026
【レイコ】
「あんのヘンタイ……!」
レイコが額に青筋を走らせブチキレていた。
どうやら俺がアツシをハメたのがよくなかったらしい。
そーいうのを見ると〝やっぱコイツらホントに付き合ってんだなぁ……〟としみじみ思う。
【レイコ】
「シズク! 次は絶対にアイツを片づけるわよ!」
【シズク】
「はーい!」
【小学生たち】
「やっちゃえー、レイコさーん!」
「そんなヤツ、やっつけちゃえー!」
意外なことに、レイコは下級生たちに人気がある。
というのも、昔から年下に対する面倒見がいいのだ。
実は俺たち五人の中でもシズクだけは学年が一つ下であり、そのシズクが一番慕ってるのがアイツというのが何よりの証左だろう。
おかげでプールサイドからはレイコへの声援と、そのレイコから直々に敵認定された俺へのブーイングが飛び交っていた。
だが……残念だったな、小学生たち!
俺はこーいう逆境でこそ燃える男なんだよォー!
【俺】
「ハーッハッハッハ!」
一目散にダイブボールを取りに行く俺。
アツシにかまってた関係上、その間シズクに一点リードされたようだが……今ならまだ挽回できる!
なにせレイコもシズクも泳ぎに関しちゃフツーだ。ミコトや俺は言うまでもなく、アツシと比べても一枚落ちる。
【俺】
(ヒャッハー! これなら余裕だぜェー!)
だがそう思っていた矢先、
【レイコ】
「よし、やっと取れた……!」
離れた位置にいたレイコがボールを高々と掲げ、シズクに大声で呼びかける。
「シズク! これでワタシたちの勝ちよ!」
……は?
ナニ言ってんだアイツ。
確かに現状シズクが二点、レイコがあのボールをカゴまで戻したとして同じく二点、対する俺はまだ一点だが……一点差くらいなら余裕で巻き返せる。
だというのに、何故……?
その疑問はレイコの次の言葉で氷解した。
【レイコ】
「 あとは徹底的にソイツを妨害しなさい! 」
【俺】
「あっ! お、お前ら! まさか⁉」
【シズク】
「アハハハハ! あんた、言ったよねー⁉ ウチらが勝ったら、タダでくれるってー⁉」
【俺】
「き、キタねーぞ! てめえらァー⁉」
ここにきてやっと、俺は二人の魂胆をただしく理解する。
要するに、このプール・ザ・デスマッチにおいて、コイツらだけはハナから別のルール……いやさ、別の勝利条件で動いていたのだ。
その内容とは至極単純〝俺にさえ勝てればいい〟である。
カタログの譲渡を持ちかけたのがヤツらに対してだけだった以上、そこで輪が閉じ、この小さな闘技場が形成されてしまった。
だからアイツらは最初からトップなんぞまるで目指しちゃおらず、虎視眈々と、俺にだけターゲットを絞っていたのである。
そしてまさしく今、ヤツらが秘密裏に仕込んでいた最悪の包囲網が完成してしまった。
【レイコ】
「はい、これで二点目……!」
レイコが余裕たっぷりでボールをカゴへと戻す。さらにはダメ押しのつもりか、新たなボールを探しに出た。
対する俺は、ボールを手に入れたまではいいものの……阻まれる。
進行方向をシズクの小さな身体で阻まれる。
さっき俺がアツシにしたのとまったく同じ状況だ。
今度は俺がシズクに追い込まれてる。
ここでタッチされれば……すべてが水泡と化すのみ。
【シズク】
「アハハハハ! なっさけなー!」
「やーい! ザーコ、ザーコ!」
勝利を確信したシズクがケラケラと笑いだした。
背が低いので足が届かないのだろう。揺れる水面に合わせ、ケンケンパをするように片足跳びをしていた。
ソレを見て俺は――覚悟を決める。
すべてを失う、覚悟を。
【俺】
「……どーやらここまでみてーだな」
「さ、タッチしてくれよ。ソレでケリがつく」
【シズク】
「はぁ……?」
訝しむように目を細めるシズク。
俺の突然の変化に戸惑っているのかもしれない。
「なに急にしおらしくなってんの。キモイんだけど」
【俺】
「ベツに。ただ目の前の現実を認めただけだよ」
無傷では……何も得られない、という現実をな。
【シズク】
「あっそ。まあイイけど」
「じゃあはい、タッチ――」
【俺】
「おっと、だがその前に一つ言っておくことがある」
【シズク】
「は? なに今さら、」
俺は食い気味に言った。
【俺】
「 俺はロリコンだ 」
【シズク】
「………。」
「………。………………。」
