新しい家族ができたわ!
「なんだこの生き物は」
レックス様がお仕事から帰ってきたので、玄関でお出迎えをしたら、私の頭の上に乗ってるサウルスちゃんを見てそう言った。
「この子はサウルスちゃん! 西の森で拾ったの!」
私は鼻高々で自慢した。
「サウルス…なんか、ドラゴンのミニチュアに見えるんだが、トカゲなのか?」
「さすがレックス様、お目が高い! サウルスはホーリードラゴン! 神龍だよ!」
「し…」レックス様が絶句した。
「あっ、小さいからってバカにしないでね? 一緒に住めるように、小さくなってもらったけど、本当はすっごいおっきいのよ!」
「いやあの、大きいのは知ってる。それよりサウルスってのはトカゲの名前だぞ? 誇り高いドラゴンに、それも神龍に、そんな名前つけて大丈夫なのか?」
「大丈夫もなにも、ティラは我が主。名前をつけてもらえただけで光栄だ」
「神龍がしゃべった」
「当たり前だろ、私を誰だと思ってる。神龍さんだぞ?」
『斎藤さんだぞ?』のような口調でサウルスが威張ってる。かわいい。
「それに、『ティラのサウルス』と思っただけで、なんだかとてつもなく強い生物になった気がするのだ。とてもいい名前だ。ティラよ、感謝する」
「うふふ! サウルスも名前を気に入ってくれて良かったわ! 新しい家族として、ここに住むからよろしくね!」
「家族なんだ…神龍が…」
レックス様が、なんか複雑な顔をしてるけど、頭のいい人が考えることはよくわかんないので、気にしないことにした。
「それより、レックス様、明日はお休みですよね? 3人でピクニックに行きませんか?」
「なんだか嫌な予感しかしないのだが、本当にピクニックなのだろうな?」
「もちろんです! お弁当を持って、縄張り争いを見学に行きましょう!」
「縄張り争い」
「西の森はレッドドラゴンとブルードラゴンのどっちが治めるかを争っていてな。毎年、西の森の王者決定戦が行われるのだ。勝者が1年間、王者として崇められる」サウルスが説明してくれた。
「すんごい面白そうでしょう? 炎のドラゴンと氷のドラゴンの対決! 相殺されて暑くも寒くもなさそうだし!」私はもう、想像しただけでうきうきだ。
「いや気にするとこそこじゃないような…。そうか、西の森が定期的に焼野原になるのは、そういう理由だったのか…」
「私は審判として行くので、ぜひ一緒に見物にきてくれ」
こんなかわいいサウルスちゃんのお願いだもの、優しいレックス様は必ず聞いてくれるわよね!
そう確信してる私は満面の笑みでレックス様を見つめる。
レックス様は、サウルスと私の顔を交互に見て、「喜んで行かせていただきます…」と言った。
「わーい! レックス様大好きー!」と飛びつこうとしたが、素早く腰をかがめたレックス様に、ひょいっと背負い投げされた。くっ! 身体強化した体は伊達じゃないわね。
もちろん私も、2回転ひねりしてからぴしっと着地したけど。
◇◇◇
翌日の西の森は快晴だった。
「決闘日和だねー!」「ねー!」
私とサウルスが嬉し気にそう言うと、レックス様も「そうだね」と言った。心なしか元気がなさそうだ。
あっ、お弁当の量が少なかったかな? と思って「お弁当が少なかったら、そのへんの魔物狩って焼くだけだから心配しなくていいよ?」と言ったら、「君はもう少し別の心配をしたほうが…いや、心配とか…いらないのか、そうだよな…」と勝手に納得して力なく笑っていた。どうしたのかしら。別の心配…食べ過ぎて太ったらどうする、とか? たしかにそれは心配だわ! 私は、お弁当がどんなにおいしくとも、腹八分を守ろう、と心に誓った。
そうこうするうちに、王者決定戦の会場に着いた。たぶん東京ドームの3倍くらい? の場所が、雑草で覆われている。一年の間にこんなに草木が伸びるのねえ、植物ってすごいわあ、と感心する。
レッドドラゴンとブルードラゴンが位置につく。サウルスちゃんは2匹の真ん中で羽を閉じて座っている。大相撲の「見合って見合って」の状態みたいだ。サウルスちゃんが飛び上がったらスタートらしい。
私とレックス様は、少し離れた草の上にシートを広げて座っている。ここでお弁当を食べながら観戦するのだ。わくわく。
サウルスちゃんが飛び上がった。レッドとブルーも飛び立つ。
「始まった! 始まったわよレックス様!」私は唐揚げを刺したフォークを振り回しながら応援する。
レッドが炎を吐く! ブルーが氷の息を吹きかける! 飛び上がったかと思ったら急降下して噛みつこうとしたり、キックしようとしたり、爆風が炎が氷が吹きすさぶ。目の前の肉弾戦に大興奮だ!
「ねえねえ、どっちが勝つと思う?」とレックス様を見やると、白目をむいていた。
あらっ、少しでも臨場感を味わえるように、匂いや温度を感じるバリアを張ってたから、もしかして攻撃を受けたような錯覚しちゃったのかしら?
軽く回復魔法をかけると、レックス様の瞳孔が戻った。良かった。
「ティラ…君がいるから安全なことはわかっているんだが、この場面は刺激が強すぎる…」
あらまあ、百戦錬磨のレックス様でもそう思うなんて、ドラゴンってすごいのね。
私はわかりやすくドーム型のバリアを張った。これなら、安全圏がわかりやすいので、気安く観覧ができるはず。
それからはレックス様も観戦を楽しんでくれたので、2人でどっちが勝つかを賭けて、応援合戦した。
1時間ほどで決着がついた。今年はレッドの勝ちだった。
「やったあ!」レックス様が喜ぶ。
くそー。ブルーのへなちょこめ。「目つぶってくしゃみしたせいで炎をよけられなかった」なんて、まぬけな負け方しやがって。
でもいいの。レックス様が勝ったということは、私にお願いをしてくれるってことだし!
レックス様からのお願い! なんだろうなんだろう、想像しただけでワクワクしちゃう!
こんな賭けなんてしなくても、なんだってあげちゃうけど! でもレックス様から望まれたい!
「ティラ、賭けのことだが…」
「うん! なんでも聞くよ! 何がお望み? ごはん? おふろ? それとも!」
私が上着のボタンを外そうとするのをすばやく止める。ちえっ。そして言った。
「もう生き物を拾ってくるのはやめてくれ」
「え~~、なにそれ?」
「だっておまえ、これからもフェンリルとかフェニックスとか、拾ってきそうなんだもん…。身が持たないよ…」
なんか全然面白くないお願いだったけど、賭けは賭けなので、しぶしぶ了承した。
サウルスが戻ってきたので、「お疲れ様」と言ってお務めをねぎらった。そして後片付けをして、焼野原になった西の森を後にした。テレポートで一瞬なんだけど、ピクニックなので森の中は歩いた。
部屋に入って「あー、楽しかったー!」と息をつく。
フェンリルとかフェニックスとか、拾えたら楽しいと思うんだけどなー。
止められちゃったの残念だなー。
「まあでも、私にはサウルスちゃんがいるからいいか」とサウルスに言うと、満足そうに羽をひろげた。
そして(レックス様との子供も、5人は作るつもりだから、それ以外の家族は増やさなくてもいっか)と納得するのであった。
ティラの名前を決めた時に、いつかサウルスを登場させようと思っていたので、出せてよかったです。




