014 『蠢く陰謀』とかがなければ、物語は転がってくれない
前回までのあらすじ
『忘却』が解かれ、ナツメはこの世界に降り立ったときの記憶を思い出す。
物事がスッキリするどころか、逆に煩雑になってしまうナツメだったが、彼が頭の中を整理する間もなく、事態は進む──
「夜分遅くに失礼いたします。Mrs.フェスタ。先ほどまでのショーは実に素晴らしかった」
「いかにもな見た目の人が、いかにもな台詞言いながら登場したんですけど!」
擦り倒されて、もはや一周回って良い人か悪い人が判別できないタイプの糸目優男だ!
「お前は、空気を……読みやがれッ!」
「ぐほっ!」
タン、タン、ターン、と三拍子のリズムで助走がついたドロップキックが糸目優男に叩き込まれ吹っ飛んでいく。
「明らかに大事な話の途中だっただろうが! お前ら白装束は揃いも揃って空気も読めねぇのか!?」
「申し訳ございません……三、四時間くらい彷徨って、ようやく見つけたものですから、ちょっとテンションが上がってしまいまして」
フェスタは椅子に座りながら、糸目男に正座をさせ怒声を浴びせる。
……登場時の貫禄はどこいったんだよ。
「……あと人生で一度はあんな感じで登場してみたかったんですよ」
正直、その気持ちは分かる。
「フェスタはお怒りモードなので、アタシが代わりに紹介するッス。この糸目男は円卓に属する十二国が一つ新興宗教国家『アリエス』の代表にして『新生ゼレモニア教団』の主教、ダイヤモンドさんッス」
「どうも。貴方とは初めましてですね、迷い人。私はダイヤモンドです」
「どもです。棗道長です」
その名前の割には現在顔は擦り傷だらけである。
てか教団の正式名称は初めて聞いたな。
『ダイヤモンド 称号『贖罪の聖剣使い』
クラス:主教 能力:『剛心』
所属:新生ゼレモニア教団
記石:『金剛石』
武器:『血の聖剣・クラレント』』
窓に糸目男、ダイヤの情報が表示される。気になるワードは『聖剣使い』と物騒な名前の武器かな。
そう言えば、ラヴィも聖剣使いだと表示されてたけど……これまでに彼女が剣らしいものを使ってるところは見たことがないや。
「てか、敵の首魁じゃないですか」
「誤解です! この私が悪い事に手を染めるような男に見えますか?」
「……」
正直見える。普段は孤児院とかで働く優しい神父だけど、夜な夜な孤児を使って非人道的な実験やら儀式やらをやってるタイプの悪人と言われても納得が行くビジュアルだ。
「まあ良いですよ、疑われることには慣れてます。此度の訪問は謝罪と弁明に参った次第です、菓子折りもお持ちしました」
ご丁寧に熨斗付きの高そうなお菓子を差し出されたラヴィは毟り取るようにかっぱらうと、疑うことなく雑に包装をむしり取り、もしゃもしゃと食べ始めた。
「アストレアさんのところに我が教団の者が襲撃を行ったと報告を受け、直ぐに私は彼……いえ彼女を訪問し、土下座とお詫びの品をお持ちし釈明と賠償の手続きをし、その流れで、こちらに馳せ参じました」
お菓子を貪りながらラヴィは自身の通信端末で地図アプリを開いて俺に彼の国アリエスと今俺たちがいるヴィルゴの位置関係を見せてくれた。……今更だけど、当然のようにスマホみたいな道具があるんだな。
アリエスは山脈を挟んでヴィルゴの北側に位置する国で、彼らが『旧帝国領』と呼んでる地域の北西部に位置しているようだ。
ラヴィが地図上で俺たちがいる禁域の位置をマークすると丁度国境の山脈の麓辺りにあることが分かる。ダイヤは一度ヴィルゴの市街に行ってから折り返して、ここまで来たのか……そりゃこんな夜遅くにもなろう。
「どうせ明日には私らはアストレアのとこに行くんだから待ってりゃ良かったのに」
