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ふぁでぃす・ばでんでぃん! ~バッドエンドからはじまるループもの~  作者: 作一生一
ミズコガエシ編

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 プール・ザ・デスマッチには最後の固有ルールが存在する。

 

 状況の膠着(こうちゃく)を防ぐため、終盤、一対一の直接対決になった場合のみ、タッチルールを廃止するというモノだ。

 

 この時だけは相手に触れることはおろか、進路妨害すら禁じられ、やれば即座に反則負けとなる。

 

 なので、この最終局面だけは――泳力勝負。

 

 純粋な、泳ぐ速さだけが勝利のカギとなるのだ。

 

 であれば当然、

 

【俺】

(クソ……! やっぱコイツ、(はえ)えな……!)

 

 ミコトに利がある。

 

【俺】

(ぜんぜん追いつけねぇ……!)

 

 聞けばミコトは先月行われた水泳部(といっても部員は一人だけだったらしいが)の引退試合でも、かなりいい線いったらしい。もう少しで、本選に出場できそうなくらいだったとか。

 

【俺】

(やべえぞ、こりゃ……!)

 

 実際、彼我(ひが)の差は露骨に点数に現れていた。

 

 レイコとシズクが脱落してから俺もさらに一点追加し、四点にまで伸ばしちゃいたが……ミコトはすでに八点。八点である。ダブルスコアの差をつけられていた。

 

【俺】

(……にしてもアイツ、)

 俺はゴーグル越しにチラッとミコトの方を見やる。

(なんであんな……()()()()()()()?)

 

【ミコト】

「 ~~~っ! 」

 

 ミコトはキャップとゴーグルをつけていてもなおハッキリわかるほど、憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべていた。

 

 そんな顔してすさまじい速さでクロールしてるので、ハタから見る分にはほとんど阿修羅(アシュラ)状態である。

 

 ……もしかして。

 

 もしかして、だが、

 

【小学生たち(おもに女子)】

「ジゴクに落ちろー! ロリコンヤロー!」

「くたばれー! ヘンタイー!」

「オンナの敵ー!」

 

 さっきから延々と続く、この()()()()()()ブーイングを()にうけているのだろうか……?

 

 だとしたら先のシズク戦、俺は思ってた以上に深ーい(ごう)を背負ってしまったのかもしれない……。

 

【サヤカ先生】

「はーい、残り三〇秒ねー」

 

【俺】

(げぇ⁉ マジかよ!)

 

 残り三〇秒。

 

 やばい。実質これがラストチャンスである。

 

 現在の俺たちの位置関係は、まるで二等辺三角形だ。

 

 プールサイドの中央に立つサヤカ先生を頂点に、俺とミコトが、それぞれ異なるプールの(はし)へと辿り着こうとしている。

 

 ここからでは、ボールを拾って戻るだけでギリギリだ。

 

【ミコト】

「っ!」

 

 やはりアイツもそう判断したらしい。ダメ押しとばかりにボールを一つだけ回収すると、(すみ)やかに先生の方へと泳いで戻る。

 

 ミコトがアレを自分のカゴへと入れれば……計九点。

 

 俺とは五点差となる。

 

 つまり、この差をひっくり返すには最低でも六個のボールが必要ということだ。

 

 幸いこの付近はカゴから離れているだけあって、未回収のボールがたくさん落ちている。なので入手自体は難しくない。

 

 だが。

 

 そこで再びこの勝負のゲーム性がキバを()く。

 

【俺】

(六個も抱えて泳ぐ……⁉)

(んなことして間に合うはずがねーよ!)

 

 両手がボールで(ふさ)がれたら、バタ足くらいしかしようがない。

 

 そうなると残り三〇秒弱ではまず間に合わないし、そもそも途中でボールを落とす可能性すらあった。

 

 あのミコトでさえ最後にボールを一つしか回収しなかった理由はソレに違いない。事実、今のミコトは片腕だけのクロール崩れで泳いでいた。

 

【俺】

(考えろ……!)

(考えるんだ、俺……!)

 

 俺はボールを拾いつつ、頭を必死に働かせる。

 

【俺】

(この六個を持ってかなきゃ勝ちはねぇ……!)

(けど、この六個をまともに持ってっちゃ、やっぱりそれでも勝ちはねぇ……!)

