↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君に捧げる甦りの宝珠  作者: rーei
第4帖 京の嵐の乱 閑散後宮での罠 前編
PR
40/42

第11話


 もう誰もいなくなった。少なくとも女連中は。


(誰もいない?となれば、こんな広い屋敷、無駄な空洞でしかないわ。ただでかいし、だだっ広いし、人もいない。たった少人数で、広大な屋敷を利用する。効率が悪い、しかないわ)


 忙しくして頭は動かすけれど、同時に庭の天然石の腰掛けを拭く。


(誰もいない。つまり、私の好きに出来るわね)


 久子は、資金集めをせねばならない。休んでいる余裕も時間もない。ただ考えることは、資金集めだ。


(いろいろあっちの側も来るし、服もいいけど、飲み物を出す?施薬院も満員で、薬屋も必要だろうし、ああ、いっそ、店も何でも屋にしようかしら?一応、農村の人らも来るし、都への通り道からも来るし、地方からあちこち来る。若様は都の政府に資金を用立てたり、朝廷の要人だし、政府のエライ人らも来る。店こそ、万能のほうがいい。ああ、こんな広い屋敷、考えたら、可能性の塊じゃない。無駄に放置したら、もったいない。そうよ、良いこと思い付いた。あらゆる方向で、万事稼ぐ体制にしておけばいいじゃない。若様のためにも、資金作りになる)


「ねえ、竹兵衛、若様の食うとか、乱心とかって、どの女でもするの?」

 

 こっそり、横にいた竹兵衛に聞いた。


「女?いや、若様は今まで女に興味がなかった。女に見向きもしたことがない。戦いに明け暮れ、ずっと戦いだったな。若様の女ってどっかいるの?一般の人らが逃げ出すのは、夜の乱心っぷりに、本当に食われかけて逃げる。つまり、逃げるというより、避難する、というほうが合ってるかな。ここにいたい奴や居残りたい奴はいっぱいいるけれど、牙向けられて、噛まれて、食われたら、いたくてもいれないだろ。自然減だよ、自然減。退避するわけ。でも、人間は食わない。若様もそれは見境ある。久子姉貴も、食われかけた?でも、食われてないだろ?」


 竹兵衛は子供だから、久子の疑問の意味を解さず、素朴な返答を返してくれた。






 いたい・・・・いそがしい・・・いたい・・・・


「いらっしゃいませ」


 ここにいたら、容赦なく人が来る。


 今度はうらぶれた都落ちのご主人様だ。


「若様、お疲れでしょう。こちらへ」


 長い髪を垂らしてぼさぼさ、着物は破れて、埃だらけ。おそらく外で戦って来たのだろう。


「温かい飲み物をどうぞ」


 天然石の座席にどっかりと座ったぼろぼろの男を見て、久子は梅昆布茶を出した。


 普段なら文句を言うだろうが、今は言う気力もない。


 じゃり・・・と音がして、誰かが来た。見て見たら、横柄な目つきで人を見下している。阿修羅丸だ。


「いらっしゃいませ。どうぞ」


 またご主人様を殺しに来たのだろうか?それをさせぬためにも、久子は出迎えて、店のように通した。


「ふん・・・」


 気に入らないが、阿修羅丸はとりあえず、争う気はないようだった。


(ここはよくは分からない人らが来るところだ)


 意味はない。ただ、運命が交差する。封じられた方替えの地だから。


 前に会った時は、次に会ったら殺すと言われていたが、戦場で、と言うことだった。だから、今日は構わない、ということだ。


「日本の沖で、怪物退治をして来たか。今回は俺の負けだな。だが、重傷を負ったお前。いい気味だ」


「お前、どうして・・・私と争うばかりする?」


「お前を苦しめるために存在しているからだ」


「争いを止めないのか?もう十分だ」


「十分かどうかは、お前が決めるのではない。俺が決めること」


「もう十分だ。昔のお前に戻ってくれ」


 阿修羅丸は最初は怒っていたが、何か言いかけて、止めた。ため息をついた。そして振り向き、久子にちょいちょいと手で招く。


「囲碁を持って来てくれるか?」


 久子は急いで持って来た。女衆がいないから、なかなか見つからなかった。置くと、二人は慣れた手つきで、碁石を置き出した。長い間してなかったことを、久しぶりに手探りで、二人とも思い出しながらしていた。


