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ふぁでぃす・ばでんでぃん! ~バッドエンドからはじまるループもの~  作者: 作一生一
ミズコガエシ編

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28/29

028

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 13時03分

 帯渡島(おびとじま)小中学校、プール横、更衣室前

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 

【ぼくくん】

「ぼくはみんなの共有物をばっちくしたうえに、ソマツなモノを露出した、ロクデナシのドスケベやろーです……」

 

 俺は生まれてはじめて、水着を着用したオトナに水着のままで叱られるという稀有(けう)な経験をしていた。

 

 ……なんらかの新しい扉が開きかねない経験である。

 

【サヤカ先生】

「ヒトのハナシ聞いてんのかオラァァァ!」

 

【俺】

「ひゃ、ひゃい!」

「聞いてまひゅ!」

「めちゃくちゃ聞いてまひゅ!」

 

 やはりサヤカ先生はこわい。怒ると、こわい。とんでもなくこわいのである。

 

 俺は嵐が通り過ぎるのを待つ仔羊(こひつじ)のように身を縮め、ガミガミと怒鳴り続ける先生のお説教を拝聴(はいちょう)していた。

 

 すでに給食の時間だが、ソレを()げたところでムダだろう。

 

 サヤカ先生の怒りという炎に油を(そそ)ぐだけだ。

 

 そんなことをしたら最悪、昼休みどころか五時間目まで食い込むかもしれない。

 

 今はただ、せめて給食にはありつけるよう、じっと耐え忍ぶ他ないのだ。

 

 俺はそう心に決め、まだまだ続くであろう説教に身構えたが……しかし、

 

【サヤカ先生】

「……はぁ」

 ふと、()きものが落ちたかのように脱力する先生。

「じゃー、もういーよ。いってヨシ」

 

【俺】

「え?」

 長期戦を覚悟していた俺にとって拍子抜けする展開だった。

「いいんすか? もう、行っちゃって? ……ホントに?」

 

【サヤカ先生】

「あらなーに? もっとたっぷり絞って欲しかったってーの?」

 

【俺】

「いやいやいや。まさか。そんな。メッソーもない。ホントに。ええ」

 

【サヤカ先生】

「だいたい、そろそろ戻んないと食べそこねちゃうじゃない。給食」

 

 おお、そこんとこは一応配慮してくれてたのか。

 

 なにせ初日からいきなり真空飛び膝蹴り二段返しをかましてくる先生である。

 

 てっきり、一度怒りだしたら我を忘れるタイプだと思ってたが……。

 

【サヤカ先生】

「なんたって今日の給食は瑞古草(ミズコソウ)の天ぷらでしょ」

「アタシ、好きなんだよねーアレ。漬けダレがまたサッパリしててさー」

 

 ……なるほど。

 

 どうやら個人的な事情も十二分に加味した上での判断らしい。

 

 まあたしかにウマいからな、アレも。

 

 瑞古草はホントに重宝(ちょうほう)な植物である。

 

【俺】

「んじゃ、そーいうことなら行きますね」

 

【サヤカ先生】

「あ、ちょっと待って」

 

【俺】

「へ?」

 

【サヤカ先生】

「うーん……」

 自分から呼び止めておいて何やら思案顔(しあんがお)の先生。

 だが、少しすると小さくうなずき、

「言うか言うまいかで悩ましいけど……まぁ、それでも言っておきましょうか」

 

【俺】

「はぁ」

 

【サヤカ先生】

「ナバタメくん。正直に言うとね、キミが転校してきてからというものの、先生の気苦労はちょっと増えました」

 

【俺】

「うぐぅ……それは、その……いや、そーですよね。すみませんです」

 

 まあ初日の脱走に加えて今日の暴走。他にも余罪はゴロゴロ転がってる。言い逃れの余地はない。

 

 俺は素直に頭を下げた。

 

 だが、

 

【サヤカ先生】

「ああ、ちがうのちがうの。まだ続きがあんのよ」

 

【俺】

「続き?」

 

【サヤカ先生】

「ええ。たしかに、先生の苦労は増えたんだけど……」

「でもそれ以上にね、みんなの顔が明るくなったわ」

 

【俺】

「え? そーなんですか」

 

【サヤカ先生】

「そーなのよ」

「特に中学クラスはね……ホントに、明るくなった」

 

 ()()()……?

 

 それも俺たち中学クラスが、か?

 

 どうにもひっかかる言葉である。

 

 島を出た七年前と比べれば、たしかに色々と変わっちゃいるんだろうが……それでも、今がトクベツ明るいとは思えない。

 

 というか、そこだけを聞いてしまうとまるで――俺が戻る前までは、あたかも()()()()みたいじゃないか。

 

【俺】

(いやいやいや……そりゃー、ねえだろ)

(アイツらがふさぎこんでるとこなんて想像もつかねーし……)

 

 俺が少し考え込んでいると、サヤカ先生がベシベシと肩を叩いてきた。

 

【サヤカ先生】

「まー、なんにせよね」

「そんな風にちゃんと(むく)われるんなら、コッチも苦労の甲斐(かい)があるってことよ」

「だからアナタには手を焼くと同時に、そこんとこでは感謝もしてるわ」

「ありがとね、ナバタメくん」

 

【俺】

「……んー、でも先生。俺ホントに、なんもしてないっすよ?」

 

【サヤカ先生】

「そんなことないって」

「アナタがいるだけで、クラスの雰囲気がよくなる……ま、ようはムードメーカーってことよ」

 

【俺】

「はぁ……そうですか」

 

【サヤカ先生】

「いやーホントねー、」

 おどけた声色を使うサヤカ先生。

「アナタも大人になればわかるだろーけど、こーして苦労がちゃんと報われるってのは、あんまりないことなのよー?」

「世の中、大抵の場合は無用・不要の苦労ばっかさせられちゃうんだからねー」

 

【俺】

「夢のないこと聞かせないでくださいよ……」

 

【サヤカ先生】

「この間なんてさあ――」

 

 と、まあ。そんなこんなで。

 

 俺はサヤカ先生からグチという名の薫陶(くんとう)を受けた後、更衣室に入って着替え、すぐさま教室へと向かった。

 

 今ならまだギリギリ給食に間に合う時間である。

 

 いい加減、腹も減ってたので、頭の中は食欲で満たされていた。

 

 ――だがその途中、

 

【俺】

「ん……?」

「レイコに……シズク……?」

 

 俺は二人の後ろ姿を見かける。

 

 外履きに履き替え、どこぞへと向かっているようだ。

 

 あっちに行くということは……校舎裏か?

 

 あんなところに、いったいなんの用だろう。

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