012
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8時43分
帯渡島小中学校、廊下
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何せ人の少ない島である。
当然、子どもの数も少ない。
一学年あたりせいぜい三~四人。学年によってはゼロなんてこともざらにある。
だもんで島には〝小中学校〟という小・中がくっついた学校一つだけが存在した。
言うまでもなく学級の数はスズメの涙である。小学校の方では一・二年生、三・四年生、五・六年生がそれぞれ合併した三クラス構成。中学では全学年をまとめた一クラスしか置かれてない。
まあ、仕方のないことだろう。先生の数だって少ないんだし。
【サヤカ先生】
「どお、七年ぶりの学校は。なつかし?」
【俺】
「ん~、どうっすかねぇ……。ぶっちゃけると子どもの頃なんでよく覚えてないことも多くって……あれ? そういえば校庭にあんな像ありましたっけ」
【サヤカ先生】
「ああ、アレね。つい最近できたばっかなのよ。今年は中学校の創立五〇周年記念ってことでね、この春に建てられたの」
【俺】
「へぇ……」
今、廊下でとなりを歩いているのは矢坂沙弥香先生だ。
七年前からお世話になっている俺の恩師……といったワケでなく、三年前にこの学校へと赴任してきたらしい。だもんで今日が初対面だった。
サヤカ先生は中学クラスの担任なので、これから卒業までの間お世話になる。
【サヤカ先生】
「さ、ついたわよん。はいってはいって」
【俺】
「あ、どうも」
俺は先生が開けてくれたドアから教室へと入る。
「おお……!」
中は異様に広く感じられた。
それもそのはず。部屋自体は決して大きくなく、むしろ普通の学校と比べれば小さいくらいだろうが、なにせ並んでいる机と椅子の数が少ない。たったの五つしかない。
この感じは……さすがになつかしい。
思い出した。そういやこんなんだったなぁ……。
七年ぶりに再会した幼馴染たちの面々もあってか、なつかしさはひとしおだった。
【サヤカ先生】
「はい、みんなおはよー。今日も元気ぃー?」
「こちらは転校生の生天目那太郎くんです」
「多分、みんなの方がよく知ってるわよね? 久しぶりに島に戻ってきたということなので、これからまた仲良くしてあげて下さい」
「じゃ、ナバタメくん。何か一言あいさつを」
【俺】
「ん? あ、えーと。ども、ナタローです。戻ってきました。出戻りです」
俺は教壇の横に立ち、テキトーな挨拶をしつつ教室内を見回した。
こっちからみて一番左に座ってるのがマコト……じゃなくってミコトだ。
さすがにコイツに関してはなつかしいも何もない。昨日会ったばかりである。
ただ、初めて見た制服姿が妙に新鮮で(ス、スカートだァーッ!)、ついつい視線が固まってしまったが、やがてツッとそっぽを向かれ我に返る。
そのとなりは……レイコ。そう、レイコだ。弐波令子。
【俺】
(かー、あんにゃろめ。相っ変わらずお高くとまってんなー。なんも変わってねーでやんの)
デフォルトで〝さがれ下郎〟みたいなオーラを発してる女である。
まあ実際、アイツん家は代々の村長を輩出してるだかなんだかで、島ではたしかに別格だった。
で、このレイコにいっつもコバンザメでくっついてたのが、
【俺】
(シズクか。ちっちぇーままだなぁ……背が伸びるどころか縮んでんじゃねーの)
レイコのとなりに座る女子、五淵雫。
ズル賢そうな目をしているが、実のところそれ以上である。一言でいうなら愉快犯で〝楽しければなんでもいい〟がモットーの迷惑極まりないヤツだった。
コイツが面白半分にレイコを焚きつけて、何度トラブルに見舞われたことか……。
【俺】
(ってアレ? アイツはどこだ)
残る席は二つだがどちらも空である。
一つは俺のはずなので、もう一つの机の主がまだ来ていないということだ。
でもって、その人物というのは十中八九――
【???】
「いやーすまんです、サヤカ先生!」
突然、ガラガラガラッと勢いよく教室の扉が開いた。
「朝からオヤジの手伝いしとったもんで遅れてしまいしたわ!」
中に入ってきたのは、もうほとんど〝黒い〟のレベルで日焼けしている、筋骨隆々の大男で――
【俺】
「アツシ! アツシでねーか!」
【アツシ】
「ん――おおぅ⁉ おまえナタローか! 今日から学校だったんかい!」
【俺】
「アツシィーッ!」
【アツシ】
「ナタロォーッ!」
俺たちは互いに駆け寄り、ガッ、ガッ、ガッと拳やら肘やらをキレキレの動きで突き合わせる。
【アツシ】
「ひっさしぶりだのー、おい! ぜんぜん変わっとらんじゃないか、ええ⁉」
【俺】
「お前こそ! てかくっそー、相変わらずデケェな! 少しは追いついたと思ってたのに!」
【アツシ】
「ガハハハハッ! デカくなったのはそこだけじゃないぞぉー⁉」
【俺】
「ぬぁにぃ~⁉ オレだってなぁ――」
【サヤカ先生】
「え、ちょっと。何してんの二人とも。席ついてよ」
サヤカ先生の言葉をよそに、テンションが最高潮に達した俺とアツシは、その場で興奮したサルみたいに騒ぎながら高速でオクラホマミキサーをキメだす。
俺たちは誰にも止められねぇ!
……ちなみにチラっと視界に入った限りでは、ミコトは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえ、レイコはプルプルと肩を震わせており、シズクはアホくさとばかりに頬杖をついていた。
【俺】
「ヒャッハー! 授業なんて受けてられっかよォー⁉」
【アツシ】
「おうよ! 出るぞ出るぞォー! 外に出るぞォー!」
【サヤカ先生】
「ハァ⁉ アンタたち何言って――」
【俺】
「Yippee-ki-yaaaaaaaay!」
【アツシ】
「ガハハハハハハッ!」
次の瞬間、二人そろって教室の窓から脱走する。
どこまでも高い突き抜けた夏の青空だけが、俺たちの道しるべだった。




