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ふぁでぃす・ばでんでぃん! ~バッドエンドからはじまるループもの~  作者: 作一生一
ミズコガエシ編

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15/29

015

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 16時21分

 帯渡島(おびとじま)小中学校、廊下

*━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━*

 

 よ、ようやく解放された……!

 

 サヤカ先生からこってりしぼられた俺は、職員室を出て、教室からカバンを回収し、そのまま幽鬼(ゆうき)のような足取りで昇降口へと向かう。

 

 うう、この時間は西日がキツイ……。まるで太陽が最後の嫌がらせをしてるかのようだ……。

 

 俺は制服のワイシャツにべっとりと汗をにじませつつ廊下を進む。

 

【俺】

「ん?」

 

【ミコト】

「あ」

 

 そこでミコトと鉢合わせた。

 

 下駄箱が並ぶ、昇降口の前である。

 

 まるで。

 

 待っててくれたみたいに。

 

 俺のことを、待っててくれたみたいに。

 

 ……てか間違いなくそうだろう。

 

 もうとっくに下校の時間は過ぎている。この小さな学校にも一応部活動は存在するが、三年はすでに引退したらしいのでそれもない。

 

【俺】

「ミコト……!」

 

 なんだか妙に……意識してしまう。

 

 アツシから中途半端に思わせぶりな話を聞いたのがよくなかった。

 

 これまでずっと、弟のように思っていたミコトが……今はまるで違って目に映る。

 

 西日を照り返すブラウスがやけに眩しい。反面、スカートの藍色(あいいろ)はとても濃く感じられる。ミコトが少し身じろぐたび、周囲に甘酸っぱい鱗粉(りんぷん)(ただよ)っているかのようだった。

 

 ………。

 

 ………。………………。

 

 ………。………………。………………………。

 

 ……ああ、こりゃ間違いねーよ。確定だよ。

 

 LOVEだよLOVE。

 

 コイツ、俺に恋してやがる!

 

【俺】

「ミコト、お前そんなに俺のことが好き――」

 

【ミコト】

「 あ? ナニ言ってんだオマエ 」

 

 低い声。低ーい声である。一瞬にして甘酸っぱいモヤモヤは四散した。

 

 ……ですよねー!

 

【ミコト】

「ハツホさんに頼まれたんだよ。オマエが道に迷わないよう一緒に帰ってくれって」

 くるりと(きびす)を返し、早々に下駄箱で外靴へと履き替えるマコト。西日が逆光になっていて表情はうかがい知れない。

 

 俺とミコトは家の方向が同じだ。だもんで昔はいつも一緒に帰っていた。多分、アイツ(ハツホ)もそれを覚えててミコトに頼んだのだろう。

 

 だが、

 

【俺】

「いや、さすがに迷わねーよ。朝だって普通に来れたんだし」

 

【ミコト】

「どーだか。迷わなくともどっかでフラフラ道草食うかもしれないじゃん。オマエ、この後お店の手伝いなんだろ」

 

【俺】

「あ、そっか。そうだな」

 

 手伝いは夕方からなのでまだ多少余裕はあるが、さすがに寄り道するヒマはない。

 

【ミコト】

「だからほら。早く行くぞ」

 

【俺】

「おう」

 

 俺は言われるがままに上履きを脱ぎ、下駄箱で履き替えようとした。

 

 

 

 だがその時、

 

 

 

【俺】

「……?」

 

 ふと、()()()を覚えた。

 

【俺】

(なんだ……? なんか、()()()()()

 

 俺は無意識の内に一歩後ずさり、下駄箱を少し広めの視点でとらえる。

 

 下駄箱。これ自体は……まあ別に、変じゃない。

 

 結構年季の入った木製で、多分どこにでもあるようなモノだ。

 

 この学校には小・中あわせて四クラスしかないので、その四クラス分の下駄箱が昇降口に背中合わせで並べられている。

 

 まあ、一クラスあたりの人数が少ないので、ほとんどがスカスカの、ある意味ぜいたくな使い方だが――

 

【俺】

(スカスカ……? あ、)

 

 ようやく俺は違和感の正体に気づいた。

 

 下駄箱に()()()()()()が入っている。

 

 おかしい。これは、おかしい。

 

 だって、俺はまだ()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の分をカウントすると……()()()()()()()()()()()()ことになる。

 

 俺とミコト。

 

 アツシとレイコにシズク。

 

 中学クラスには、()()()()()()()()()

 

 となると……誰なんだ? この……()()()()()()()()()()()は。

 

【俺】

「なあミコト、これって――」

 俺は振り返り、声を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ()()()

 

 

 

 

 

 

【俺】

「~~っ⁉⁉⁉」

 

 俺は一瞬、まるで心臓を鷲掴(わしづか)みにされたような気味の悪さを感じた。

 

 気味の悪さ。

 

 普通、女子相手に使っていい言葉ではないだろう。

 

 だがそうとしか言いようがなかった。

 

 そこにいたのは、俺の知るミコトとは――ましてやマコトとは、まるで別の人物にしか見えなかったのだから。

 

【俺】

「お、おい、ミコト……?」

 

 だがそれは(つか)()の出来事だった。

 

 まるで春の夜の夢の如き一瞬。

 

 俺が何かの見間違いだと自分に言い聞かせられる程度の……刹那(せつな)

 

【ミコト】

「……ああ、それ? 去年いた人のだよ」

 不自然なくらい自然に返してくるミコト。

 

【俺】

「去年いた……? もう卒業したってことか」

 

【ミコト】

「うん、まあ………………そんなとこ」

 

 帯渡島には高校は存在しない。

 

 人口を考えれば当然のことだろう。

 

 だもんで進学希望者には島を出る以外に選択肢がないのだ。

 

【ミコト】

「今度先生に相談しとくよ。片づけるか、別の場所に移すか」

 

【俺】

「捨てちゃっていいんじゃねーか? どう考えたって使わねーだろ、もう」

 

 中学時代の上履きが必要な高校生なんているはずがない。

 

【ミコト】

「……そう、だな。そうするしか、ないのかもしれない」

 繊細(かぼそ)い声で呟くミコト。心なしか、その顔はうつむいている。

 

【俺】

「……? おい、どうしたんだよ」

 

 俺は気になって、ミコトの顔を覗き込もうとするが、

 

【ミコト】

「……えいっ」

 ぐいっと、人差し指で頬を押された。

「ほら、とっとと行くぞ。あんま時間、ないんだろ?」

 そのままミコトはスタスタと昇降口を離れる。

 

【俺】

「あ、ああ……」

 

 俺はあわてて靴を履き替え、後に続いた。

 

 

 

 ――さっきのは、なんだったんだろう?

 

 

 

 ――()()は本当に、ミコトだったのか?

 

 

 

 そんな、一抹(いちまつ)の不安を抱えながら。

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