「そうも言ってられない状況でしたので」
ダイヤさんは差し出されたコーヒーを飲んで一息ついてから続ける。
ちゃんとアポを取ればコーヒーくらいは出してあげるんだ……
「まず、今回アストレア邸を襲撃した下手人の二人、ジェットとアパタイトは教団内に紛れ込んだ『旧神派』と呼ばれる反乱分子の一員です」
「そう言えば、前からいたなそんな連中。大それたことをしでかすほどしでかすような肝の座った集団じゃなかったと記憶しているが」
「ええ、元は小規模な旧神の信奉者の派閥で、できることと言えば精々、現教団の誹謗中傷や風説を流すなど影響力の低いプロパガンダを行っていた程度の連中でしたので、度が過ぎなければこちらからアクションを起こすほどの存在ではありませんでした。ですが、ここ最近……一年程の間に急速に勢力を増し、ついに此度のような事件を引き起こしてしまいました」
「で、反乱分子とは言え、教団員がやらかしたからわざわざトップのお前が出張ってきたと」
「はい、私の特技は『土下座』ですから」
それは特技なのか?
「彼らの行いは旧神没後、かつての教団の汚名をそそぐために真面目に活動してきた他の教団員や信者の努力が無駄になるどころか、アリエスとヴィルゴの間で戦争に発展しかねません。そのような事態になる前に私自ら皆様に謝罪、及び釈明に馳せ参じたわけです」
糸目で胡散臭さえなければ、めちゃくちゃ誠実な風に見える。
ところどころ、俺が知らないこの世界の事情が前提にあるけど、偏見をなくして彼の行動を見ると、かなり誠意のある行動に思える。
事件が起きたのが今日の夕方……十二時を回ってるから正確には昨日だけど、そこから、各所を回っていることを考えると、休む暇なく彼は謝り倒している。
「別にお前を疑っちゃいねぇよダイヤモンド。これは私らが蒔いた種でもある」
旧神の討伐、フォルトの功罪。
フェスタから話を聞いた分には良いことのように思えるし、ダイヤモンドの態度からもその件はこの世界にとって悪い話ではないようだ。
だけど、『旧神派』などと呼ばれる集団がいるということは、そういった人々からは反感を買っていてもおかしくはない。
「けど、その程度の話なら、わさわざ禁域まで来ることはねぇだろ」
「ですね、それだけで済んでくれていたら私が地面に額を擦り付けるだけでよかったのですが」
もはや彼にとって土下座は『特技』ではなく『趣味』なのではないだろうか。
「迅速に動いたつもりだったのですが、どうやら一歩遅かったようで、私がアストレア邸に到着してほどなくして、密偵から旧神派がヴィルゴに進軍したとの情報が」
「馬鹿じゃねぇの」
フェスタは思いがけずシンプルな悪口を口にする。罵倒というより、呆れて頭を抱えているといった風だ。
「ええ、あまりにも愚か『よりにも寄ってヴィルゴかよ』と私も頭を抱えました」
「戦争を仕掛けるのがまずいことってのは分かるんですが……特にヴィルゴだと良くない理由とかあるんですか?」
「ヴィルゴは旧帝国領の流通の要地だ。そんなとこ攻めて戦争になってみろ」
「確実にアリエスは物資の供給が絶たれ敗北します。というか、そもそも、喧嘩をふっかける相手としてはヴィルゴは最悪中の最悪です。国力が違いすぎる上に、『魔王』ソラリスまでいる……考えるだけで吐きそうだ」
ダイヤの表情は気の毒なまでに気落ちしている。
「なんで、連中は急にそんなことを……」
「おそらく目的はフェスタさんです」
少し言いづらそうに目を背けたあと、その薄い眼を開いてダイヤは三毛の髪を見つめる。
