえない〟って!」
【ハツホ】
「……でーじょうぶだ」
「そのことならアタシに考えがある」
言ってハツホはテーブルに置いてあった白のビニール袋を取り出した。
……うわぁ、イヤな予感しかしねぇ。
「コレかぶれ、な?」
「頭からかぶれ、な?」
「そーすりゃお互い顔みなくて済むから――」
【俺】
「 どんなトラウマもんの初体験だよ! 」
なに考えてんだコイツ⁉
頭わいてんじゃねーか⁉
てかせめてかぶるんなら自分でかぶれよな!
その間に逃げっから!
【ハツホ】
「うっせぇぇぇえええええええっ!」
「いーから黙って×××だせ、オラァァァ!」
【俺】
「……ギャ、ギャアアアアアア⁉」
「た、助けて! 誰か助けてー!」
「犯されるー! レイプー!」
………。
………。………………。
………。………………。………………………。
結論を先に言おう。
俺はどうにか事無きを得た。
カホ叔母さんが虫の知らせで様子を見に来てくれたからである。
おかげで俺は助かったが……。
ハツホは死んだ。
殺された。
どうか迷わず成仏してほしい……。
合掌。




