プリティラカードの弊害
「困ったことになった」
私の部屋に来たレックス様が、いつになく難しい顔で言った。
「どうしたの?」私が聞くと、
「プリティラカードが、悪いほうに人の行動を操作している」と言う。
「えっなんで?」私はびっくりして身を乗り出した。世のため人のためのカードなのに、そのせいで問題が起きては本末転倒だ。
レックス様によると、最初に気づいたのは、友達のサッチアス侯爵の魔力の色だという。
「きれいな青色だったのに、急にくすんできたんだ。真面目で誠実な貿易を営んでいた奴で、悪いことに手を染めるような人間じゃなかった。経営も順調だったはずなんだ」
「ふんふんそれで?」
「サッチアスには学園に通う年頃の娘がいて、彼の家を訪ねた時には、いつも顔を出して挨拶に来てくれていたんだが、それがなかった。学園にも行ってないし、社交の場にも出てこない。何かあったのかと思って使用人に聞いたが、何も教えてくれないんだ」
「引きこもりになっちゃったのかしらねえ」
「気になって調べてみると、侯爵家にはネクスート国の人間が出入りしていたんだ」
「ネクスート国。お隣の国ね」
「そう。そしてネクスート国の人間が、馬車に荷を積んでいるのが見えた。そしてそこで魔力が真っ黒な人間がサッチアスと話していたので、思わず出て行って荷を改めさせてもらったら、国外に持ち出し禁止の鉱物だった」
「犯罪!」
「サッチアスを問い詰めても『見逃してくれ』の一点張りでらちが明かない。そこで『プリティラ様が見てるぞ!』と言ったら…」
ドキッ。なんか嫌な予感がするけど「言ったら?」と先をうながす。
「『プリティラ様が見ていてくれるなら、こんなことにはならない!』と叫んだんだ」
「ど、どういうこと?」
「犯罪の現行犯を見たんだ、『正直に話をしてくれれば悪いようにはしない』と持ち掛けて、詳しく話を聞いた。そうしたらこういうことだった」
レックス様の説明によると…
サッチアス侯爵の娘さんは、体が少しずつ、腐ったように黒くなる病に侵されてしまった。見た事もない奇病で、医者を呼ぼうとしたが、使用人が『もしかして、プリティラ様の断罪なのでは』と言い出した。
そんなわけはない。自分の娘は、どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ。でもこんな奇病に侵されたと人に知られれば、『邪悪なる者だから断罪されたのでは』と噂になるかもしれない。嫁入り前の娘に妙な噂をたてられたくない。使用人には口止めして、秘密裡に治療法を探していたところ、隣国から、薬売りを名乗る商人が現れた。
娘の症状を説明すると、隣国には治療薬があるというので、少し分けてもらって体に塗ったら、黒かった部分が少し薄くなった。歓喜して、もっと薬が欲しいと言ったら、『この国の鉱物が原材料なので、それが手に入らなければ作れない』と言う。鉱物を持ち出してはいけないことはわかっている。しかし娘を治すためにはそれしかない、と思い悩んだ侯爵は…
「密輸に手を出してしまったというわけだ」レックス様がやれやれというように手の平を見せた。
「それって、詐欺よね?」
「うん。奇病のような呪いをかけて、薬売りとして現れる。自作自演の詐欺だよね。サッチアスも、こんな単純な詐欺にひっかかるような奴じゃなかったんだ。この国でしか採れない鉱物が、隣国の薬の原材料になるわけがない。でも自分の家族が奇病になったら、理性のタガが外れちゃうんだろうね」
「人の弱みにつけこんで……! 許せない!」怒りで鼻息が荒くなる。
「ほんとにね。昔からこういう詐欺はあったけど、今は人に相談しにくくなってるのかもしれない」
「プリティラカードのせい?」
「そう。病気になったら『邪悪なる者への天罰』と思われる。昔からの持病に対しても『高潔な魂だったら、救済が与えられるはずなのに』とヒソヒソされる。因果応報が広まると、こんな弊害があるんだね」
「カード配ってなくても、勝手に想像されちゃうのか。そんな、全国民を見張ることなんて、できるわけないのに」
「そうだな。何もかも見通す神様みたいに思われてるのかもしれないな」
「カードに『全国民を見て回ってるわけじゃありません』って注釈入れようかな」
「それはやめなさい」
「とりあえず! プリティラカードは、救済と断罪に分けて配るべきな気がする! そんでもって、侯爵の件に落とし前つけとかないとね!」
私は立ち上がると、レックス様に案内してもらって侯爵の家に行って、こっそり侯爵令嬢の呪いを解き、プリティラカード(「高潔な魂に救済を」だけバージョン)を置いてきた。
ちなみに、姿を隠す魔法も身につけたので、人に見つかる恐れはない。
そんでもって、隣国の詐欺師が尋問されている部屋の近くまで連れてってもらって、こっそり自白の魔法をかけた。これまでの活動や、だまし取った金品のありかを吐いたので、輸出禁止の物品は全てテレポートして取り戻し、「邪悪なる者へ断罪を」バージョンのプリティラカードを置いてきた。ついでに、関与した人間には股間がかゆくなる呪いもかけた。
「後始末めんどくさいよう~~~」自室のテーブルに突っ伏して弱音を吐いたら、対面に座っていたレックス様が、私の頭をポンポンしながら「お疲れ様。あなたが鉱物を取り戻してくれたおかげで、サッチアスもそれほどの罪にならずにすみそうだよ」と微笑んでくれた。
うおおおお! 頭ポンポン! 至福!
元気百倍になった私は、頭を上げて「レックス様、私ね、お店を建てようと思うの」と言った。
「お店?」
「うん、今回みたいな詐欺にあわないように、何かの現象が起こった時、それがプリティラの仕業かどうかだけでもわかるようにしたいのよね」
「それは確かに」
「プリティラは謎の人だけど、窓口になるようなお店があれば便利でしょ」
「でも、身元を隠したままで、窓口なんて作れる?」
「表向きは『困りごと相談室』みたいなやつで、相談料のかわりに、ちょっと高いお茶代を払ってもらうようなシステムで」
「ほう」
「そして入口に『プリティラ立ち寄り所』って書いておく!」
「いやちょっと待て、そんなこと書いてあったら、待ち伏せする奴とかが出てきて面倒なんじゃないか?」
「姿を隠して出入りするから平気な気がするんだけどなあ。じゃあ『プリティラ協賛店』とかにする?」
「なんか違う気がする」
「プリティラ取扱店」
「やけくそになるな」
こうして私とレックス様は、『店の名前について考える』という共同作業に、夜中までいそしんだのであった。




