020
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19時12分
斜崎家、ダイニング
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【モザイクがかかった女性】
『……本当にね、優しい子だったんですよ』
『でも、気づいたら、急に仕事を辞めていて……教団に、すべてをささげるって……』
『もう、ワケがわからなかったです……』
【レポーター】
『あの建物が〝死と再生の使徒〟の本部です』
『近年急速な成長を遂げているこの教団ですが、反面、元・信者やその家族とは立て続けにトラブルを起こしています』
『また、近所に住む人々からは多数の苦情が寄せられていました』
【モザイクがかかった老人】
『あー、あの連中かい? 困ったもんだよ』
『やれ世界の破滅だかなんだか知らないけど、一日中、妙な音楽たれながしたりしててさ。いい迷惑だよ』
『それにさ、何度も何度もおっきなトラックが行き来してて……いったい何やってんだかねぇ』
『まったくブキミなもんさ』
【俺】
(世界の破滅、ねぇ……)
俺は叔母さんの作ってくれた夕食に箸を伸ばしつつ思う。
(やっぱこっちにもあんのな……こういう終末系のカルトって)
向こうだとブランチ・ダビディアンやヘヴンズ・ゲートが悪名高い。特に後者に関しては二年前の出来事なのでよく覚えている。教祖と信者数十人の集団自殺で、連日連夜、狂乱的に報道されていた。
【ハツホ】
「……しっかしバカだねー、コイツらも」
ハツホが行儀悪く箸でツンツンとテレビの方を指し示す。
「ホンキで信じてんのかよ、ノストラダムスの予言なんてさ」
【俺】
「いや、ちがうだろ。多分コイツらが信じてんのはアレじゃねーよ」
【ハツホ】
「は? でも言ってんじゃん。世界のメツボーだのなんだの」
【俺】
「こーゆーのは流行みてぇなモンなんだよ。一つ流行れば、後から似たようなのがわんさか出てくる」
現にブランチ・ダビディアンもヘヴンズ・ゲートも、ノストラダムスの例の予言とは一切無関係である。
というか、そもそもアメリカではノストラダムス自体がマイナーだ。オカルト好きじゃないと知らないレベルである。
それよりもY2Kの方がよっぽど差し迫った危機として捉えられていた。
【ハツホ】
「まぁ、恐怖の大王でもなんでもいーんだけどよぉ……こんだけ騒いでて、そんでもっていざ外れちまったらさぁ、コイツらいったいどーするつもりなんだろーな。今まで散々テレビとか雑誌であーだこーだ言ってた連中は、無事に来月がきたら腹でも切んのかよ?」
【俺】
「ないない、どーせ次のオモチャにむらがるだけだろ」
【ケイジ叔父さん】
「……ふふ、」
と、そこで叔父さんが反応した。
【俺】
「え? 俺なんか変なコト言っちゃいました?」
【ケイジ叔父さん】
「ああ、ちがうちがう。そうじゃないんだ。ただ……なんだかナタローくんが、義兄さんそっくりに見えてねぇ――」
義兄さん。
ケイジ叔父さんは、ウチの父さんのことをいつもそう呼んでいた。
気づけば叔父さんは箸を止め、どこか遠くを見るような目をしている。
【俺】
「そ、そうですかねぇ? 俺、自分でもあんまり父さんとは似てないと思ってんですけど」
何せこれだけ母親似の顔である。父さんの面影を見つけるのは至難の業だった。
【ケイジ叔父さん】
「いや、単純な外見の話じゃないんだよ。なんていうかな……ちょっとした仕草とか言い回しとか。そういうところでね、節々に義兄さんっぽい感じがするんだ」
【俺】
「へぇ……自分じゃ全然気づかなかったです」
「そうだったんですか……」
今までの人生で父さんに似ているなんて言われたことは一度もなかった。なので、つい色々と考えてしまう。
と、その時、
【カホ叔母さん】
「あ、そうだ」
叔母さんがふと立ち上がり冷蔵庫の方へ。
「やだわ、わたしったら。コレだすのすっかり忘れちゃってた」
「せっかくナタローくんのためにつくったのに――」
叔母さんがいそいそと取り出してきたのは、
【俺】
「あー、ソレ!」
「〝瑞古草〟! 瑞古草じゃないっすかー!」
「うわ、めっちゃなつかしい!」
瑞古草。
この島に自生する固有の植物である。
その用途は様々で、昔はちょっとした薬にも使われていた他、根は乾燥させて縄にすることもできる。
もちろん、食用でも幅広い活躍で、特に夏を迎えたこの時期は、小さな青い花が穂のように連なった部位――花穂を、酢の物や塩漬けにしていただける。
俺は昔からコレに目がなかった。
【カホ叔母さん】
「ふふ、たくさん食べてね。いっぱい作ってあるから」
【俺】
「ありがとうございますー!」
俺はたまらず箸をつけ、口へと放り込む。
「……くぅ~、うまいっ」
ほんのりとした甘酸っぱさ。噛めば噛むほど、花穂からじんわりと滋味がにじみ出てくる。
まさしくこの季節、この島でしか味わえない一品だった。
俺は思わず目を閉じ、押し寄せる口福にヒシヒシとひたる。
【ハツホ】
「昔っから思ってたけど……お前ってホント、ジジくさい趣味してるよな」
【俺】
「あん?」
【ハツホ】
「今時こんなんで大喜びするガキなんて、お前くらいだぞ」
【カホ叔母さん】
「……あら~、じゃあハツホはムリして食べたなくてもいいのよ~?」
ピキリ。カホ叔母さんの額にご立派な青筋が走る。
「悪かったわねぇ~? 年寄りくさい料理で~?」
年寄りくさい。
多分、ハツホが踏んでしまった虎の尾はそこだろう。ウチの母さんもそうだったが、この姉妹、結構がんばって年齢にあらがってる。それだけに、その話題には怒りのツボがギッチギチに詰まっていて、ほとんど地雷で仕立てられたカーペット状態だった。
ちなみに、二人とも怒るとメチャクチャこわい。
【ハツホ】
「ち、ちがうちがうちがう! アタシ、そんなこと言ってないって!」
あわてて否定するハツホ。
その横ではケイジ叔父さんが仲裁すべきか逃げるべきかで葛藤していた。
……叔父さん。そこまでこわいんすか……。あのひと、あなたの奥さんじゃないすか……。
【俺】
「あ、でも――」
正直コイツ相手ではあまりかばう気も起きなかったが、それでも一応は武士の情けというヤツで、俺は横から助け船を出す。
「これが食べられるってことは、もうすぐ夏祭りなんですよね」
困った時の伝家の宝刀。取りあえず話をそらす、である。
「なんて言うんでしたっけ、あのお祭り………………ミズコガエシ、でしたっけ」
俺がその言葉を口にした途端。
一瞬、ほんの一瞬だが――俺を除く全員にかすかな動揺が走った。
………。
………。………………。
………。………………。………………………。
え?




