レックス様のお手伝いをするわ!
「♪プリティラ、プリティラ~、ひーとり、こっそり~、悪をーこらーしめて…」
「何の歌だ…」
レックス様が私の部屋の扉から顔をのぞかせた。
「やだ! おかえりなさい! 作曲に夢中でお帰りに気づか…」
忠犬のように走り寄って、レックス様にごあいさつをしに行ったけど、言葉が続けられなかった。力が抜けて、その場にへたりこんだ。
「え、ど、どうした?」
レックス様が困惑してる。
「だ、だって…ひげ、おひげが…!」
「あ、ああすまん、ちょっと宿舎で寝泊まりしてたから整えられなくて」
「どんなご褒美よ…!」感動で打ち震える。
私はひげフェチなのだ。この、麗しいお顔と美しく鍛えられた肉体に、無精ヒゲって!
「世界一かっこいい…うっうっ…生きててよかった…」
あまりの尊さに、座り込みながら手をこすり合わせて拝んでいると、
「そ…そんなに喜んでもらえるなら…伸ばそうか?」
!! レックス様が! めっちゃ神の申し出を! なにそれ超うれしい! でも…でも!
私は涙をのんでぐっと唇をかみしめ、「それはダメ!」と言った。
「ダメなんだ…」
「レックス様がヒゲをのばしていいのは38歳から!」
「38…? ずいぶんハンパな…」
「37までは若々しく凛々しい騎士団長様でいてほしい。そして38歳から59歳までは、渋いヒゲのイケオジ時代がいいの!」
「イケオジ時代…」
「60歳からは、ヒゲ剃って老眼鏡でオールバックの知性派イケジジ! 私はメガネフェチでもあるので!」
「老眼鏡でいいんだ…」
「完璧なイケメン三段活用計画! だから今は『たまの無精ヒゲ』が大事な養分!」
「ちょっとなに言ってるかよくわからない……」
「私の美学だから、気にしないで! それよりなにか用事があったのでは?」
レックス様はハッとした顔で「そうだった! こんなくだらない話をしてる場合じゃなかった!」と言った。
「くだらなくないのに…愛を深めるための段階なのに…」
「深めなくていい。実は悪人を捕まえたいんだが手詰まりなんだ。なんとかならないだろうか」
「詳しく教えて」
レックス様によると、ダイカーン伯爵領の領主であるエチゴヤンが、脱税をしているそうなのだ。実際は大きく儲けているのに、架空の経費や人件費の水増し、在庫の隠蔽などで利益がないように見せかけて、支払う税金を少額にしている。
その証拠を集め、さあ逮捕と思っていた時に、エチゴヤンの秘書だという男、デッチーが自首してきたのだ。「すべて私がやりました」と裏帳簿を持って。
エチゴヤンの指示だということは明白なのに、デッチーの存在のせいで罪に問えない。デッチーはたぶん、自分が罰せられる見返りに、残された家族への金銭や安全などを約束されたのだろう。自分がやったの一点張りで取り付く島もない。
このままではデッチーが重い処分を受け、エチゴヤンは無罪放免になってしまう。逆粉飾にエチゴヤンが関与している証拠を必死で探したが、見つからない。
「最初から人身御供にするつもりだったのだろう、指示書なども残らないように、口頭ですましていたに違いない。書き換えられた決算書も裏帳簿も、すべてデッチーの筆跡だった。このままエチゴヤンを見逃すのは嫌なんだ。どうにかならないか」
そっかー。それでここ数日、宿舎に寝泊まりして証拠を探してたのか。偉いなあ。
「でもさ、『自首の見返りに、家族のことは面倒みる』っていう証書だけはあるはずよね? それがなきゃ、本当に約束を守ってくれるかどうかわからないもん」
「そう思ってエチゴヤンの屋敷もデッチーの家も探したが、見つからないんだ」
「うーんじゃあ、これを持っていって」
私はプリティラカードを渡した。
「カード? これがあっても…あっ文面が違う!『プリティラが、正義の道を指し示すわよ!』…ってなんだ! この『わよ』は余計だろどう考えても」
「いいから持ってって。それで証書の場所がわかるから」
「なんだそれ…」レックス様は半信半疑の顔をしながら、仕事に戻った。
◇◇◇
「ティラ! ありがとう!」
レックス様が、ツヤツヤキラキラの笑顔で現れた。
「このカードを持って伯爵邸に行ったら、発信機みたいにピカピカして方向を示すから、証書の場所がわかったよ! デッチーの家でも見つかった! これでエチゴヤンを法で裁くことができる!」
「よかった」私はにこにこした。
「私が証拠を集めるために何か月も努力していたのに、ものの数分で解決してしまったことに複雑な思いもあるが…」
「世の中って不条理なものよ」
「あなたに言われるとそれもまた複雑な思いが…。とにかく助かった。礼をしたいが何か望みはあるか?」
「えっ!!! それならぜひ!!! やってもらいたいことが!」
「え?」
私はさっそく侍女に銀縁の伊達メガネを用意してもらい、レックス様の髪をオールバックにセットしてもらった。イケジジの時のお楽しみであったが、若いレックス様の知性派イケジジも見たかった。
「思った以上に…」私はわなわなと震えながら、レックス様の足元にひれ付し、「美しすぎます…ありがとう…ありがとう…」と感謝の言葉を呪文のようにつぶやきつつ、心ゆくまで鑑賞した。
レックス様はまた複雑な顔をしながら「きしょ…いや、そこまで喜んでくれるなら…まあいいか…」とため息をつくのだった。
冒頭のセリフ、何の曲をイメージしながら書いたか、あててみてくださいね~。
80年代の曲です。