「久しぶりだな。こうして対面するのは」


「昔はよくやったなあ、仲安、もう、止めよう、戦い合うのは」


「俺は地獄の悪鬼となった。もう変れない」


「私は、お前に戻って来て欲しい」


「一度、死んだのだ。お前が殺した」


「誤解だ。計画などに賛同してない。私はいつだって、お前優先だった」


「お前は体制側の人間だ」


「戻って来い。仲安」


 久子はお菓子ののった皿と、温かい飲み物を二人の机に出した。二人は何気なく菓子に手を伸ばし、飲み物を飲みながら、囲碁を続けた。


(ここで、こうして甘味処をやるのはいいわね)


 二人のバケモノがくつろいで、何事かを語り合うことができる。バケモノ同士が涙でぶつかり合うこともできる。

 いろいろ商売はあるけれど、ここでやるなら、大勢のバケモノが来てもいい。今後、そういうところにする。人と共に、利用しながら。それこそ、よろず、と久子は己で合点して、うなづいた。


(これだけ大きなお屋敷。利用活用度は高いわ)


「俺はもう地獄の鬼。仲間は鬼。こうして人間でいるフリするのも、ばかばかしい。お前がいくら優しくしても、俺は人間に戻る気はない。だから、もう、俺のことで悩むなよ?」


「私はお前に戻って来てほしい」


「バカだなあ。顔を見せたら悪かったなどと言われても、お前の良心が許さないだけだろ。俺のためではない。お前のためだ。お前の正義心のため。お前の心の傷など、一生つけておけ、せめて、それが俺のためになる」


「どうして、お前は私の言うことを聞かぬ。お前は変わらぬ。お前が戻って来るのなら、何でもする。藤原氏が反対しても、反対する奴らを抑え込む。実頼だって、排除する」


「忠平の後継者だぞ。次の長い政権を担う。たてついたら、お前も道真公のように貶められる」


「やってやる、全世界を敵に回しても」


(あーあ。なんだか・・・)

 男女の痴話げんかみたい。


「ふうん、俺に何でもくれるってわけね。俺もそこまで大事にされているのじゃあ、せっかくだし、考えてみようかな。じゃあ、あの女の子、俺にくれる?若くてピチピチしていて、男の格好していて、お小姓みたい。でも、女の子らしさが残っていて、可愛い。純粋そうだし、血も新鮮そう。娘は良い頃合いにいただかないとなあ。地獄じゃ、死んだ婆さんとか恨みっぽい女子ばかりで、ピチピチしたのが懐かしくて。くれ。俺が美味しくいただく」


「あの子は私の家来だ。身寄りがなく、苦労している奴隷の子だぞ」


「だから、何だ?若い子と付き合いたいんだ。なんだ?何でもくれるって言っただろ」


「ならぬ。うちの者に手を出すな」


 どっかん。と、その時、家が吹き飛んだ。怒った若様が暴れて、机を叩いたら、その勢いで、母屋まで吹き飛んだのだ。


「おお、こわ、なぜそこまで怒る?」


「若い女子を平然と手にかけるとは、この悪鬼め」


「俺に何でも差し出すのでなかったか?」


「痛い目を見せて、目を覚まさせてやる」


 そこでまた、阿修羅丸と涼影の戦闘が勃発した。


(ええと・・・時間がかかりそうね。帳簿でもつけよう)


 バケモノとバケモノの戦いなど、もう見慣れた久子だ。これは続くと踏んだ。


 人がいなくなり、家令の爺やだけでは仕事が回らないのだ。そんなところに構っているわけにはいかない。


 もう人も来る気配もない。こんなバケモノ屋敷だ。鬼も出るし、鬼の性的嫌がらせもある。若い女子は特に無理だろう。


(まあ、若様が男前であるから・・)


 次など期待してはいけない。そんなことは久子は一切、思ってない。使用人がまさか夢を見てはいけない。


(あれは事故ということで)


「またあいつらか。離宮の中だし、ここのやり合いはいくらやっても、外に出ないしね、しーらね」


 屋敷に入りかけて、遠くの空に浮かんでいる人を見た。晴明だ。けど、晴明も消えた。

 おそらく晴明も、あの二人は勝手にやってろと放置したのだろう。



「お前、お小姓好きなのか?」


「わ、私はお小姓好きではない!」


 改めて、若様はそばのお小姓ためには、家も壊す、という噂が立った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。