闇を統べる者
光が届かない地下神殿。
漆黒の柱が立ち並び、巨大な魔法陣が床一面に刻まれている。
その中央に、一人の男が静かに膝をついていた。
漆黒の鎧。
血のように赤い瞳。
魔族ですら震え上がる圧倒的な魔力。
その名は――
魔将ブラッド。
十二魔人すべてを束ねる、魔族軍総司令官。
「ご報告いたします。」
ブラッドが頭を下げる。
彼の前には、四つの玉座。
それぞれに一人ずつ、人影が座っている。
誰一人として姿は見えない。
闇が、その姿を覆い隠していた。
しかし、その存在だけで空間そのものが軋んでいる。
魔族ならば、その場に立っているだけで魂が砕け散るほどの威圧。
彼らこそ――
魔王軍四天王。
長い沈黙。
やがて、一人が静かに口を開いた。
「報告を。」
男とも女とも判別できない低い声。
ブラッドは顔を上げることなく答える。
「確認いたしました。」
「例の少年です。」
「名は――カイル・ウォーカー。」
その名前が神殿に響く。
一瞬だけ、空気が張り詰めた。
「……そうか。」
別の四天王が呟く。
「ようやく現れたか。」
さらにもう一人が口を開く。
「運命の蒐集者。」
「数百年ぶりの継承者。」
ブラッドは静かに頷く。
「間違いありません。」
「現在は未熟。」
「しかし成長速度は、予測を大きく上回っています。」
四天王の一人が笑う。
「ならば今のうちに始末するか?」
ブラッドは首を横に振った。
「いいえ。」
「まだ、その時ではありません。」
「育てます。」
「……何故だ。」
「魔王様が望まれているからです。」
その瞬間。
四人の四天王が沈黙した。
神殿最奥。
誰も座っていなかったはずの巨大な玉座。
そこに、ゆっくりと黒い霧が集まり始める。
誰も顔を上げない。
ブラッドですら深く頭を垂れる。
空間が震える。
世界そのものが、その存在を拒絶するように悲鳴を上げる。
やがて。
黒い霧の奥から、一つの声が響いた。
「……まだだ。」
たった三文字。
それだけで神殿全体に無数の亀裂が走る。
「剣聖も。」
「運命の蒐集者も。」
「今は生かしておけ。」
静かな声だった。
しかし、その一言には絶対の威厳が宿っていた。
「絶望は。」
「希望が最も輝いた時にこそ、美しい。」
黒い霧がゆっくりと消えていく。
誰一人として、その姿を見ることは許されなかった。
ブラッドは拳を胸に当て、深く頭を下げる。
「御意。」
「魔王様。」
静寂が訪れる。
ブラッドはゆっくりと立ち上がり、王都アルディアの方角を見つめた。
その紅い瞳に映るのは、一人の少年。
「カイル・ウォーカー。」
「お前は希望となる。」
「だからこそ――」
「最後には、最も深い絶望へ堕ちろ。」
ブラッドは静かに踵を返した。
その背後では、十二枚の巨大な扉がゆっくりと開いていく。
一つの扉につき、一人。
十二人の魔人たちが、無言のまま姿を現した。
誰もが英雄を超える力を持つ怪物。
ブラッドは彼らを見渡し、冷たく命じる。
「狩りを始めろ。」
「人類に、休息は不要だ。」
「はっ!」
十二人の声が重なる。
次の瞬間。
十二魔人は闇へと消えた。
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その頃――。
王都アルディア。
朝日に照らされながら、カイルは剣を振り続けていた。
まだ知らない。
自分を狙う敵が。
想像を遥かに超える存在であることを。
そして。
その先には、四天王。
さらに、その頂点には。
世界すべてを滅ぼそうとする魔王が待ち受けていることを。
青年の一振りが、やがて世界の運命を切り開く。
その伝説は――
まだ始まったばかりだった。
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