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【俺】
「……おーい」
さんざん悩んだが、俺はとりあえず声をかけてみることにした。
「ハツホ~? ハツホおねーさま~?」
「生きてっか~? おーい……」
【ハツホ】
「 」
ダメそうである。
俺が医者だったら聴診器を外して目をつむりフルフルと首を横に振ってるとこだ。
いったい何があったんだろう……?
【俺】
「うーん……」
はてさて。どーするべきか。
ブラウスにロングスカートのエプロン姿なので、やはり休憩中と思われる。
んが。
あと一時間弱で仕事に復帰できるとはとーてい思えない姿だった。
ほとんど屍状態である。
となると、カホ叔母さんに伝えておいた方がいいか……?
【俺】
「なあ、」
念のため、俺はもう一度ハツホに声をかけてみた。
「体調でも悪いんか?」
「なんなら午後の仕事変わってやんぞ?」
「おーい……」
ゆさゆさゆさ。
とりあえず肩をゆすってみる。
が、ハツホはなされるがままで、こわれたオモチャのように首をガクガクさせるのみ。
【俺】
「どーしたんだよ、おい」
「せめて理由くらい言ってくれよな」
「じゃないと叔母さんにも説明しづれーし――」
と、その時だった。
【ハツホ】
「 」
【俺】
「お、おおん?」
ハツホがぬぅっとこちらに手を向けてきた。
その手には。
ケータイが握られている。
ちなみにうつろな視線は依然として明後日の方向のままで、異様な圧力と雰囲気を演出するのに一役買っていた。
【俺】
「ケータイがどーしたよ?」
「……うお、っておい!」
ボトリと。
ハツホの手からケータイが落ちた。
【俺】
「いや、何してんだよお前」
「ほれ。ちゃんと持てよな」
俺はケータイを拾い、ハツホに差しだすが、
【ハツホ】
「 」
何故だかソレを受け取らない。
この時になってようやくギギギッと音がしそうなほどゆっくり俺の方を向き、
【ハツホ】
「 」「 」
ものそい小さい声で何事かつぶやく。
【俺】
「あん? なんだよ。何つってんだ」
【ハツホ】
「 ヨ 」
「 メ 」
【俺】
「はぁ? ヨメ?」
嫁? Wifeのこと?
あ、ちがう。単に〝読め〟っつってんのか。
【俺】
「読めって……もしかしてコレか?」
「ケータイのことか」
【ハツホ】
「 」
首をカックンと落とすハツホ。
首肯と判断した俺は、とりあえず言われた通りにしてみる。
ちなみにコイツと俺はあろうことか使ってる機種まで同じで、mova、F501iである。
俺がコレにした決め手は単に発売から半年近くたって安くなってたからに過ぎないが、コイツは発表当初から目をつけていて、タックンの受験後に一緒に内地まで行って契約したんだとか。
……正直、コイツとかぶるんだったら多少高くても他の機種にしておくべきだったと後悔している。
【俺】
「んんん?」
俺はmovaのモノクロ液晶を覗き込んだ。
するとそこには、
【タックン】
『僕の愛した真夏の太陽へ』
からはじまる、長い、長ーいメールが二〇通くらい届いていた。
ちなみにF501iでは送信者のアドレスしかメール画面に表示されないので、これらを〝Fromタックン〟と判じたのは俺の推測だが、まぁまず間違いなかろう。
よくもこんだけ長いメールを書き連ねたモンである。
F501iだと一度のメールで二五〇字しか打てない中、タックンはあの手この手を駆使した詩的で素敵な文章で訴えかけていた。
ソレはやたらと長くて難解で、正直最初はちょっと何を言ってるのかよくわからなかったが、
【タックン】
『僕たちの恋はセピア色に色あせてしまったんだ』
『そう、イカ墨が語源のセピア色に・・・』
あたりでようやく俺は事情を理解する。
――コレ。
お別れのメールである。
【ハツホ】
「 」
コイツ、ふられやがったんだ。
タックンに。




