015
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16時21分
帯渡島小中学校、廊下
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よ、ようやく解放された……!
サヤカ先生からこってりしぼられた俺は、職員室を出て、教室からカバンを回収し、そのまま幽鬼のような足取りで昇降口へと向かう。
うう、この時間は西日がキツイ……。まるで太陽が最後の嫌がらせをしてるかのようだ……。
俺は制服のワイシャツにべっとりと汗をにじませつつ廊下を進む。
【俺】
「ん?」
【ミコト】
「あ」
そこでミコトと鉢合わせた。
下駄箱が並ぶ、昇降口の前である。
まるで。
待っててくれたみたいに。
俺のことを、待っててくれたみたいに。
……てか間違いなくそうだろう。
もうとっくに下校の時間は過ぎている。この小さな学校にも一応部活動は存在するが、三年はすでに引退したらしいのでそれもない。
【俺】
「ミコト……!」
なんだか妙に……意識してしまう。
アツシから中途半端に思わせぶりな話を聞いたのがよくなかった。
これまでずっと、弟のように思っていたミコトが……今はまるで違って目に映る。
西日を照り返すブラウスがやけに眩しい。反面、スカートの藍色はとても濃く感じられる。ミコトが少し身じろぐたび、周囲に甘酸っぱい鱗粉が漂っているかのようだった。
………。
………。………………。
………。………………。………………………。
……ああ、こりゃ間違いねーよ。確定だよ。
LOVEだよLOVE。
コイツ、俺に恋してやがる!
【俺】
「ミコト、お前そんなに俺のことが好き――」
【ミコト】
「 あ? ナニ言ってんだオマエ 」
低い声。低ーい声である。一瞬にして甘酸っぱいモヤモヤは四散した。
……ですよねー!
【ミコト】
「ハツホさんに頼まれたんだよ。オマエが道に迷わないよう一緒に帰ってくれって」
くるりと踵を返し、早々に下駄箱で外靴へと履き替えるマコト。西日が逆光になっていて表情はうかがい知れない。
俺とミコトは家の方向が同じだ。だもんで昔はいつも一緒に帰っていた。多分、アイツもそれを覚えててミコトに頼んだのだろう。
だが、
【俺】
「いや、さすがに迷わねーよ。朝だって普通に来れたんだし」
【ミコト】
「どーだか。迷わなくともどっかでフラフラ道草食うかもしれないじゃん。オマエ、この後お店の手伝いなんだろ」
【俺】
「あ、そっか。そうだな」
手伝いは夕方からなのでまだ多少余裕はあるが、さすがに寄り道するヒマはない。
【ミコト】
「だからほら。早く行くぞ」
【俺】
「おう」
俺は言われるがままに上履きを脱ぎ、下駄箱で履き替えようとした。
だがその時、
【俺】
「……?」
ふと、違和感を覚えた。
【俺】
(なんだ……? なんか、おかしいぞ)
俺は無意識の内に一歩後ずさり、下駄箱を少し広めの視点でとらえる。
下駄箱。これ自体は……まあ別に、変じゃない。
結構年季の入った木製で、多分どこにでもあるようなモノだ。
この学校には小・中あわせて四クラスしかないので、その四クラス分の下駄箱が昇降口に背中合わせで並べられている。
まあ、一クラスあたりの人数が少ないので、ほとんどがスカスカの、ある意味ぜいたくな使い方だが――
【俺】
(スカスカ……? あ、)
ようやく俺は違和感の正体に気づいた。
下駄箱に五つの上履きが入っている。
おかしい。これは、おかしい。
だって、俺はまだ自分の上履きを手にしている。
俺の分をカウントすると……計六つの上履きが存在することになる。
俺とミコト。
アツシとレイコにシズク。
中学クラスには、五人しかいないのに。
となると……誰なんだ? この……六人目の上履きの持ち主は。
【俺】
「なあミコト、これって――」
俺は振り返り、声を掛ける。
そこにいたのは
目を皿のように見開いた
ミコト
【俺】
「~~っ⁉⁉⁉」
俺は一瞬、まるで心臓を鷲掴みにされたような気味の悪さを感じた。
気味の悪さ。
普通、女子相手に使っていい言葉ではないだろう。
だがそうとしか言いようがなかった。
そこにいたのは、俺の知るミコトとは――ましてやマコトとは、まるで別の人物にしか見えなかったのだから。
【俺】
「お、おい、ミコト……?」
だがそれは束の間の出来事だった。
まるで春の夜の夢の如き一瞬。
俺が何かの見間違いだと自分に言い聞かせられる程度の……刹那。
【ミコト】
「……ああ、それ? 去年いた人のだよ」
不自然なくらい自然に返してくるミコト。
【俺】
「去年いた……? もう卒業したってことか」
【ミコト】
「うん、まあ………………そんなとこ」
帯渡島には高校は存在しない。
人口を考えれば当然のことだろう。
だもんで進学希望者には島を出る以外に選択肢がないのだ。
【ミコト】
「今度先生に相談しとくよ。片づけるか、別の場所に移すか」
【俺】
「捨てちゃっていいんじゃねーか? どう考えたって使わねーだろ、もう」
中学時代の上履きが必要な高校生なんているはずがない。
【ミコト】
「……そう、だな。そうするしか、ないのかもしれない」
繊細い声で呟くミコト。心なしか、その顔はうつむいている。
【俺】
「……? おい、どうしたんだよ」
俺は気になって、ミコトの顔を覗き込もうとするが、
【ミコト】
「……えいっ」
ぐいっと、人差し指で頬を押された。
「ほら、とっとと行くぞ。あんま時間、ないんだろ?」
そのままミコトはスタスタと昇降口を離れる。
【俺】
「あ、ああ……」
俺はあわてて靴を履き替え、後に続いた。
――さっきのは、なんだったんだろう?
――アレは本当に、ミコトだったのか?
そんな、一抹の不安を抱えながら。




