無力ではない証
夕暮れ。
赤く染まった森を、四人は王都へ向かって歩いていた。
誰も口を開かない。
十二魔人との戦い。
生きて帰れたこと自体が奇跡だった。
「……みんな。」
最初に口を開いたのはマリスだった。
「本当にありがとう。」
深々と頭を下げる。
「カイルを守ってくれて。」
ダレンは苦笑した。
「礼なら俺じゃねぇ。」
「一番頑張ったのはカイルだ。」
「そうですよ。」
ソフィアも優しく笑う。
「あの場で最後まで諦めなかったのは、この子です。」
突然褒められ、カイルは照れくさそうに頭を掻いた。
「俺は……何も。」
「何もじゃない。」
マリスが優しく言う。
「あなたはちゃんと戦った。」
「生きて帰ってきた。」
「それだけで十分。」
その言葉に、カイルの胸が熱くなった。
⸻
王都へ戻ると、ギルドは騒然としていた。
「剣聖様だ!」
「本当に十二魔人が現れたのか!」
「被害は!?」
冒険者たちが次々と集まってくる。
受付嬢も青ざめた表情で駆け寄った。
「ダレンさん、大丈夫ですか!?」
「見ての通りボロボロだ。」
ダレンは笑いながら答える。
「でも全員生きてる。」
「それが一番だ。」
すぐに治療班が集まり、ダレンとソフィアは治療室へ運ばれていく。
カイルも軽傷ではなかったが、命に別状はなかった。
⸻
その夜。
マリスとカイルは自宅で食卓を囲んでいた。
いつもと同じシチュー。
焼きたてのパン。
それなのに、今日は少しだけ静かだった。
「……カイル。」
「なに?」
「怖かった?」
カイルは少しだけ考え、小さく頷く。
「怖かった。」
「正直、何度も死ぬと思った。」
「……そっか。」
マリスは微笑みながらスープを口に運ぶ。
「でもね。」
「怖いと思える人ほど、生き残れる。」
「怖さを忘れた人は、いつか必ず油断する。」
「だから、その気持ちは忘れなくていい。」
カイルは静かに頷いた。
「うん。」
少し間を置いて、マリスが尋ねる。
「それでも。」
「まだ強くなりたい?」
迷いはなかった。
「なりたい。」
「姉さんを守れるくらい。」
マリスは目を丸くし、すぐに優しく笑った。
「ふふっ。」
「お姉ちゃんは簡単には負けないよ?」
「分かってる。」
「でも。」
「守られるだけは嫌なんだ。」
その真っ直ぐな瞳を見て、マリスはどこか嬉しそうだった。
「……そっか。」
「本当に大きくなったね。」
⸻
翌日。
冒険者ギルド。
治療を終えたダレンとソフィアが、ギルドマスターの部屋へ呼ばれていた。
重厚な机の向こうに座る老人が静かに口を開く。
「報告は聞いた。」
「十二魔人が現れたそうだな。」
「はい。」
ダレンが真剣な表情で答える。
「そして、一つだけ気になることがあります。」
「何だ。」
「カイル・ウォーカーです。」
老人の眉がわずかに動く。
「剣聖の弟か。」
「ええ。」
「彼は間違いなく才能があります。」
「才能……か。」
老人は静かに目を閉じる。
「剣聖とは違う。」
「だが、何か別の可能性を感じる。」
その言葉にソフィアも頷いた。
「私も同じ意見です。」
「彼の成長速度は異常です。」
老人は少しだけ笑った。
「面白い。」
「しばらく様子を見るとしよう。」
⸻
その頃。
魔族領。
巨大な玉座の間。
黒い鎧をまとった男――ブラッドは、片膝をつくガルムを見下ろしていた。
「確認は終わったか。」
「はい。」
ガルムは静かに答える。
「間違いありません。」
「あの少年です。」
「……そう




