↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/17

旅立ちの朝

王都アルディア。


十二魔人襲撃事件から一週間。


街には、少しずついつもの活気が戻り始めていた。


市場には笑い声が響き、子どもたちは広場を駆け回る。


まるで何事もなかったかのような日常。


しかし、その裏では王国中の空気が変わっていた。


「十二魔人が現れた。」


その事実だけで、人々は恐怖を覚えていた。


そして、その戦いで名もなき一人の青年が最後まで立ち向かったことは、まだごく一部の者しか知らない。



早朝。


王都郊外の訓練場。


カイルはいつものように木剣を振っていた。


一回。


十回。


百回。


千回。


汗が地面へ落ちる。


腕は重い。


それでも止まらない。


「随分早起きだな。」


後ろから聞き慣れた声がした。


振り返ると、ダレンが腕を組んで立っている。


折れていた腕も、治療のおかげでほぼ元通りになっていた。


「ダレンさん。」


「傷は?」


「もう大丈夫です。」


「そうか。」


ダレンは一本の剣を差し出した。


鞘に収まった、質素な鉄の剣。


「これ……。」


「木剣は卒業だ。」


「今日から相棒にしろ。」


カイルは目を丸くする。


「でも、高いんじゃ……。」


「気にするな。」


「俺のお下がりだ。」


そう言って笑うダレン。


カイルは両手で剣を受け取った。


ずっしりとした重みが伝わる。


「ありがとうございます。」


「礼を言うのはまだ早い。」


ダレンは真剣な表情になる。


「これから先、お前が進む道はもっと厳しい。」


「英雄。」


「魔人。」


「そして魔王。」


「強くなれ。」


「誰よりも。」


「……はい。」


その返事には、以前のような迷いはなかった。



昼。


冒険者ギルド。


「カイル。」


ソフィアが小さく手を振る。


「これ。」


差し出されたのは、一冊の古びた本だった。


『古代魔導理論』


「私の研究書です。」


「えっ?」


「貸します。」


「魔法は使えなくても、知識は武器になります。」


カイルは本を受け取り、少し苦笑した。


「実は勉強、苦手なんです。」


「知ってます。」


「え?」


「顔に書いてあります。」


ソフィアは小さく笑う。


珍しく、少しだけいたずらっぽい笑顔だった。


「でも。」


「あなたなら読めます。」


「必ず。」


「……頑張ります。」


二人は顔を見合わせて笑った。



夕方。


帰宅したカイルを待っていたのは、シチューの香りだった。


「おかえり!」


エプロン姿のマリスが笑顔で迎える。


「今日もシチュー?」


「今日は特製!」


「昨日も特製だったような……。」


「気のせい!」


二人は思わず笑った。


食卓を囲みながら、マリスが静かに尋ねる。


「ねぇ、カイル。」


「なに?」


「これからどうしたい?」


カイルは少しだけ考える。


そして、真っ直ぐ前を向いた。


「もっと強くなる。」


「誰にも負けないくらい。」


「姉さんを守れるくらい。」


マリスは少しだけ困ったように笑う。


「だから、お姉ちゃんは強いって。」


「それでも。」


「いつか絶対。」


その真剣な瞳を見て、マリスは優しく頭を撫でた。


「じゃあ約束。」


「約束?」


「もっともっと強くなって。」


「そして。」


「二人で平和な世界を見に行こう。」


「うん。」


「約束。」


二人は小さく笑い合った。


その約束が、五年後には果たされないことを、まだ誰も知らない。



同じ頃。


魔族領。


巨大な神殿の最深部。


十二人の魔人が円卓を囲んでいた。


その最奥。


漆黒の玉座に、一人の男が座る。


ブラッド。


十二魔人最強。


彼は静かに立ち上がった。


「全員揃ったな。」


誰も口を開かない。


張り詰めた空気。


ブラッドはゆっくりと口を開いた。


「計画を変更する。」


「人類ではない。」


「狙うべきは、一人だけだ。」


赤い瞳が妖しく光る。


「カイル・ウォーカー。」


その名を聞いた瞬間。


十二人の魔人たちが静かに笑った。


「必ず連れてこい。」


「殺すな。」


「奴には、まだ役目がある。」


その言葉だけを残し、神殿は静寂に包まれた。



翌朝。


王都アルディア。


朝日が昇る。


カイルはダレンから譲り受けた剣を腰に差し、王都の門の前に立っていた。


ソフィアが微笑む。


「準備は?」


「できました。」


ダレンが拳を突き出す。


「今日から本当の修行だ。」


マリスも笑顔で手を振る。


「いってらっしゃい。」


カイルは三人を見渡した。


守りたい人たち。


追いつきたい背中。


そして、いつか必ず越えたい壁。


静かに剣の柄へ手を添える。


(待ってろ。)


(英雄。)


(十二魔人。)


(四天王。)


(魔王。)


(俺は必ず――。)


(世界最強になる。)


朝日が青年の背中を照らす。


その一歩は小さい。


だが、その足跡は、やがて世界の運命を変える伝説の始まりだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。