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君に捧げる甦りの宝珠  作者: rーei
第4帖 京の嵐の乱 閑散後宮での罠 前編
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第4話

「家令さん、店の帳簿がずいぶん溜まっていますね」 


 母屋の欄干のホコリ落とし掃除をしていて、前に見ていた帳簿に気づいて、久子は帳簿を広げた。爺ももう年寄りだ。仕事が進んでない。


(若様の都での店の仕入れから売り上げ、地方からの利益計算・・・もう、かなり処理が溜まっている)


「あの、記入をこちら、こちらはこっちで、これはあちらでないですか?」


「分かっておる。今からやるところじゃ。お前も手が開いてるのなら、やれ」


 頑固な爺は、口では拒否しつつ、久子にやることを頼む。久子もやむなく手伝う。してもらいたいのなら、はっきりそう言えばいいのに。


「それに、この×、負債、ですか?途中でこれほどの損失、野盗が?道々、山賊や損害、破損など・・・こんなの、朝廷は海賊討伐指令を出して、瀬戸内海を討伐してなかったですか?一掃できないのですか?」


「捕っても捕っても、後から出てくるのじゃ。内裏は昔から、軍を差し出して、たびたび討伐するが、一掃には至ってない。治安を確保するのがやっとじゃ。中には知的な集団もいて、経済活動もして隠れておる。若様の港運商売をたびたび襲う山賊もいる」


「一度、この運行ルートを調べさせてくれませんか?」


「松の統領は、都の裏の首魁。合法的な商売もするから、たちが悪い。役所らは、未だ尻尾を捕まえられないでいる。松殿の闇商人は、若様だけでなく、高明様、帥輔様にも反抗的だ。お前は関わるでない」


 だが、久子が頼むと、家令はしぶしぶ承知してくれた。


(黒服の陰陽師探しもまだだけど、父の冤罪晴らしが先だ)


 


 久子は父の運行ルートを、船で遡ってみた。

 船の運航ルートは川も水路も昔から同じだ。

 調べて分かったことだが、荷などどこでも抜き放題、ということだ。

 一応、官制の警備がついているが、地方の年貢で来ている兵士が多い。つまり、わずかな棒給しか出ない警護用兵士しかおらず、途中、どうにでもなる。

 だが、上の監督官がいて、彼らの目を抜けるのは難しい。下の者の勝手を許すとは思えず、むしろ、上の監督している税の官人のほうが怪しくなって来る。

 官制の年貢の官吏は、国の国司のところから出て、各駅道を辿り、多くの日数と人をかけて、都に入って来る。

 泥道は悪路だが、それは馬車や荷車でも同じだ。船にしても、雨で増水したりで、すぐに渡れなくなる。海も同じ。船が沈むことも多い。

 徒歩で行く分も農民らが年貢で駆り出されることが多く、運搬人や兵役が、一般庶民の税の支払いになる運営だ。大勢の人が運搬仕事に出ており、その背景もさまざまだ。

(結局、調べてみたけど、分かったことは少なかった)

 みな、よく年貢の輸送で、山賊に襲われるとは言っていた。運搬人や家来たちがよく死ぬと言っているのは、共通事だ。

 年貢を狙う山賊の数は多い。たびたび、年貢の輸送が狙われる。そのため、官制側は兵士や警護兵を多くつけている。だが、それも山賊を防ぎきる手立てにはなってない。

 裏の世界を牛耳る団体、松統領の話もよく聞いた。裏世界の犯罪組織だから、闇の取引多数に関わる。

 父の冤罪事件=裏金事件なのか?もまだ突き止めてない。官吏と海賊との関係も、さらに調査する必要がある。抵抗されたので、抗戦となり火事となった。その時の物取りの反抗もむろん可能性はある。

 



「松統領によって、偽の荷、偽の帳簿を紛らわせて、埠頭へ入れられていたのです。

 松の統領の目的は、次の官制の商人の指定を得ること。そのため、若様の商団に変わって、官制の荷運びの権利を得る。若様の隊商がいなくなれば、必然的に違う第2位の隊商に権利が流れます」


 家に戻って、少々分かったことを家令に報告した。


 調査すると、若様の商売敵が商売の妨害をしていることに気づいたので、何とか防止しようとしたが、逃げられてしまった。


「官制の荷運びは大きな利権。若様はもちろん護衛をし、公益もかねて運搬しておるが、商売人は途中、さまざまな利益を得られるし、旨味もある。中には良からぬことを考える同業者おるじゃろう。野盗らも常に狙って来る。多くの荷が運搬され、道中も長い。それらが捜査をさらにやりにくく、分かりにくくさせる」


 だが、そのおかげで、都の裏家業の世界の在り様を知ることが出来た。まだ何かは分からないけど、管制の荷、闇の組織と、だいたい問題箇所は把握できたと思う。


「詐欺の偽造をしたのは、元官吏でした。下手人を有沢殿に頼んで、ひっ捕らえて、押印を押させてあり、高明殿の役所へすでに渡してあります。若様ももうじき見に行くとのことでした」


「よくやった。高明殿が衛府を遣わして、暗黒団を逮捕しようと試みたが、すでに暗黒公の手の者は散り散りになっていたり、逮捕できないことが多い。これで、ニセの商団は消えるじゃろう。だが、下っ端はいくら逮捕しても、上は知らぬ存ぜぬで、証言だけでは、上の逮捕が実現するまでには至らんじゃろう」


「そうですが・・」

 

 トカゲのしっぽを切るとは、ようやく意味が分かって、じわじわ来た。トカゲのシッポ切りをしても、むしろ、犯人を上げるせいで、本当の悪が野放しになる。久子としては、意気揚々と、せっかく、若様に悪さをする一味を一掃できると思ったのに。


「まあ、そうがっかりすることもない。高明様もおられる。いつか、また、松統領を捕らえることも出来るだろう」


「はい、そうですね」


 ふがいない結果だったけど、雲や霞かだったのが、掴めて来たと思う。久子もどう捜査するのかが掴めて来たと思う。捜査網とはどう張り巡らすか。


(やはり、決定的な証拠が必要だ)

 

 なまっちょろいことをやっていても、掴めない。大胆な敵に対して、大胆で慎重な捜査網をかけないと、決定打は打てないのだと確信する。


 裏で暗躍する人やものに対し、どこまで捜査の手を広げられるか。深いところまで手を突っ込んで、情報を取り出せるか。


(役所の荷の裏、闇組織の裏家業と、どこまで関わっているか分からないけど、一つ一つ調べて行くしかないわね。完全に事件に飛び込んで、やり切るしかない。私の命に係わることだもの。私しかできないもの。それに、これは若様の仕事のためにもなる)


 海賊か山賊か分からないが、闇の組織に、若様の荷の運搬も荒らされているのなら、闇の組織を片付けることは、若様のためにもなる。


 拾ってくれた若様のためになることを、久子はする。己の父の事件が若様の仕事にも関わるのなら、もっと詳しいことを調べねばならない。



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