レックス様はお仕事なので
レックス「ティラ、愛してるよ」
「うれしい! 私もですレックス様!」
レックス「今の任務が終わったら結婚しよう」
「レックス様ぁ! ずっと待ってましたその言葉!」
「何やってるんですかティラ様」
びく! 声に驚いてふりむくと、いつのまにか侍女のマルタさんがお茶を持って立っていた。
「あ、もうお茶の時間だった!? やだ変なとこ見られちゃった!」
「わっなにこれすごい! ご主人様そっくり!」
テーブルの対面に座らせているミニレックス様を見て、マルタさんが驚いてる。
「レックス様がいなくてさみしいので、魔法人形を作ったのー。しゃべるのよこれ」
「えっほんとに? ご主人様こんにちは!」
レックス「やあこんにちは」
「すごいすごい! ご主人様の声だー!」
「でしょう? 口の動きがおかしいとこはまだ改良の余地があるけど、自分でもいい出来だと思うの」
レックス「ティラが世界で一番きれいだ」
「……」
レックス「こっちを見て微笑んでくれ。君だけを見つめていたい」
「……」
「い、いやあの、つい願望が…。言われてみたいことだけ入力してあるからその。ご、ごめん、お願いだからドン引かないで…」
マルタさんが私の手をがしっと握り、「いいえ、気持ちはわかります。これはたぶん、市場に出したら売れると思うし、私も欲しいです!」と力強く言ってくれた。
「ただ、ご主人様に見つかるとやばいと思うので、ご主人様が帰ってくる前に、『無難なことだけ言うバージョン』も作っておいたほうがいいと思います」
「そ、そうね。そうするわ」さすがはマルタさん! 適格な助言だわ!
「さてレックス様の補給はしたし…今日はどうしようかな…」
マルタさんが入れてくれたお茶を飲んで、相談用紙を読み直す。
とりあえず、カードのせいで病気やケガを誤解されてるっぽいとこには、最優先で向かった。
そして魔力が澄んでいたらすぐに治して救済カードを置いて、汚れてたら調査して、その結果で救済か断罪かのカードを置いて来た。
そんな感じでひとつひとつ解決していったので、最近はだいぶ落ち着いてきたようだ。
勝手に罪人扱いされていた人たちが、「疑いが晴れた」と喜んでいるという噂も聞く。
「今日は…これ行ってこよう」
書いてあるのは、DV夫の相談だ。機嫌が悪くなると妻や子供を殴る。そんな奴とっとと別れろと思うが、「しばらくすると、殴ったことを泣いて謝ってくるんです。本当は優しい人なんです。私が毎日殴られるのは、もしかしたら、天罰なのでしょうか」って、そんなわけあるかーい! 私は相談用紙を握りつぶした。
早速その奥さんのおうちに行って、旦那が帰ってくるのを待って、魔法をかけた。
姿を消して様子を見ていると、旦那が「目玉焼きの焼き加減が悪い」と怒り出した。ほんとにクソなんだなこいつ。謝る奥さんに対して「なんだその目は! 怯えたような顔をするな!」と言ってビンタした。
「!?」
「!?」
奥さんの頬がみるみる赤くなるのと同時に、旦那が自分の頬をおさえて絶句した。
そう。これは「人に暴力をふるうと、その痛みを自分が感じる」魔法だ。
奥さんは痛みが無いことに、旦那は激痛に驚いている。
旦那が、確かめたかったのか、今度は奥さんの逆の頬をビンタしてる。やっぱりクソだな。
「なんだこれ! なんで俺の顔がこんなに痛いんだ!」
そのタイミングで奥さんの前にプリティラ断罪カードをひらりと置いた。
奥さんは、カードを手に取って「断罪よ…」とつぶやいた。
そして「それが殴られる痛みよ。プリティラ様が、あなたに人の痛みがわかるようにしてくれたのだわ!」ときっぱりと言った。
「殴られると、こんなに痛いのか…」
そうよ! 思い知るといいわ! 奥さんのほうのケガが治らない限り、痛みは消えないから、治療も進んでやるようになるはず。このまましばらく放置しよう。旦那が、暴力を受けることの痛みを、骨の髄まで感じるまでは続けないとね。
◇◇◇
1週間ほどして、市場に情報収集に行ったら、DV夫の奥さんが、お友達らしき女性と話をしていた。思わず聞き耳を立てる。
「えー、あんなに、別れたほうがいいって言っても絶対別れなかったのに、別れたの?」
(えっ! 別れたんだ! あのクソ旦那、改心しなかったってこと?)
「うん、何度も助言してくれてたのにごめんね。プリティラ様のおかげで、ダンナから暴力を受けることはなくなったんだけど」
「暴力がなくなったのに別れたの?」
「自分の都合のいいように変換したっていうか…『俺は、人の痛みが自分の痛みのように感じる! それって、察するのとは違う次元っていうか、人間の高みに登ったってことだよな!』と、嬉しそうに自慢して、驕り高ぶるようになっちゃって」
(えええええ!?)
「その言い分を聞いてたら、この人ってこんなにバカだったのか、って百年の恋も冷めたというか」
「そりゃ冷めるわね」
「そういうわけで、子連れだけど、住み込みで働けるところも見つけたし、すっきりした!」
奥さんが晴れ晴れとした顔で笑っていたので、私も嬉しくなった。
(なんか、思ってた解決とは違ったけど、奥さんはすっきりしたみたいだし、旦那も謎の高揚感で幸せそうだから、まあいいか)
私は「今度はミニレックス様になんて言ってもらおうかなあ」とへらへら考えながら、レックス様のお屋敷に戻ったのだった。




