ヤナヤッツ視点とレックス視点
元騎士団副団長ヤナヤッツは、腹を立てていた。
「そのようなかすり傷がいまだ痛むのは、心の病気に違いない。療養することをお勧めする」と言われて、副団長を解任させられたからだ。
騎士団で指揮を執るのは好きだったのに!
名誉の負傷を負った私に対して、治療をさぼった聖女がいたから、戒めのために休んでいただけなのに!
せめて部隊長の座を、と思って騎士団に顔の効く侯爵に頼みに行ったが、「私の顔をつぶしておいて何を戯言を」と相手にされなかった。
「誰も彼も! なぜ私の有能さを理解できない!」机を拳で叩いた。
手が痛くなってよけいにむかついたので、騎士団にある魔除け石を、全てただの石に変えてやった。
大量の魔物に襲われればいい。そして「やはりヤナヤッツ副団長は必要な人材だった! 彼がいないと、こんなに苦戦するのか!」と思い知ればいいのだ。ふふふふふ。
◇◇◇
レックスは、自分の強さにあきれ返った。
(ゴーレムが豆腐みたいに切れる…魔物に噛みつかれても爪で切り裂かれても、かすり傷ひとつつかない…なにこれ…)
現在、レックスの所属する王国騎士団は、魔物の討伐のために、遠征に出ている。
大型の魔物が大量に発生していて、冒険者ギルドへの依頼では追い付かなくなったからだ。
ティラが念入りに攻撃と防御の魔法をかけてくれてたけど、まさかここまでとは。
あまりにも規格外なので信じられない気持ちもあるが、おかげで躊躇なく先陣を切れる。
滞在1か月の予定だったが、1週間ほどで壊滅することができた。
「団長…強すぎる…」
「倒すの早すぎませんか…」
「もう壊滅しちゃうなんて…」
と部下に怯えられてしまったが、「ヤナヤッツがいないから、戦いやすかったんじゃないか?」と言ってごまかした。
「ああ~副団長!」
「よけいなことばっか命令するやつ!」
「副団長がいないとこんなに簡単だったのか!」
と、みんなが納得してくれたので良かった。
しかし、ティラの能力は計り知れないな。
この能力、普通に、国家にとっても教会にとっても脅威なんじゃないだろうか。
すでにプリティラに対する民の人気は、国家を揺るがす勢いだし、排除の動きが出てきてもおかしくない。
今まで以上にティラへの防護に努めないといけないな。
◇◇◇
「レックス様ー! お帰りなさい!!!」
屋敷の扉が開いたと同時に、犬のようにティラが飛びついてきた。
とりあえず肩をつかんで体を離してから「ただいまティラ、あなたの魔法のおかげでとても戦いやすかったよ、ありがとう」とお礼を言うと、ティラは「どういたしまして!」と誇らしそうに笑った。
この表情、犬が飼い主に褒めてもらって喜んでるとこと一緒なんだよなあ。これ見たらやっぱ、かわいいと思っちゃうよなあ。でも「かわいい」とか、言ったら負けのような気がするので、何事もなかったように「ティラは? 変わったことはなかった?」と聞いた。
「あ、うん、暗殺者が8人くらい来たよ!」
え!
「暗殺者?」
「うん、この屋敷には結界があるから来ないけど、外に出た時に、呪いとか吹き矢とか矢とか魔法とかで襲ってきてた。国か教会か知らんけど、全部返り討ちにしたよ」
「返り討ち…」
「私への攻撃を全部跳ね返す魔法があるから。私を殺そうとした人はみんな死んじゃうかもだけど、殺人のリスクってそういうものだから、しょうがないよね」
「そ、そうだな…」
(そうか、この子に防護なんて必要なかったな…)
私は自分の浅慮さを恥じた。しかし、暗殺者が来てるということは、ティラ=プリティラってことがばれているのだろうか。「疑わしきを滅す」の精神だろうか。
(まあどっちにしても、ティラは無敵な気がするからいいか…)
私は深くため息をつきながら、ティラの「ほめてほめて!」の顔を見て、つい頭をなでてしまうのであった。そしてまた抱き着かれて「嫁入り前の娘が異性に抱き着くんじゃありません」とたしなめるのだった。
ーちなみにこの後、ヤナヤッツは魔石の入れ替えがばれて、騎士団を懲戒免職となった。
魔石の入れ替えなんて、全然気づかなかったけど、良かった。




