間隙を突くのが奇襲
新世界暦2年1月20日 中華人民共和国 北京 中南海
「いったいどうなっている!?」
ここ数日の航空戦の戦況を聞いた国家主席は激昂して机をたたく。
「貴様らが莫大な金を湯水のように使ってロシアはおろか、アメリカをも凌駕する強大な空軍と喧伝していたのは何だ!?木偶か!?」
その矛先は空軍の幕僚達である。
声を上げていない他の指導部も、一様に険しい顔をしており、誰も幕僚達をかばおうとはしない。
普通はこういう時にアメとムチとか自分の派閥のために、とかでかばう人間が1人はいるものだが、かばう理由が思いつかないくらいの失態を重ねている現状では誰もかばえないのである。
「今は航空戦だけだが、連中はとうとう上海への無差別爆撃まで始めた!衛星では輸送船団も確認されている!このままでは上陸されるぞ!この後はどうする!?我々はまた延安まで逃げるか!?」
最高指導部が穴倉暮らしに逆戻りなど笑い話にもならん、と少し落ち着いた国家主席は続ける。
ここ数度にわたって上海上空で行われた空戦は完全に人民解放軍の劣勢で、UFOとしか形容のしようが無い機体が出てきた場合は全敗で、一度だけ優勢だったが、それでも完勝とはいかなかった。
「国家主席、確かに負けはしていますが、何も得るものが無かったわけではありません」
「そう願いたいものだし、そもそも勝ってもらいたいものだがね」
冷たい目をした国家主席が再び幕僚達を一瞥する。
「敵はステルス機と小型無人機に対する対応がまったくできていないと考えられます。J-20の喪失も目視圏内での格闘戦に限られており、視界外戦闘での喪失は皆無です」
デカいし、そもそもステルス機としては対策がいまいちだと言われることもあるJ-20ではあるが、ステルス機として設計されていることは事実であり、従来機に比べるとレーダー反射面積は遥かに小さい。
それが視界外戦闘で1機も墜とされていない、ということは敵は遠距離でステルス機を探知することはできない、ということである。
そもそも「ステルス機」と一般的に言われる機体は一般的なレーダーに対するステルス性を有する航空機のことである。
照射されたレーダー波を吸収したり、別方向に乱反射させることで、発信元に戻る電波を少なくすることでレーダーに映りにくくするのが、レーダーに対するステルス性である。
あくまでも「映りにくくする」だけなので近付いたり、強力な照射を受けると探知される可能性が高くなるわけだし、元々想定されていない周波数帯のレーダーなら探知できる可能性が上がる。
要するに敵が使用するレーダーは、こちらが普通に想定している機構のレーダーで、複数機の送受信機を利用したMIMOレーダーなどは無い、ということである。
「また、低空を飛行する小型低速のドローンなどは一切攻撃を受けておらず、探知出来ないものと思われます」
小型低速の飛行物体は従来のレーダーではクラッタなどのノイズとして処理されてしまい、表示されない。
仮にそんな処理が介在しない、生のレーダースコープを見るタイプだとしても、低空を飛行する小型ドローンを地表のクラッタと区別して見つけ出すのは困難である。
地球ではそれに対応するために、各国がレーダーのソフトウェア書き換えに奔走する羽目になったわけで、探知できないのなら徘徊型自爆ドローンでもなんでもやりたい放題である。
「脅威だと見ていないだけではないか?空戦しか行われていない現状で探知できないと断ずるのは危険では?」
「海軍が敵艦隊にドローンを近付けていますが、どれも無事に回収出来ていますから探知できていないと判断します」
おかげで敵艦隊の詳細な写真が撮れました、と海軍士官は口を挟む。
「正直なところ脅威となるのは例のUFO型航空機と大型艦が装備している光学兵器と思われる兵装程度です」
「その2つが強力すぎるから問題なのだろうが・・・」
それだけ注意したら勝てる、みたいにいう空軍幕僚に国家主席は呆れたように言う。
「出撃してこなかった時もありますので絶対数が少ないものと思われます。衛星からの情報でも配備されている基地は少なそうです」
数が少ない相手なら数で押し潰せばどうにかなるよね!というのを言外に匂わせる空軍幕僚だが、朝鮮戦争とは時代が違うんだぞと国家主席は頭を抱える。
数で押し潰す、というのは要は敵の10倍の損害を許容するということである。
そんなもの今のめんどくさい人民共に押し付ければ、暴動や反党的な世論を誘発するし、そっちのほうが面倒くさい、というのが国家主席の立場である。
