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7月11日(日曜日)、13時7分
斜崎家、那太郎の部屋
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【俺】
「さ、はいったはいった」
【アツシ】
「おう、じゃまするぞい」
今日は日曜日。
漁も休みということで、アツシが俺の部屋に遊びに来ていた。
【俺】
「やっぱ漁師も日曜は休みなのなー」
【アツシ】
「おう、ウチんとこはの」
「ただ土曜はバリバリ船を出しとるぞ」
【俺】
「へ? そーなの?」
「じゃあ昨日はお前も行ってたのか、漁」
【アツシ】
「そーじゃ。第二土曜じゃからのう」
「さすがに半ドンの時は学校じゃが……」
〝半ドン〟というのは土曜日にある午前中だけの授業のことだ。
俺からしてみればこれが中々にややこしい。
ていうか、多分今の日本で俺ほど土曜日に翻弄されてる十代はいないのでは、とさえ思ってしまう。
そもそも島を出た七年前の七月の時点では、日本全国どこの学校でも毎週半ドンだった。
んが、同年の九月から第二土曜が休みとなり、さらに三年後の一九九五年からは第四土曜も加わる。結果、今の〝隔週で半ドンと休みを繰り返す土曜日〟ができあがったんだとか。
その間ずっとアメリカにいて、土曜が全部休みだった俺にしてみれば、ややこしいことこの上ない制度である。
【俺】
「でも俺、あの半ドンの日の感じ、好きだったなぁ……」
「普段より早く帰れておトクっつーか、ワクワクするっつーか」
【アツシ】
「わかるのぉ」
「実際、土曜が休みでもただ日曜が増えただけみたいじゃからな」
【俺】
「だよなあ?」
「正直、昨日はちょっとさみしーくらいだったぜ」
【アツシ】
「ナタローは昨日、なにしとったんじゃ?」
【俺】
「んー? ただ店の手伝いしてただけだぞ」
【アツシ】
「SAKIか? でもおまえ、見かけんかったが――」
【俺】
「ああ、ちげーちげー。そっちじゃねー。叔父さんのほう、ナナマート」
ああ見えてケイジ叔父さんはナナマートの経営者である。
結構えらい人なのだ。
とはいえ、年中人手不足らしく、いつもクタクタになって帰って来るくらいだったので、先日同様、居候の俺が手伝いに志願したのだった。
【俺】
「んじゃ、そこ座ってくれよ」
「飲みモンと食いモンはこれな。好きにいってくれ」
【アツシ】
「おう、すまんな」
差し出したクッションに座り〝桃の天然水〟を手に取るアツシ。
「いやぁ、ミコトもこれればよかったんじゃがのぅ……」
何故だかニヤニヤ笑い出す。
……最近のコイツはミコトの話がでてくるたびにコレだ。
その割には聞いても何も答えちゃくれないので腹が立つ。
【俺】
「アイツもアイツでいそがしいんだろ。祭りの準備とかで」
瑞古還シは来週月曜。残すところあと八日だ。
今日はミコトんとこの家族や親せきだけで神社の掃除や道具の点検をしているらしい。
ちなみに。
例の俺のちいさなお友だちが〝コンニチワ!〟してしまった件だが、あの後ミコトはしばらく口すら聞いてくれず、まともに話してくれるようになったのは翌日の金曜からだった……。
【アツシ】
「ガハハハハハハッ!」
アツシが豪快に笑いだす。
「いやー、あん時のナタローはすごかったのう!」
「ムテキじゃ! まさにムテキのオトコじゃった!」
「それも漢字の〝漢〟のほうのオトコ!」
【俺】
「……うるへー」
「誰がこの年で好き好んで露出狂になっかよ」
「ありゃ事故だったんだ事故。不幸な事故」
「ソレ以上でもソレ以下でもねー」
【アツシ】
「 ガハハハハハハッ!! 」
よほどツボにはいったらしく、アツシはしばらく膝をバシバシと叩いていた。
楽しくて楽しくてたまらない。そんな感じである。
………。
………。………………。
………。………………。………………。
こんな姿を見てしまうと、
【サヤカ先生】
『特に中学クラスはね……ホントに、明るくなった』
先生のあの言葉が、俺にはますます疑わしく思えてしまう。
明るくなった。
俺が来てから。
であればその前は……暗かった?
コイツがか? いやアツシに限らず、ミコトにせよ、レイコとシズクにせよ……アイツらが、暗い顔してるなんて、まるで想像がつかない。
何かの勘違いなんじゃなかろうか?
そう思い俺は、
【俺】
「なぁアツシ、」
――もしかして、なんかあったのか?
――俺が島に戻って来る前に。
そう聞こうとした。
だが、
【俺】
「………。………………。………………………。」
寸前で思いとどまる。
……アツシの立場になって考えてみた。
俺がこっちに戻ってから早一週間。
話そうと思えば、いくらでも機会はあったはずだ。
だがアツシは何も言わなかった。
そういった気配すら感じさせなかったのである。
……ならば可能性は二つしかない。
話したくないか、話せないか、そのどちらかだ。
前者なら無理に聞いたとこでアツシにヤな思いをさせるだけだし、ましてや後者の場合は――俺に原因がある可能性があった。
アツシがどこまで俺の事情を知っているかはわからないが、もし知っていて今の態度だと仮定するなら……アツシの沈黙は、俺への配慮だ。気遣いだ。
……だから聞けない。聞くべきではない。
【アツシ】
「ん、どうしたんじゃ?」
【俺】
「……いや、なんでもねーよ」
「さ。んなことよりゲームしようぜ、ゲーム」
俺はつとめて明るい声をだし、そうもちかけた。