 

 となると求められるのは――()()()()()()()()()

 

 常識にツバを吐いて蹴りを入れ、非常識と手を取りノリノリで踊りだすような――そんな発想。

 

【俺】

(ハッ⁉)

 

 その時、俺は唐突に答えを見つけた。

 

【小学生たち】

「え……⁉ なんだアイツ、ナニしてんだ⁉」

 

 全力のクロールで泳ぐ俺を見てどよめくギャラリー。

 

 ()()()()()()()

 

 当然、そのためには水をかく二本の腕が不可欠である。

 

【小学生たち】

「ま、まさかアイツ――!」

 

 事実、俺はそうしていた。

 

 今、俺の手にボールは一つもない。

 

 だが、それでも俺は、六個のボールをしかと有していた。

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

【小学生たち(おもに女子)】

「ヤダァァアアアアア⁉」

「キッタナァァァアイ!」

「フケツゥゥゥウウウ!」

 

【小学生たち(おもに男子)】

「サイテーだ! アイツ、サイテーだ!」

「近年マレに見るクソヤローだ!」

「恥を知れ! 恥を!」

 

 四方八方から巻き上がる非難轟々(ひなんごうごう)の嵐!

 

 もちろんその中にはレイコとシズクは言うにおよばず、アツシすら含まれてるっ!

 

【俺】

(ヒュ~ッ! やっちったァアァアアアーッ!)

 

 だが頭の中がドーパミンでドパドパの俺はそんな抗議もなんのその!

 

 ボールでモコモコになった海パン姿で魚雷のように水中を泳ぎ続ける!

 

【俺】

(俺はなァ……!)

(ゲームの仕様と! 開発者の意図を完全に理解した上で!)

(その上で! その裏をかくのが大好きなんだよォォォォォーッ!)

 

 実際、この作戦は効果テキメンだった。

 

 なんの(かせ)もなく突き進む俺の腕は、いつしかミコトに追いつき――いやそれどころか追い抜き、先にサヤカ先生の(もと)へと辿り着く!

 

【俺】

「 ダァーッシャァアアアッ!! 」

 

 勝利を確信した俺はプールの床を蹴り、いきおいよくプールサイドへと(おど)りでたッ!!!!

 

 ………。

 

 ………。………………。

 

 ………。………………。………………………。

 

 突然だが、ここいらでちょっと流体力学にまつわる話をしたいと思う。

 

 昔、父さんから聞いた話だ。父さんはハリウッドのB級映画スタジオを中心に脚本家として活動してたので、世界観づくりなどの関係上、その手の知識が豊富だった。

 

 そもそも、である。

 

 どうして水泳選手というのは、あんなに身体にピッタリな水着をつけてるのか?

 

 その答えは単純。流体力学のせいである。

 

 普段、俺たちが靴底(くつぞこ)で地面との摩擦(まさつ)を感じるように、水=流体と人体との間でも、泳いでる限りは常に抵抗が生じている。

 

 この抵抗がそのまま減速となるので、水泳選手たちは少しでもそれを抑えるべく、ああしたピチピチの水着を使ってるのだ。

 

 ……ではここで問題。

 

 前述の通り、俺の水着は六個のダイブボールをムリヤリにねじこんだので、モコモコだった。モッコモコの、ビッチビチだった。ハタから見る分には、カボチャパンツをマッシヴに進化させたようなフォルムである。

 

 この形状。流体力学的な抵抗が大きいか否か?

 

 言うまでもなくデカイ。クソデカイ。

 

 まあコンマ一秒を争うワケではないので、泳ぐのにさほど支障はなかったが……それでもその抵抗は、確かにそこに存在していた。

 

 では次の問題。

 

 このクソデカ抵抗を前提とした上で、プールの床を蹴り、いきおいよくプールサイドへと(おど)りでたとしたら……その時、いったい何が起こり得るのか?

 

【ミコト】

「ウ、」

 

 結論から言おう。

 

 ()()()()()()()

 

 それはもう、腰から足首の先まで、キレイにスッポリ脱げ落ちた。

 

 まるで水と空気の界面に見えざる手でもあったんじゃないか、ってくらいにズル脱げだった。

 

【ミコト】

「ウ、ウ、」

 

 となれば当然。

 

 俺の()()()()()()()が、サンサンと降り(そそ)ぐ日の下で、なんの気がねもなしに "Hello, world!" してしまう。

 

 それも。

 

 よりにもよって、

 

 

 

【ミコト】

「 ウワァァァアアァッァァアアアッ⁉⁉⁉⁉⁉⁉⁉ 」

 

 

 

 まさしく今、タッチの差でプールサイドへと辿り着いたコイツ(ミコト)の目と鼻の先で、だ。

 

 ………。

 

 ………。………………。

 

 ………。………………。………………………。

 

 俺は死んだ。

 

 殺された。

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