037
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17時23分
帯渡島小中学校、校舎裏
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で。
そんなこんなで。
今にいたる。
今。
放課後、否応なしに連行され、人払いのためかしばらく監禁された挙句、校舎裏で彫刻刀を突きつけられている今この状況だ。
【レイコ】
「いい?」
「ちゃんと質問に答えなさい」
「でないと……刻むわよ」
何を、とは間違っても聞けない雰囲気だった。
しかも悪いことに、レイコの手にしているのは三角刀。
V字の鋭いエッジを持ったアレである。
その先端が先ほどから執拗に、俺の首すじの上をスリスリと行ったり来たりしていた。
【レイコ】
「じゃあ、答えなさい」
「 〝フジサキさん〟って誰? 」
やっぱりソレかよ!
イヤな予感的中である。
要はコイツ、早とちりしてアツシの浮気を疑ってるのだ。
ゲームなのに。相手はゲームのキャラクタの話なのに。
……こーなったら仕方ない。
ときメモを貸す際、アツシには『誰にも言わない』と約束しちゃいたが、さすがにレイコがこうも疑いだした以上、ホントのことを話さざるを得ないだろう。
【俺】
「……っつーことだって!」
「つまるとこゲームだゲーム!」
「実在しないキャラクタの話!」
なんだかまるで俺の方こそ浮気を必死に弁明してるみたいな絵だったが、そんなことを気にしている余裕はサラサラなく、俺はただただ死に物狂いで釈明を続けた。
やがて、
【レイコ】
「……ふぅーん」
と言ったきり俯くレイコ。
【レイコ】
「………。」
「………。………………。」
「………。………………。………………………。」
長い、長ーい沈黙の果てに下された結論は、
【レイコ】
「なるほどね」
「よくわかったわ」
「 つまり、浮気じゃない 」
【俺】
「はぁ⁉」
どこをどう間違ってそうなった⁉
「いやいやいやいや!」
「お前、人のハナシ聞いてたのか⁉」
【レイコ】
「ええ、聞いてたわよ」
「ヒトのオトコをたぶらかす泥棒猫がいる」
「で、その猫をあのヒトに紹介したのがアンタ」
「そういうことでしょ?」
【俺】
「そういうことじゃねぇーっ!」
思わず腹の底から叫んでしまうが、考えもなしにそーした行動を取ると、こわいくらいに三角刀の鋭い刃が皮膚に食い込む。
「ゲームの話だぞ⁉ 現実じゃない話だぞ⁉ どーしてそーなる⁉」
【レイコ】
「ゲームかどうかなんて関係ないわ」
「あのヒトがワタシ以外の女に目移りしている」
「問題なのはソレだけよ」
「………。………………。………………………。」
「 絶対に、ゆるさない……っ! 」
うわぁ……。
コイツ。
嫉妬してやがる。
ガチで、嫉妬してやがる。
ゲームの女に。
ブラウン管の中の住人に。
ドン引きだよぅ……。
【俺】
「お、おおお、おちつけレイコ⁉」
「な⁉ な、な⁉」
【レイコ】
「あら、おちついてるじゃない」
「そうじゃなければ今ごろ辺り一面、血の海よ」
「この通り、手元には寸分の狂いもないわ」
【俺】
「ウソつけ! 怒りでブルブル震えまくってるじゃねーか!」
【レイコ】
「じゃあもうすぐ血の海ね」
【俺】
「こえーことを平然と言うな!」
【レイコ】
「ふぅ、ゴチャゴチャとうるさい男ね……」
ため息と共に視線を横へと移すレイコ。
コレで終わり……のはずがない。
単に、見張りに立てたシズクの方へ目をやっただけだ。
――見張り立てたシズク。
そう、この凶行はレイコの単独ではなかった。シズクと協力して事を運んでいる。
しかもコイツら、こわいことに異様に手慣れていた。
ちゃんと役割を分担して、逐一連携も取れている。
まるで、前にもこんなことをしてたかのように――。
【レイコ】
「まぁ、でもちょうどよかったわね」
シズクからアイサインを受け取り、再び俺の方へと向き直るレイコ。
「正直に言うけど……」
「ワタシね、昔からアンタのこと好きじゃなかったのよ」
……そりゃそーだろうよ。
好きな相手に彫刻刀を突きつけてくる女子なんて聞いたこともない。
おおかた、堅物のコイツにしてみれば、俺みたいなふざけてばかりのヤツは目障りなはずで――などと思っていたが、続くレイコの言葉は、俺の想像のはるか斜め上を突き抜けていた。
【レイコ】
「アンタがいると、アツシはワタシのことを見てくれないんだもの」
えええぇえええぇええええええっ⁉
そこぉ⁉ 怒りのポイント、そこなのぉー⁉
ていうかコイツ、そんな昔っからアツシに惚れてたんか⁉
でもって、あろうことか男の俺にまで嫉妬してるぅー⁉
どんだけ嫉妬深いんだよコイツ!
もーほとんどサイコじゃねーか!
パスッパスのおサイコさまだよ!
【レイコ】
「昨日だって、ホントはデートのはずだったのに」
アツシィィイイイイィイイッ!
お前、自分のカノジョほっぽりだして遊びに来てたんか⁉
お前はお前でどれだけ俺のこと好きなんだよ!
ほっぽりだすなよ! もっと大切にしてやれよ!
てかこの状況、よくよく考えれば大半がアイツが原因じゃねーか!
こんなモンスター野放しにしたままでときメモなんかやってんじゃねーよ!
このままじゃ俺にどきどきメモリアルが刻まれちゃうよ!
【俺】
「ま、待て待て待て待て!」
「悪かった! ホントーに、悪かった!」
「そーいう事情だったとは全然知らなかったんだって!」
「気をつける! 次から絶対気をつけるから! な⁉」
「アツシにもよく言っておくって! な⁉」
【レイコ】
「……本当に?」
レイコの細眉がピクリと持ちあがる。
【俺】
「ホントホント! 超ホント!」
「神様にだって誓えるね!」
まぁ俺の場合、両親ほど熱心じゃなかったが……。
「次からは、絶対こんなことしない!」
【レイコ】
「そう、そういうことなら……」
俺がほっとしたのも束の間、
「 でも残念ね 」
レイコの三角刀が再びキリキリと皮膚にめり込む。
「次はもう、ないのよ……!」
はぁああぁああぁああああ⁉
ちょっと待て!
コイツ本気か⁉ 本気でやろうとしてんのか⁉
【レイコ】
「大丈夫よ」
「ここならたいしたことないわ」
「少し派手に……血が出るだけ」
こわすぎる。
イヤすぎる。
完全に経験者の談である。
レイコは……本気だった。
本気で俺に、危害を加えようとしていた。
目を見ればわかる。
明らかに剥き出しの敵意を放つソレだ。
……さすがにここまで来ると、冗談ではすまされない。
コイツは明らかに越えちゃいけないラインを越えようとしている。
………。
………。………………。
………。………………。………………………。
ならば俺も。
容赦はしまい。
血の海だなんて――――――二度とごめんだ。
【俺】
「て、めぇ……!」
「いい加減に……しろよ……!」
【レイコ】
「っ」
俺がレイコの腕を取り、押さえつけようとした……その時、
【シズク】
「レ、レーコさ――」
シズクのあわてた声。
直後、
【ミコト】
「 レイコ。オマエ……何してるんだ? 」
現れるミコト。
その、目は――いつの日かのあの、皿のように見開かれた目だった。




