第7話
小野好古は、小野篁の孫で、兄弟に小野道風がいる、
小野の一族の者は学者であり、征夷副将軍でもあったこともある。遠い祖先は、遣唐使となり聖徳太子と推古天皇の任務をこなした。
いわば、帝のそばにいる藤原氏は、内裏の儀式などに精通し、誰よりも有識故実に優れ、帝の周りにいる従者である。親身になる親戚でもある。
体制が己に不利ともなれば、事変を起こしても、政権を手にする。
そうして、何度も政変を起こし、藤原氏は支配力を盤石にした。いや、盤石と思わせ、誰にも渡さなかった。
その主流とは違い、小野氏は傍流。主流には決してなれない臣下の道を歩むよう、定められている。
だが、遣唐使の任を得たように、小野氏は決断力に優れ、知能も誰よりも高く、また、貴族と違い健康体。屈強な体も持ち合わせている。
そのため、外交、反乱の有事となった時、必ず、小野氏を見出す。それは統制や判断能力的にも誰よりも有能と、藤原氏も認めているからだ。
小野好古は、文人ながら、瀬戸内海の盗賊となり果てた藤原氏の家系の純友を退治した。
その功績を認められて、帰還後は実入りがあって楽な仕事を回されたが、地方官。やはり、外交や国境の最前線の防衛拠点だった。
だが、地方にいても、いざとなったら、中央に呼ばれる。
斎王の帰還を警護しろ、ということだ。
時に、道真の乱の後、魑魅魍魎が衰えず、内裏は陰陽師が台頭し、陰陽師の力に頼り、結界を張って、妖魔の侵入を阻止していた。
だが、日いずる国である日ノ本でも、完全な結界を張る事はまだ出来ておらず、どこかから亀裂が入り、妖魔が出て来る。
斎王の帰還は、斎王の母が死んだことにより、急遽決まったが、この時とばかり、怨霊、魑魅魍魎、妖魔の類が、浮草のように一か所に集って来た。
白い炎の尾が流れ、満天の星空の青闇を縫って、こちらに集って来るのを見たとき、かつての藤原純友の乱の戦乱を思い出し、好古は震い立った。
(伊勢から出て、十日で摂津に入ることになっている。近江を抜け、伊賀、奈良まで行って、摂津に入り、船で京へ上がらねばならぬ)
東西で合わせて、帝を倒す反乱が起こるなど、未曽有の反乱だった。
瀬戸内海の海を荒れ狂う海賊たちを、船で追い、矢を射かけた。海に漏れた油が燃えて赤々と、夜闇と海闇の中を照らした。
色鮮やかな甲冑が火の中に浮かび上がり、花畑のように色が浮かんでは消え、浮かんでは消えて、散り散りに散った。鋭い白刃も現れては消え、入り乱れた。海賊の若武者たちが襲ってきて、矢で射られては、倒れて海へと消えた。
伊勢から京への道は、近江路、伊賀路、南都、難波津へと至るが、どこも山野の道で真っ暗に閉ざされ、海の静けさ、虚海の広さを出している。
斎王は帝の御身のために、伊勢に仕える代理。役目を終えて帰ると言えども、帝の代わりを勤め、神に奉仕した者。穢れに合わせることは出来ぬ。帰還のためにも、京へ戻るまで、何度も儀式がある。滞りなく終わるまで、決して斎王を妖魔に穢されてはならぬ。
白い炎が赤々と燃え、その数を増して、好古らの警護軍に近づいて来る。好古は剣を抜いて、迫りくる妖魔の群れを待つ。