「ジェットとアパタイトがフォルトの所在を確認してしまったことで、貴方達のいるヴィルゴに向けて兵を出した。事実はそうかもしれませんが、第三者的な目で見れば、アリエスがヴィルゴに侵攻を開始したと誤解されても仕方がない」
くっそ迷惑な話だ。
「純粋な疑問なんだが……神の亡骸なんぞ手に入れて奴らは何がしたい? 目的が見えねぇ」
「情報によると、一年前に旧神派の首魁となったある人物が、『神の再誕』を吹き込んだとか。彼らの望みはその一点なれば、此度の無謀とも言える進行にも合点がいきます」
「なるほど…………夢物語だな。死者の蘇生なんて、仮にも宗教家が口にするもんじゃねぇよ」
一瞬フェスタは何か言い掛けたように見えたけど、すぐに彼らの目的を否定した。
「実現可能かどうかは重要ではありません。少なくとも、彼らはそれが可能だと強く信じ込んでしまっている」
「やはり愚かだな人間という生き物は」
「返す言葉もありません」
おそらく、神の亡骸を差し出せば事が収まるなんて単純な話ではないんだろうけど、そんな愚昧極まる選択肢は端っから彼女にはない。
「神が導く運命から逃れ、己が足で歩くことを決めた人間が、またしても神の力に縋るとは……人のことは言えないがな」
「私も気は進みません。ですが、教団内部はどこまで旧神派の手が伸びてるかわかりません。今は貴方達のお力を借りる以外に、最悪の未来を回避する手段がないのです。何卒、力をお貸しいただけないでしょうか!」
先ほどまでの趣味でやっていたそれとは違う、彼が特技とまで豪語する芸術のような五体投地……。
「先ほども言ったが、私らが蒔いた種でもある始末をつけるのは当然の責務だ。まあ、お前の監督不行き届きもあるから、責任は半々ってことで、そう言う趣味なのは分かるがそう簡単に頭を下げんな」
深々と頭を下げるダイヤに背を向けフェスタは立ち上がる。
「一応対面は保てるようにしておいてやる。力を貸すのは私個人ではなく、円卓の仲裁者としてのフォルトだ──ダイヤモンド、土産が菓子折りだけなんてケチな話はないよな?」
「無論です」
フェスタはラヴィに目配せすると、菓子折りの中身をリスのように頬張るラヴィがスマホを操作する。
『エマージェンシー、エマージェンシー 緊急事態発生、繰り返す緊急事態発生』
気の抜けた声の録音音声と焦りを増長するけたたましいサイレンが野営地に響く。
「何事ですか……ってダイヤさん!?」
「……義兄さん、来てたんだ」
緊急事態だとアナウンスがなってるのに、いまいち緊迫感のないルナとレオが起きてくる。……当然のように俺が知らない情報が聞こえたけど一旦後回し。
「二人とも顔洗ってこい、今から出撃だ。ダイヤモンド、連中の現在位置を教えろ」
「「了解」」
「斥候に向かった部下が間もなく戻ってきます。少々お待ちください」
話がまとまるやいなや、フェスタはてきぱきと指示を飛ばして瞬く間に戦闘の準備を整えていく。少数精鋭ゆえのフッ軽さだ。
「どうせ、ジェットとアパタイトが監視してた時点で、こっちの位置は大まかに割れてんだろうけど」
「なら、なんで位置の特定を?」
「カイトスで敵の集団の中に突っ込んで混戦に持ち込む」
「本日二度目のカイトスアタック了解ッ!」
まだ実行していないというのに最悪すぎる絵面が想像できる。
「ヤベェぞ主教」
「貴方の言葉遣い以上にヤバいものなんてないと思っていましたよ」
しゅっ! と忍者の如く音もなくシスター風のコスプレをした女の人が現れダイヤに報告にもなっていない報告をする。
いや、ダイヤが教団の主教で、相手は部下っぽい人なんだからおそらく九分九厘本職のシスターなんだけど、着崩し方が大胆ででろーんとしてて清楚なシスターのイメージとはかけ離れている。彼女が片手で担いでいるどっからどう見ても金属バットにしか見えないものからは一旦見なかったことにしよう。
