017
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22時13分
斜崎家、リビング
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日本の法律上では一応、いとこどうしの結婚は許されてるらしい。
特に帯渡島のような小さなコミュニティでは、そもそもの人の数が少ないので、いとこ婚もそんなに珍しくはないとか。
んが。
俺もハツホも、この点に関してだけは昔から完全に意見が一致していて、常々こう言い続けてきた。
「「 お前とだけは、絶対にありえない 」」
その一番の理由は容姿である。
俺たちは、姉弟どころか、ヘタしたら双子と間違われるレベルで顔が似ているのだ。
まあ、無理もない。
実際、ウチの母さんとカホ叔母さんは本当に双子だったのだ。
その上で、俺もハツホも自他共に認める母親似ときている。
ならば外見が酷似しているのも当然と言えよう。
ここで厄介なのが性別のちがいだった。
子供の頃はさほど気にならなかったものの、さすがに十代になって色気づくと、どうしてもお互いにこう思ってしまう。
「コイツ、
俺/アタシ が
女装/男装 してるみてーだな……」と。
そんなこんなで、いつしか俺たちは顔を合わせるたび、微妙ーに渋い表情をするようになっていた。
ただ、まあ、
【ハツホ】
「ほれ、ムギ茶。いるか」
【俺】
「お、サンクス」
【ハツホ】
「初日にしちゃよくがんばってたじゃねーか。特にトラブルもなかったし」
【俺】
「まあ、事前に色々と教えて貰ってたからな」
【ハツホ】
「となると仕込んだアタシがサイコーだったって話だな。感謝しろ」
【俺】
「調子のんな」
この通り、俺とハツホは別に仲が悪いワケではない。
むしろ、年がそこそこ近いのもあって、世間一般の親戚づきあいの中では比較的良好な部類だろう。
向こうに行ってた間も、なんやかんやコイツとだけは二~三年に一度は会ってたことになるし。
あくまで純粋に、お互いが異性としてあまりに論外というだけだ。
【ハツホ】
「んくぅ~……!」
風呂上りのハツホが缶ビールのプルタブを開け、ングングと景気よく喉を鳴らす。
「っぱ仕事上がりのこの一杯よォ……! かぁ~、このために生きてんなァ……!」
オヤジくさい発言である……。
よく見れば手にしていたのは発泡酒だったという事実が、うらぶれたイナカのねーちゃん感を一層高めていた。
だが次の瞬間、
【ハツホ】
「~~っ!」
着信と共にバッと自分のケータイに飛びつき、
「あ、タックン~! どぉしたのぉ、こんな時間にぃ~?」
気味の悪い、鼻がつまったような声をひねり出す。
「ウチもぉ、寝ようかなって思ってたんだけどぉ~」
ウソつけ。
ケイジ叔父さんから聞いたぞ。こっからテレビの前で酒びたりがお前の日課らしいじゃねーか。
【ハツホ】
「えぇ~ちがうよぉ~! もぉ、タックンたらひどいぃ~!」
〝タックン〟というのは、高校の時から付き合っている彼氏らしい。
ハツホは三月までおとなりの八丈島の高校に通ってて、卒業後はこうして島に戻ってきたのだが、タックンの方は内地の大学、それもかなりスゴイとこに一発合格で入ったとか。
で、今は絶賛遠距離恋愛中らしく、この二日間だけでも耳にタコができそうなほど、のろけ話やらしょーもないグチやらを聞かされていた。
【ハツホ】
「ちぃがぁうよぉ~! ウチぃ、そんなことしないもん!」
なにが〝もん〟やねん。
コイツの本性を知っている上に、瓜二つの顔を持つ身としては、背中に寒いのが走るのを禁じ得ない語尾だった。
正直、コイツを見てると女性不信になりかねない……。
【ハツホ】
「え? もぉいいのぉ? また今度ぉ? ……うん、わかったぁ。じゃ、電話、待ってるからねぇ~! いつもみたいにメールでもいいよ!」
最後にチュッと唇を鳴らして電話を切るハツホ。
うわ、きっつぅ……。
中々に胃がもたれる光景である。
【ハツホ】
「……フ、わりぃな。彼女いない歴イコール年齢のコゾーにはシゲキが強すぎたか」
すぐさま発泡酒を手に取るハツホ。
【俺】
「まぁ、たしかに強かったと言えば強かったな……」
俺は自分が女装して「タックンぅ~!」とか言ってるとこを想像してしまい、思わず吐きかけた。
【ハツホ】
「何はともあれまずはカノジョをつくれ、少年。話はそれからだ」
【俺】
「ナニその上から目線……」
【ハツホ】
「で、どーなんだよミコトとは。うまくいきそーなの? 今日も一緒に帰ってたじゃねーか」
――ミコト。
その名前を聞いた途端、俺の頭が一瞬にして冷えた。
そして思い出す。
目を。
ミコトのあの、目を。
皿のように見開かれた、目。
アレはいったい……なんだったのだろう。
【俺】
「なぁハツホ、アイツのことなんだけど――」
そこまで言ってから俺は口をつぐんだ。
つぐまざるを、得なかった。
……バカバカしい。ちょっとくらい変な雰囲気でニラまれたからって、なんなんだ?
こんなことをいちいちコイツに相談してたら、ますますバカにされてしまう。
【ハツホ】
「ん? ミコトがどーしたよ」
【俺】
「……お前から頼んだんだろ、ミコトに。一緒に帰ってやってくれって」
だから俺は、別の話題へと舵を切った。
「ったく、余計なお世話だっつーの。俺だってもうガキじゃねーんだから」
【ハツホ】
「は? アタシが頼んだ……?」
しかし、ハツホの反応は何やら微妙だった。
【俺】
「え、そーなんだろ。だってアイツ、そー言ってたぞ。お前に頼まれたんだって。だもんで待っててやったんだって」
【ハツホ】
「………………。」
ほんの少しだけ考え込むハツホ。が、すぐに、
「ああ、そーそー! そーいやぁそーだったなぁ! うんうん!」
ポンと手を打ち、やけに大ゲサに頷く。
「アタシが頼んだんだよ、アタシが!」
【俺】
「なにニヤニヤ笑ってんだよ、気持ちわりぃな……」
【ハツホ】
「ま、お前もまだまだこっちに戻って日が浅いんだ。せいぜいこれからも一緒に仲良く通えって、な?」
【俺】
「いや、だから俺は――」
【ハツホ】
「お、ナニナニ? 意識しちゃってるー? ガキンチョのくせに、ナマイキに女の子のこと意識しちゃってんだ? アハハハハハハ!」
この酔っぱらいめ……!
人を肴にして楽しくなってやがる!
【俺】
「……もういい、部屋戻るわ」
【ハツホ】
「おぅ、おやすみ~。ぐっな~い」
こうして島に戻ってからの二日目は幕を下ろした。




