プリティラカード活躍中!
「なんだこれは」
部屋の中に積まれた大量の魔石を見て、レックス様が茫然として言った。
「あっ、タダでお世話になるのは申し訳ないので、魔石取ってきたの! 宿代として受け取って!」
「いや、宿代って…」
「あっ、私の体で払うほうがいいならいつでも…
「いらない」
すごい勢いで断られた。ちっ。
「どこでこれだけの魔石を…」
「北の『絶死ダンジョン』だよ~。あそこ、人目がないから、安心して能力全開放できるのよねえ」
「絶死ダンジョンて…『絶対死ぬから近寄っちゃなんねえ』という、昔からの言い伝えが名前の由来の…」
「入口入ったとこにいきなりアークデーモンがいるからねえ。普通の人は近寄れないよね」
「そんなとこに…ひとりで…」
「あっ! 大丈夫なのよ。魔力を全部解放するとね、たいていの魔物は逃げちゃうの。姿を現すのは、自分の力も知らずにイキってる若い魔物か、それなりに強いボスだけなんで。大量の魔物に囲まれたら、さすがの私も…」
「そ、そうだよな。あなたにもできないことはあるよな」
「そうなの。ダンジョンごと焼き払いたくなっちゃうのよ。遺物もあるから、壊したらもったいないし…」
「……」
なんかレックス様がショックを受けてるみたいな顔してる。
「5歳で剣を握った時から…ずっと鍛錬を積んできたのに…努力してやっと騎士団長になったのに…王国で一番強いとか言われてたのに…それでもひとりでは…アークデーモン1匹を倒せるかどうか…」
やだ! レックス様がちょっと涙ぐんでる! うわあなにこれ尊い!
甲子園の砂を拾ってる高校球児を見ているよう…! がんばってきたんだね!
「私は…愚かだった…自分の強さを過信していた…」
尊いけど、そんなに落ち込まれると気の毒になってしまう。
ここはなんとか元気を出してもらわねば!
「そんなことないよ! 大丈夫だよ! 私がレックス様に攻撃力アップのバフをかければ、バハムートだってちょろいよ!」
「バハムート!?」レックス様は一瞬目を輝かせたが、すぐにうつむいて「それは…なんか違う…」とシュンとなった。
「私の力はねえ、たぶん、神様が発注を間違えたんだと思う」
「発注?」
「よくあるじゃない。商品を10品仕入れようとしたのに、桁を間違えて100品仕入れちゃったとかいうの」
「たまに聞くな」
「私の場合は、能力値の桁を間違えて生まれてきたのよ」
「というと…10倍とか、100倍とか?」
「いや、たぶん……1000倍?」
「せ…」レックス様が絶句した。
「通常1バイトの魔力を授かるところ、1キロバイト授かっちゃったんじゃないかなあ」
「私の目に写るのはせいぜい30倍なんだが…もしかして、大きすぎて全量が見えてないってことか?」
「私の魔力がレックス様の視界に収まってるなら、そうかも」
「……」
わあ、レックス様がポカン顔してる! いろんな表情を見られてうれしいなー!
「でもレックス様も、平均の8倍くらいありそう。普通なら鬼のように強い部類だよ、大丈夫! 自信持って!」
「全然励まされてる気がしない…。8と千て…」
「大丈夫! たぶん、お脳みその発達は、レックス様のほうがずっと上だから!」
レックス様はハッとした顔になって、「そうか…たしかに」と頷いていた。
元気を取り戻してくれたのはよかったけど、頷くなよ心外だわぷんぷん。
「そういえば、魔物来た来た詐欺の領主、捕まったぞ」
思い出したようにレックス様が教えてくれた。
「あら、国の援助金目当てのやつ。裏が取れたの?」
「『おまえの領地は、今までも魔物が来たと騒いでいたが、本当は来てなかったそうじゃないか』とカマをかけたら、『今度は本当に魔物が来てるんだ!』と叫んだらしい。尋問が楽だったと言ってたよ」
「それはよかった。領主がバカでよかったねえ」とにっこりして言った。領主が無罪放免にされたら、また魔物に襲わせてやろうと思ってたけど、その必要はなさそうね。
「正義の御使いプリティラの噂も、順調に広がってるようだな」
私は嬉しげに「そうなの。今日も、ダンジョンの帰りに町に行って、噂を聞いてきちゃった」と説明した。
四肢欠損の人は、私が知ってる限り、6人いたんだけど、それは全部再生し終えた。
奇跡だと、噂はすぐに広まった。
プリティラとはどこの誰なのか、神殿も王家も必死になって探したが、私は疑われなかった。
というか、疑った人はいたかもしれないが、私を追放した王太子の失態になることを恐れ、口をつぐんでいた、というのが正しいのかもしれない。
どっちにしろ、私が町中をうろうろしていても、とがめる人はいなかったので、堂々と歩き回った。
そして「騎士に戻れるって、泣いて喜んでいた」とか「自分の足で歩けることがこんなに幸せだなんて、と泣いて喜んでいた」とか「もっと働きに行ける、もっと子供に食べさせてやれる、と泣いて喜んでいた」とか、うれしい噂話をたくさん聞いたので、私も泣いて喜んだ。
「オモイアガーリ伯爵家のポール様、婚約破棄されたらしいわよ」
どこかの侍女らしい女性が話をしている。(ん、ポール様というと…)
「あ、あの、病弱な幼馴染のエレン様を優遇して、婚約者との約束をいつもキャンセルしてた人?」
「そうそう! エレン様もポール様も、瘴気が溜まりまくって動けなくなってたらしいんだけど、2人の枕元にプリティラカードが届いたんだって!」
やっぱあの人のことだった。
「プリティラカード! 奇跡を起こすって言われてる、あの!?」
「そうそう! ほら、あのカード、『高潔なる魂へ救済を』ってあるけど、『邪悪なる者へ断罪を』とも書いてあるじゃない? 瘴気が溜まるのは邪悪だからか!ってことになって、『邪悪な人とは結婚できません』って理由で婚約破棄されたんですって!」
おおお、私の願い通りになったのかー。よかった。
行いが悪いやつには瘴気が溜まるようにしたけど、溜まるだけじゃ自省することはないだろうから、「自分の行いのせい」ってことがわかるように、カード置いてきたのよねえ。ちゃんと通じてたみたいでよかったわー。
という話を、レックス様に報告した。
「そんでね、その病弱な幼馴染、実際は健康だったんだけど、瘴気のせいと、カードが来たことで非難を浴びたせいで、本当に病んじゃったらしいわ」
「はははそうか。自業自得ってやつだな」レックス様が悪い顔で笑った。そういう顔も素敵。
「まあでもね、ちゃんと反省して、迷惑をかけた人に謝って、まっとうに生きるなら許してあげようと思うの」
「そうだな、許すことも大事だと思うよ」
「そこで、瘴気を払った上で、このカードを置くのはどうかな?」じゃーん、とレックス様の目の前にカードを広げた。
「高潔なる魂へ救済を。邪悪なる者へ断罪を。正義の御使いプリティラ、これにて撤退するわー!」
レックス様は音読したあと、大きくため息をついて私の肩をポンポンと叩き、
「ティラ、文面はもう少し推敲が必要なようだ。一緒に考えよう」と微笑んで言った。
わあ、一緒に考えるってことは…共同作業! これはもう、披露宴と一緒よね!
私は大喜びで「はい!」と元気よく答えたのであった。




