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初めてのダンジョン


翌朝。


王都アルディアの東門前には、多くの冒険者が集まっていた。


その中で一人だけ、緊張した面持ちで木剣を握る青年がいた。


「……本当に俺で大丈夫かな。」


カイル・ウォーカー。


人生初のダンジョン。


「緊張してるか?」


後ろから声がする。


振り向くと、大きな荷物を背負ったダレン・クロウが立っていた。


「英雄でも最初は全員そうだ。」


「だから安心しろ。」


「……はい!」


ダレンはカイルの肩を軽く叩く。


「今日の目的は強くなることじゃない。」


「生きて帰ることだ。」


その一言だけで、ダンジョンの危険さが伝わってきた。



二人が向かったのは、


王都第一訓練ダンジョン《グリーンケイブ》。


初心者向けとして有名なダンジョンで、魔物も比較的弱い。


入口には巨大な石碑が立っていた。



【グリーンケイブ】


危険度:★


推奨ランク:F~E


主な魔物


・ゴブリン


・スライム


・ホーンラビット


・コボルト



「ここなら英雄じゃなくても攻略できる。」


ダレンは剣を抜く。


「だが油断した奴から死ぬ。」


カイルは大きく息を吸った。


「……行こう。」



洞窟の中は湿っていた。


壁には青白い鉱石が埋め込まれ、薄暗い道を照らしている。


「耳を使え。」


ダレンが小声で言う。


「魔物は音で居場所が分かる。」


その瞬間だった。


ガサッ。


茂みが揺れる。


小さな影が飛び出した。


「ギャアッ!」


緑色の肌。


錆びたナイフ。


ゴブリン。


「来るぞ!」


ダレンは動かなかった。


「カイル。」


「一体だけだ。」


「自分でやれ。」


「……えっ?」


次の瞬間。


ゴブリンが飛びかかる。


「うわっ!」


間一髪で避ける。


ナイフが頬をかすめた。


(速い……!)


心臓が激しく鳴る。


怖い。


逃げたい。


だが――。


(姉さんなら。)


カイルは木剣を構えた。


ゴブリンが再び突進する。


その動きを見た瞬間。


自然と身体が動いた。


一歩。


半歩。


紙一重でかわす。


「今だ!」


ダレンの声。


カイルは思い切り木剣を振り下ろす。


バキッ!!


鈍い音。


ゴブリンが地面へ倒れた。


動かない。


「……勝った?」


「初戦でよくやった。」


ダレンが笑う。


「普通なら腰を抜かして終わりだ。」


カイルは肩で息をする。


全身が震えていた。


怖かった。


それでも。


「倒せた……。」


初めて、自分の力で。



その時だった。


誰にも見えない光が、ゴブリンの亡骸からカイルへ吸い込まれる。


(……なんだ?)


カイルだけが違和感を覚える。


しかし何も起きない。


「気のせいか……?」



その後も二人は奥へ進んだ。


スライム。


ホーンラビット。


コボルト。


カイルは何度も傷を負いながら戦い続けた。


驚くべきことに、


戦うたび動きが良くなっていく。


「飲み込みが早いな。」


ダレンが感心する。


「才能か。」


「違いますよ。」


カイルは苦笑する。


「姉さんに毎日木剣でボコボコにされてました。」


「……剣聖に?」


「はい。」


ダレンは吹き出した。


「それは強くなるわ。」


二人は久しぶりに笑った。



ダンジョン最奥部。


そこには広い空間が広がっていた。


「……妙だ。」


ダレンの表情が変わる。


「初心者ダンジョンなのに静かすぎる。」


その時。


ズシン。


地面が揺れた。


「!!」


巨大な影。


三メートルを超える体。


真っ赤な皮膚。


二本の角。


棍棒。


「そんな馬鹿な……!」


ダレンが目を見開く。


「レッドオーガ!?」


初心者ダンジョンにいるはずがない。


本来ならBランク。


新人では絶対に勝てない魔物。


「カイル!」


「下がれ!!」


レッドオーガが咆哮を上げる。


洞窟全体が震えた。


カイルは木剣を握り締める。


(逃げるしか……。)


その瞬間。


彼の視界に、かすかに光る文字が浮かび始めた。



《経験値条件を達成》


《個体適性を確認》


《EXシステム起動準備》



「……え?」


文字は一瞬で消える。


「今のは……?」


ダレンは気付いていない。


レッドオーガはゆっくりと棍棒を持ち上げる。


その一撃が振り下ろされようとした瞬間――。


物語は、大きく動き出そうとしていた。


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