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7月17日(土曜日)、12時52分
帯渡島本道、斜崎家付近
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今日は第三土曜なので半ドンである。
午前中だけで授業が終わり、俺は空きっ腹を抱えながらミコトと一緒に下校していた。
【ミコト】
「んじゃナタロー。明日は遅れんなよ」
【俺】
「わーってるって。午後からだろ」
「ちゃんと行くって」
瑞古還シの祭りまで残すところあと二日。
明日、日曜はその準備で、俺も手伝うのを約束していた。
【ミコト】
「それじゃ、また明日な」
【俺】
「おう。また明日ー」
叔父さんたちの家の前で別れる。
別になんてことない、ごくごくいつも通りの光景だ。
――ここまでは。
【俺】
「………。」
ドアに手を掛けてから数秒。
俺はつい、気になって見てしまう。
ミコトの方を。
【ミコト】
「………。」
あっちもあっちで同じだったらしく、はたと足を止めこちらへ振り向いたとこだった。
【俺&ミコト】
「「あ……」」
結果、ばっちりと目が合う。
視線と視線の正面衝突だ。
大事故である。
重傷者がでかねぬほどの大事故だ。
【俺&ミコト】
「「あ、あははは……」」
「「じゃ、じゃあなー」」
お互い顔を真っ赤にしながら、よくわからない別れの言葉を再び口にする。
そんな恥ずかしい真似を二度三度と繰り返してから、俺はようやく家の中へと入った。
【俺】
「ぬぅわぁぁぁあああああぁぁぁあああ!」
直後、両手で頭を抱え、ゆっさゆさと脳みそをシェイクしながら悶絶する。
よくわからないが、こう……自分が世界で一番みっともない生きものな気がしてならなかった。
よくわからないが、こう……ミコトが世界で一番かわいらしい生きものな気がしてならなかった。
【俺】
「ぬわ、ぬわ、ぬゎぁぁぁああああんっ!」
あれから五日。
あれから五日、である。
ミコトのあの爆弾発言――『答え、自分の気持ち』から、すでに五日が経っていた。
【俺】
(〝自分の気持ち〟ってなんだよ!)
(〝自分の気持ち〟ってなんだよ!)
(しかも『納得がいった』⁉ 『確信に変わった』⁉)
(どーいうことなの、ねぇ⁉)
(ソレっていったいどーいうことなのよ⁉ おい!)
この五日間、俺は寝ても覚めてもこんな感じで、思考の堂々巡りを繰り返している。
もっと直接的な言葉を選ぶなら、ただひたすらにモヤモヤとモヤモヤでモヤモヤしていた。
【俺】
(いやー、もうね)
(あんなん言われたら確定でしょ)
(フォーリンラブだよフォーリンラブ!)
(どこまでも落ちてくしかねぇ!)
(ヒアウィーゴォォオウッ! ワーオ!)
と、俺の中のオプティミストが口泡飛ばして主張してくるが、一方でペシミストは物静かにこう反論していた。
【俺】
(いやいやいや……なワケないでしょ)
(カンチガイでしょ。例によって例の如く)
(今まで何度ありました? そーいうカンチガイ)
(あなた常習犯ですよねー? 何度もクサイめし食べちゃってますよねー?)
(だいたい、ついこの前も同じようなことして撃沈されてませんでしたー?)
(当のミコトさん本人からものそい低ーい声で否定されてませんでしたっけー?)
そーなんだよなぁ……。
でも、その割にはさっきみたいになんかいい感じになる時もあるし、その逆にまったくいつも通りなこともあるしで……ああ、もーワケわかんねえっ!
正直、できることなら誰かに相談したかったが、アツシはときメモの件で修羅場ってるし、レイコとシズクに関しちゃ論外だ。アレ以来、どーにもギスギスした感じになっている。
となると残るはミコトしかいないワケで――ってそれはもう本人じゃねえか!
聞けねーよ! 誰が当の本人に恋愛話を相談するんだよ!
んなもん過程をすっとばした告白みてーなモンじゃねーか!
【俺】
(ああ……!)
(こーいう時、誰か頼りになる先輩でもいればなぁ……!)
しかしソレは望むべくもない。
何故ならこの島には高校がない関係上、そうした年長者の大半は進学のために島を出ているからだ。
内地にいって、そのままそっちで就職なんてのも最近じゃよくある話らしい。
まあ、そりゃそーだろう。
ベツに内地のすべてを肯定するワケじゃないが、ソレでもこの島にないモノが向こうにあるのは事実である。
もちろん。アッチにないモノがコッチに、ということだってあるだろうが――
【俺】
(待てよ……?)
その時、俺のニューロンが発火する。
〝内地〟というキーワードで連鎖的に思い出したのだ。
(一応……いるにはいるな。年上が)
(この島に。ていうかこの家に、一人)
(自称〝恋愛上級者〟の看板かかげたヤツが)
ハツホである。
斜崎初穂、一九歳。
内地に行った彼氏と現在絶賛遠距離恋愛中のそのヒトである。
【俺】
(いや、でもなぁ――)
しかし俺はすぐさま思い直した。
ソレもそのはず。
こっちに戻って早二週間がたつが、その間、俺はアイツに散々〝彼女いない歴=年齢〟だの〝ドーテー〟だのとコケにされていた。
ソレもやたらと高い上から目線で。
どうもアイツは人をこき下ろすことで〝だから自分は大丈夫だ〟って安心してるみてーなフシがあんだよなぁ……。
そんなヤツがちゃんと相談に乗ってくれるかというと、正直、果てしなく見込みは薄かった。
【俺】
(今日は土曜だから……アイツはSAKIか)
(そろそろ休憩だし、もう戻ってっかもなー)
SAKIはこの家と隣接しているので――というより元々、斜崎家の敷地の一部を使って開いた店なので、休憩中、ハツホはいつもこっちに戻って来る。
もしかしたら鉢合わせするかもしれない。
というか、ヘタをすると先のミコトとのやり取りを一部始終見られてた可能性すらある。
【俺】
(だとしたらめんどくぇなあ……)
俺はそんなことを考えながらリビングの扉を開いた。
すると――――――そこには。
【ハツホ】
「 」
【俺】
「は……?」
今まさに、思い描いていた人物がいた。
【ハツホ】
「 」
ハツホである。
俺の従姉の、自称おねーさまである。
やはり、休憩で戻って来ていたようだ。
【ハツホ】
「 」
ただし――口は半開きで目はうつろ。
プリン頭の髪はバサバサで、あろうことか口からボトボトとよだれがこぼれ落ちてる。
見るからに。
見るからに、真っ白に燃え尽きた的な、なんだかやべー感じがプンプンと漂っていた。
間違っても、恋愛相談なんかしちゃいけなさそうである。
えっ。
なにコレ……?




