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君に捧げる甦りの宝珠  作者: rーei
第3帖 羅城門の乱闘
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第6話

「お前は頭は切れる。元姫ということで、あまり期待はしておらんかったのじゃが、大勢、治療の成果が現れたわい。薬さえあれば、万事解決しておるところじゃ。いやあ、良かった。良かった。これから先、なかなか、行く末怖ろしい、あ、いや、頼もしい奴じゃな。仕入れ係としても、金には意地汚いわ、がめついわ、度胸もあるわ。仕入れ資金を握り締めて、意気揚々と出て行って、妖の変な品、いや、逸品を仕入れて来るし、銭の亡者、あ、いや、年相応に可愛らしい娘の花盛りで可愛らしいものじゃ」


「う・・・お世辞はいいですよ。がめつい、銭の亡者で」


「あ、いや、死にかけたお前にそれほどまでは。稼ぎ頭、そう、お前なら若様の稼ぎ頭になれるこれから、いくらでも儲けて来い。ああ、構わぬ。仕入れて来い。資金の心配はするな。お前が男であればなあ。ワシも安心して隠居出来るのじゃが」


「若様はいつから、このような戦いを?」


 家令の室で、爺が久子に甘酒を飲ませながら、教えてくれた。

 爺も、自分で温かくした甘酒をうまそうに飲みながら、久子をこき使っていて、機嫌良く、何でも話してくれた。


「お前の言う涼影、いわば若様は帝と腹違いのご兄弟であらせられ、皇位継承者とも言われていたが、例の怨霊降ろしの件があって、皇位の順からは外れた。特に若様も皇位に願望はなく、帝への忠義心だけ。ゆえに、怨霊を引き受けられた。それ以来、ここで政府高官を援助しておる。

 ここは、都の悪いものを止める方位神の地。若様も晴明と共に、帝の御ため、都の平和と安寧のため、ここで番人をしている。城南の平和を守り、怨霊を退治し、世を守る、晴明と共に、封じ込めの達人。

若様こそ、都の危難を祓う、方替えをする都の守護者。都の番人。

 晴明ら賀茂忠行、先の反乱を抑えた小野好古、藤原郷衝等の守護者もいるが、鬼様と呼ばれながら、都を守っておる。

 怨霊退治に駆け回る晴明らと助け、朝廷ではご兄弟ら高明様を助け、帝をお支えする。ワシらにとって、若様は尊い方、じゃよ、いや、ご兄弟の帝にとっても、おそらく、頼りになる、かけがえのない血のつながった方」

「その怨霊とは何なのでしょう?先の反乱で討たれた将門と純友の怨霊?それとも、菅原道真?」

「怨霊とは何か?怨霊とは人じゃ」

「人・・・?」


 その時だ、どたばたとして、彦治(ひこはる)が飛び込んで来た。

「た、大変です。邪宗集団が官軍を突破して、都入り目前だとか」

 爺はぼとり、と甘酒のぶ厚い器を落した。

「な、なんじゃと、都まで来たというのか」

「今、門の前で大勢の民衆が集まって、兵と対峙しています。大勢の民衆が京を襲うとか襲わないとか。都の人々は逃げ回っていて、襲わずとも、もう、皆、逃げ回っていて、暴動寸前です。都や周辺ももう、騒動だとか。若様もお役目のため、羅城門へ向かいました」

「な、何、旦那様が門へ?都の人々の面前へ出てしまうというのか?誰もお止めしなかったのか?」

「都の危機に隠れているわけにはいかんと、さらに、悪いことに、そこへ、晴明も」

「た、大変じゃ」

「何が大変なのです?」

「人前に、鬼で出た若様を見せたら駄目だろう」

「で、でも、人々を慈しみ、誰もを包容し、平和と安全を維持する鬼、いや、いわば超人。その若様が、なぜ人前に出て、悪いのですか?国民も知るべきです」

 若様は久子の自慢の主人。それを隠すだなんて、何も悪いことはしてない。確かに見かけは怖いけど、中身は若様。普段は優しくて、慈愛溢れ、笑顔も上品だ。ちょっと、確かに、実際ヤバイ時もある。でも、真実は誰よりもお優しい若様だ。

「旦那様が民衆と対峙して、暴れ出したら大変じゃ」

「あっ」

 斎王の帰京の時に、若様と晴明は、戦場でやりつけ合っていたのだった。あの時も、爺やが必死で若様を止めていたが、正解だった。

「また晴明と鉢合わせしたら、大暴れするぞ。晴明もだ。あの二人は、仲が悪い。悪いというレベルではない」

(確かに)