「………。………………。………………………は?」
【俺】
「聞こえなかったか? 俺はロリコンだ、と言っている」
【シズク】
「だから、なに……?」
シズクの生意気そうな目に、少しずつ、少しずつ――恐怖が入り混じる。
【俺】
「だからなに?」
「だからなに、だと?」
「まだわからないのか。なら教えてやろう」
「 最高だよ 」
「この状況。お前みたいなロリロリのぺったんこボディの女子にタッチをせまられてる……」
「 最高かよ 」
【シズク】
「ちょっと、あんたホントに……キモイんだけど」
シズクの顔から血の気が引いていく。
【俺】
「この授業がはじまってから、俺がずっと見ていたモノがナニか知ってるか?」
「 オマエのワキ腹だよ 」
「その、スク水にアバラがくっきりと浮かび上がったワキ腹だ」
「たまらないな」
「たまらないね」
「もう芸術だよ」
「シズクは身体の芸術家さんだ……」
【シズク】
「やだ、なにコイツ……!」
この頃にはシズクはほとんどおびえていた。
【俺】
「ははは、シズクのおててはお人形さんみたいにちっさいなぁ……!」
「そんな手でタッチされたら、俺はきっとどうにかなってしまうだろう」
「いや、きっとじゃない」
「絶対だ」
「絶対に俺は、どうにかなってしまう」
【シズク】
「ちょっと……こないで」
【俺】
「おいおいおい」
「おかしなこと言うなぁ、シズクはぁ……」
「近寄らないと、タッチができないじゃないか」
【シズク】
「やだ……! コッチこないでよォ……!」
【俺】
「……ほら」
「ここだよ、ここ」
「ここにタッチだ」
「俺の小さなお友だちにあいさつしてくれ……」
「ほら」
「ほら、ほら、ほら――」
【スカー†O★RE†フェイス】
「 Say hello to my little frieeeeeend!? 」
【シズク】
「イヤァァアアアアアアアアア⁉」
【俺】
「っしゃあ、今だァー!」
次の瞬間、俺はジャンプして思いっきりボールを投げつけた。
そしてその勢いまま、シズクの横を泳ぎ抜ける。
【シズク】
「あ⁉」
ふと我に返るシズク。一瞬ためらってから、俺のかかとに触れる。
「タッチ! 今ウチ、タッチした!」
【俺】
「バカめ! 俺はすでにボールを手放してる!」
「〝無効〟なんだよォー! そんなタッチはなァァァアア!」
【シズク】
「はぁー⁉」
一瞬の隙を突き、ボールを投げて先へと進む――それこそが俺の立てた作戦だった。
タッチが有効なのは〝ボールを持っている間だけ〟というルールの裏をかいたのである。
ただ唯一の問題は、どうやってその隙を作るかだったが……はは、舞台女優だった母さん譲りの演技力に感謝だぜ!
【シズク】
「死ねー! ロリコンー! ヘンタイーッ!」
【小学生たち(おもに女子)】
「ロリコン⁉ やだー! マジキモーイ!」
……どうやら演技がいき過ぎたらしい。
明日からの学校生活に不安がよぎるざわめきが巻き起こっていた。
【俺】
(だけどなぁ……へへ、)
(今日を切り抜けなきゃ! 明日なんて!)
(永遠にこないんだよォーッ!)
俺は泳ぎながら投げたボールを回収し、一つを自分のカゴへとぶち込む。
【俺】
「よっしゃあぁぁあああっ!」
これで俺たちは全員二点で並んだ。
【レイコ】
「まだよシズク! あきらめないで!」
「あと一点、ワタシかアナタが取れば――」
【俺】
「ハハハハハ! 残念だったなレイコ!」
「そろそろ時間だ! 三分だ!」
直後、サヤカ先生がカウントダウンをはじめる。
【レイコ】
「クソ……! これじゃあ引き分けにしか――」
【俺】
「引き分け?」
「おいおいおい、俺がいつ――ボールを一個しか持ってないなんて言った⁉」
【レイコ&シズク】
「「 ⁉ 」」
【俺】
「あの時投げたのは二つだったんだよォー!」
「そしてこれがダメ押しの追加点だァーッ!」
俺は隠し持っていたもう一つのボールを掲げ、スラムダンクよろしくカゴへと叩きつけた。
こうなれば話は別。
俺は三点、アイツらは二点にして――最下位だッ!
【サヤカ先生】
「はーい、三分経過ー。ニナミさんとゴブチさんは退場ねー」
【レイコ&シズク】
「「~~っ!」」
怒りで顔を真っ赤にして戦場を去るレイコとシズク。
これで残すはあと一人……。
ミコトだけだ!