「失礼、驚かれましたよね。彼女は私の部下で教団の審問官、教団内で数少ない信頼できる方です」
「お初~~フォルトじゃない人がキャンプにいるとは思っとらんかったぜ、うちは『ブラッドストーン』仲良い連中共はブラッドとかラッドとかって呼んでるぜ」
『ブラッドストーン 称号『だらっと異端狩り』
クラス:審問官 能力:『反骨』
所属:新生ゼレモニア教団
記石:『血玉髄』
武器:『対運命兵装 尋問道具No1 ぼっこぼこバット(メイス)』』
シンプルに可愛い……じゃなくて。
「えっと、初めまして、ブラッドさん。俺なんかのことより急ぎの用があったんじゃ」
「そうじゃった……! ヤベェぞ主教!」
「それはさっき聞きました、何がヤバいのかを教えてくれませんか?」
「旧神派のアホ共、わざわざ禁域の端からちんたら歩いとると思ったら、自分らを餌にフェイタルを引き連れしてきやがった!」
「馬鹿じゃねぇの!?」
今度は俺の口からシンプルな悪口が吐き出されてしまった。
「……連中の頭目であったという事実をなかったことにしたい……!」
「ラヴィ、カイトスアタック中止!」
「ええ……しゃあないなぁもう」
ほぼ交通事故みたいなことが出来なくて残念がるなよ。
「人間だけじゃねぇとなると、少しばかり今の人員じゃ心許ないな……ラヴィ、カイトスアタックより面白い役回りができたぞ」
「今度は敵地に毒でもまく気ですか?」
「『面白いこと=非人道的なこと』じゃねぇよ」
「まさか、フェスタ!」
「──聖剣の準備をしろ。フォルトの総力戦だ」
アーカイブファイル014
『新生ゼレモニア教団』
今回の話まで正式名称が出ていなかったのは、決して名前が思いついていなかったわけではない。
元々は旧神を信奉する宗教団体であり、帝国時代では国教レベルの大規模であった。
教団構成員で記石を輝かせたものは戒名として、石の名前で呼ばれるようになるのが特徴。決して一人一人名前を考えるのが面倒とかではない。
旧神が行動を起こす以前は、貧しい人々のための支援や、墓地の管理など、ごく一般的な慈善活動を行う善良な宗教団体だった。
再創世計画を知っていたのは一部の上層部だけで、ほとんどの信者は純粋な無辜の民であった。
だが、再創世計画が佳境に入った折に、教団内で排他的な思想が蔓延し、人畜無害だった信者すら過激な活動で無辜の民を脅かしていた。
当時、地方の教会の神父でしかなかったダイヤモンドは、本来の教義からかけ離れていく教団に失望している最中、教団上層部の陰謀を垣間見たことで寝返りフォルトに協力し、旧神が眠る大聖堂へ手引きしたことが旧神の討伐の決定打となったとされる。
旧神討伐後、教団は解体される予定であったが。本来の教義は決して人道に反するものではなく、かつては彼らの慈善事業に救われた人々が多くいたこともまた事実であったことから、ダイヤモンドを主教とし台頭することで『新生ゼレモニア教団』として生まれ変わり、人々の記憶にある横暴な教団のイメージを払拭し、再興を目指し活動をしている。
現在は実質フェスタのゆるファンクラブになっており、フォルトが情報発信のために使ってる配信サイトのチャンネルのファンの三割はフェスタの歴史解説や様々な学問の講義動画に魅了された教団員との噂もある。(残りの七割はルナの料理配信とレオのジャンク修理動画、ラヴィのオリジナルソングのファンが入り混じっているため、チャンネル登録者からチャンネルを分けて欲しいとの要望もある)
フェスタが結婚している件については「でも幸せならOKです」派と「それはそれとしてアインは殺す」派に分かれてる。