どれだけネットも含めて検閲して反党的な意見を封殺しても、抑えきれない流れ、というのはある。
それを最終的に武力で制圧できるのが共産中国の強みだが、戦争中に後方でそんなことをやっている国が勝てた試しはない。
「とにかく敵の通常兵力に対しては優勢ですから、ステルス機と小型ドローンを活かした作戦を立案し実行します」
「敵による上陸が行われる場合は、報復として敵本土攻撃を行います。潜水艦と弾道弾、極超音速兵器による攻撃を想定しています」
しれっと何を攻撃する気なんだよというラインナップによる攻撃計画を口にするが、国家主席が特に気にした様子はない。
「敵の上陸など以ての外だ。上陸される前に叩き潰せ」
その言葉とともに会議は終わりを告げた。
新世界暦2年1月22日 中華人民共和国 上海沖
神聖ゲルマニア連合共和国の上陸部隊第一陣を乗せた輸送船団は、途中敵国艦隊との交戦で多少の損害は出たものの、上陸部隊3万5千はほぼ無傷で輸送に成功していた。
兵士の乗り込んだ上陸用舟艇がダビットから次々に降ろされ、水陸両用戦車が発進していく。
敵都市正面への強襲上陸というかなり無茶な作戦だが、彼らに不安の色は無い。
制空権は完全に味方のものであり、前方の都市はすでに焦土と化している。
上陸地点からの攻撃は無く、味方の空爆の残滓で所々立ち昇る煙があるだけである。
「あまりにもあっさりしているな」
上陸部隊の様子を艦橋から眺めていた艦隊司令はパイプを吹かす。
「楽でいいではないですか。汎スラブ社会主義同盟のゴキブリどものように潰しても潰しても湧いてこられてはかないません」
艦長の言に艦橋内で小さな嗤いが起こる。
「ん?あれは・・・」
何か小さな物体が飛んでいるのに気付いた提督が声をあげるが、それはあっという間に上陸用舟艇の群れに向かっていき見えなくなる。
そして一拍遅れて、1隻で爆発が起こる。
その爆発が合図であったかのように次々と上陸用舟艇が爆発する。
「何事だ!?」
「敵の攻撃か!?レーダー!ソナー!どうなっている!?」
突然のことに、一気に艦内が慌ただしくなる。
「レーダーには味方機以外映っていません!」
「ソナー、全周探査でも不審音源無し!」
「じゃあ何か、突然爆発しているとでもいうのか!?」
しかし、目を凝らしてみれば爆発自体は小規模であり、小型の上陸用舟艇でもほとんどが沈没は免れている。
もっとも、その爆発は全てが正確に操舵室や兵員室を捉えているので、役目は全く果たせなくなっているのだが。
慌ただしい艦内を、突然振動と爆発音が包む。
「何事だ!?」
「マストをやられました!対空、対水上、ともにレーダー使用不能!完全に破壊されています!」
「敵の攻撃!?なぜ探知できなかった!」
慌ただしい中でのレーダーの完全喪失という事態。
混乱はさらに広がるが、他の艦でもレーダーや通信設備の喪失が相次ぎ、混乱が収束される気配はない。
「おい!滅茶苦茶に撃つのをやめさせろ!周りは味方だらけなんだぞ!」
次々に艦が爆発する状況に、艦隊外縁の駆逐艦が機関砲を無茶苦茶に発砲し始めたが、味方に直撃することは無くても、飛んだ砲弾は最終的に落ちてくるのである。
密集した上陸部隊もいる場所で、やたらめったら撃たれた砲弾が落ちてきたら、それだけでも危険である。
「艦長!あれを!」
そう言って目のいい航海長が指差した先には、プロペラで飛行する小型の機体があった。
「・・・ラジコンか?」
戦場には不釣り合いな感想が漏れた艦長だが、その行先を目で追って驚愕した。
その機体は突然、プロペラが脱落したかと思うとロケットモーターに点火し、まだ無事だった隣の巡洋艦のレーダーに正確に飛び込んで爆発したのである。
「敵は小型のラジコンで攻撃しているぞ!目で見ろ!目視で警戒しろ!」
もっとも、目視だけで小型ドローンを見つけて、これまた目視だけで機関砲や機関銃を当てる、なんていう芸当は困難なのだが。
「司令、我が艦隊は全てのレーダーを喪失しました・・・」
艦橋内に沈黙が満ちる。
いくら制空権が味方にあるとはいえ、近傍に基地は無く、沖に空母がいるだけである。
ピケットの役割も果たす上陸援護艦隊のレーダーが全て使用不能、というのは上陸部隊の早期警戒が不可能ということである。
「第4艦隊と連絡を取れ!」
敵のラジコンに対する有効な策は思いつかないが、とりあえず沖にいる警戒艦をもう少し前に出してもらうしかない、と司令は通信を急がせるのだった。
次も一週間以内の予定です