 先の斎王代の帰還の時にも、やり合っていた。かなりの妖魔との戦いだったのに、そっちのけだった。危機迫る中、都の防衛の要が警護もせず、昔の確執で、二人が喧嘩し出したら、大変だ。国民に見られたら、一気に、若様の信用は失墜する。

(そうなったらむちゃくちゃだ。私の仕事もなくなるかも)

 再び、久子も危機だった。

「た、大変。若様が、若様が、止めないと。都の人に見られたら、どうしよう」

 足に縋って止めた爺やと同じく、久子も汗をかき、頭を抱えたり、前へ進むか後へ戻るか。いない相手を、縋りついてでも止めたい。

「そう。あれをおっぱじめられたら、我々も面目丸潰れとなる。大勢の主要な政府高官もいる都じゃ。例の晴明も怒らせたら、どう変わるか分からんぞ。ああ見えて、若様より、気性が荒い」

「でで、でも、今までも問題なかったのでしょう?私も都にいて、気づかなかったぐらいですから」

「確かに今まで協力し合っていた。いたから、都も守られた。だが、それも、高野山とか比叡山とかがいたからで。急なことで、高野山も来ておらぬ。太師が来たらいいが、今は火急の時。大衆の面前で、それも京の主要な正門で、それで、二人の力が激突したら、都が壊滅するかもしれん。いったいどうしたら・・・」

 涼影の任務を助けたいが、さすがの久子も戦いを避ける策など、なかなか、思い付かない。

「この度は、都の防衛。大勢の民衆には、多くの兵の動員が必要だろう」

「けど、兵士などどこから・・・?」

 久子も同じ考えだ。だが、都の周りに回せる兵は、数が限られている。

「内部を抑えるのにも、大勢の兵がいる。いくら若様でも、一人では都は守りきれない。群衆相手だ。たいがいは無害な群衆としても、中に犯罪者、闇の一味、海賊や山賊の類もいる。また、中には、朝廷への恨みを持つ反乱分子がいるかもしれん。さらに若様に反抗的な一味も。そ奴らは、この機会に、都に危害を加え、中には略奪、暴動を起こそうとしておるはずじゃ。そのために、多くの警備兵がいる。京の町は衛府らが守っておるが、それでも守りきれない。今、藤原忠文様が兵を率いて、羅城門の守りに出ているはずだが、まだ、来てない」

(兵・・・藤原忠文・・・?)

 久子は驚きを通り越して、帳簿を持つ手がぶるぶると震えた。

(藤原忠文は父の冤罪事件の民部卿だ)

 藤原忠文。あの二戦とも辿り着かない将軍が、まだ来てない。

(偶然か、運命か)

「それは兵を急がせねばなりません。私が急かして来ます」

「な・・・お前が?」

 爺は誰よりも驚いた。

「仮にも、帝の名代を預かる将軍だぞ。それに、お前に出来るか?将門の時も純友の時も、いくら促しても進まなかった。日ノ本が、天下二分、いや、東西で反乱されても、誰も動かすことが出来なかったのに、お前がやれるか?」

「やってみます。やってみないことには分かりませんわ」

「う・・・うむ」

 家令も分かっていた。危急の時だ。それしかもう、方法は無い。全軍を用意するには、時間がかかる。しかし、大軍はもうすでにいるのだ。すぐ、都の外に。

「そうだな。確かに、優雅に外交に出す着飾った使者でなくても良い。戦場では、使者は誰でも構わない。用件を果たす者こそが、使者だ。なら、お前も行け。各自、地方から兵を集めたり、増援に動いている。忠平殿へ密使は朝廷からも送られているはず。仕事を果たした者こそが、使者となる」

「はい」

 爺やも何だか、不納得だ。こんな近距離で、行軍指令をやり合っているのが不服なのだろう。

 久子は父の書簡も見ていたので、伝令などのやり方も知っている。また、足腰は強い。日頃、仕事や使いで歩き慣れている。生活費のために、農業や運び屋もやったので、さらに鍛えられた。それにすぐそこだ。

「お前もただいま、お出ましくださいませ、増援請う、と伝えろ。だが、分かっておるな?忠平殿は朝廷の参議。高明様と同列のナンバー10であり、朝廷の御旗を上げた官軍の統領。お前は身分は最下層。失礼があって、切り殺されても文句は言えぬぞ。くれぐれも失礼のないようにな」

「はい、分かりました」

「なら、行け。何とかして来い」

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