011 神を殺した少女
前回までのあらすじ
突如として異世界にやってきた少年ナツメは新たな世界に対して、これまでにない好奇心を覚えていた。
未知への興味を膨らませる彼だったが、『神の亡骸』と呼ばれる少女フェスタに『この世界にお前の居場所はない』と告げられる。
※ストックが尽きたので、この話から投稿ペースがダウンします
「気を悪くしたなら謝る。ただ一つ、勘違いしてほしくないのは、別に私がお前に悪感情を持って、先の言葉を使ったわけではないってことだ」
「では、どういう意味で」
「他の言葉を使うと両者の間での認識の齟齬が生まれると思ったんだ。『この世界に必要ない』と強い言葉になってしまったのは申し訳ないが、正しく情報を伝えるために必要だった」
俺にマグカップを渡すフェスタの表情は相も変わらず変化に乏しく、真意が読みづらい。
「まず、おそらくお前は、私が『人ならざるモノ』であることに気が付いているから詳細は省くが」
「一番省略しちゃいけないところでしょ」
いや、『お前ら人間』とか言ってる時点で察してはいたけど。
「確かに……得体の知れない存在という身分は、人間からしてみれば信頼しづらいか」
「……」
別に嫌とかじゃないけど、彼女の傲慢な感じとかを見るに、ファンタジーあるあるの人間の姿をした上位存在的な奴なんだろうな……。
「では。擬態を解いた。初めて会ったときからチラチラ見ている『窓』を見てみろ」
「え?」
突然、フェスタの視線が俺の視界に映るステータスウィンドウにフォーカスしたかと思えば、映像が乱れたかのようなノイズと共に、そこに記載されていた情報が書き変わる。
『フェスタ・ウィステリア/外界探査用干渉モジュール『KA1205』
称号『神の亡骸/渾沌の記録装置』
クラス:記石研究者 能力:『混光』『生誕』
記石:『赤緑石』
武器:対邪神兵装アルケー/テロス』
「情報が変わった⁉ てか、え、気付いてたんですか?」
「お前の視線は会話対象からチラチラ左後方に逸れることがままあったのでな、ただの癖にしては意識的に視線を逸らしているように見えたのでそういう能力を持っていると仮定して、『混光』でお前の視覚と同調した際にその窓が視えたのでな、少し細工をさせてもらっていた」
能力……この窓が?
てか、俺が気が付かない間に何してんだこの人。
「お前は潜在的に記憶の力に適正が高いのだろう、記石の力を使わずとも能力の片鱗が現れていた。虹化石のこともある。珍しいサンプルだ今度暇があれば研究に協力してほしい。バイト代は出す」
「それは別に構いませんが、話が逸れてます」
「おっと、そうだったな」
にしても、俺の視界にある窓。情報が整理されたようだけど、始めの方にルナやレオを見たときと情報のカテゴリーが少し変わってる。前までなかった記石の項目が追加されたり。レベルの表記が消えていたり。フェスタがまだ俺の視覚に細工をしているのか、はたまた、記石に触れて能力が強くなったのか。
この変化について一つ考察をするなら、俺がこの世界に持つ認識の『解像度』が上がったからかもしれない。
この世界で目覚めたとき『記石』なんて物は知らなかったけど、今はその概念を把握している。逆に、レベル、あと武器の名前のあとについてた「+」表記が消えたのは、魔術やら能力やらはあれど、この世界がいわゆる異世界ファンタジーの転生系にありがちなゲームシステムのようなもので構成されているわけじゃないことを理解したから。うん多分そうかも。
「偽を紐解け――『混光』」
そうこう考えているとフェスタは自分で考えたっぽい詠唱を口にする。能力名もそうだけど、俺もそういうの考えておいた方が良いんだろうか。
「自分に掛けていた混光を解いた。見てみろ、これが私の『本体』だ」
そう言われ、彼女を見てすぐ、俺は一度目を逸らした。
はだけていらっしゃる!
「気にすんな。どうせこの体は『私の』じゃない」
「それってどういう……」
恐る恐る背けていた視線を戻すと、彼女の胸、丁度、赤緑石のブローチがあった部分の肌がまろび出ている。
ただ、それは俺の下心が想像していたものとは違っていた。
「機械のパーツ?」
彼女の胸、ちょうど心臓の辺りに、金属の光沢がある装置が埋め込まれていた。
埋め込まれていたと言うには石が露出していたり、どういうわけか皮膚とは縫い付けられたみたいに見事に調和していて、周囲の有機的な肌ですら作り物めいて見えてくる。
「私はかつてこの地で神を名乗っていた存在が作り出した『外界探査用干渉モジュール』、平たく言えばロボット、アンドロイド、そんな類いの存在だった」
「神……やっぱりこの世界にはいるんですね、そういう上位存在的なの」
「正しくは『存在していた』だ。そして、そいつは上位存在のようなオカルトめいた存在ではなく、そいつはただ神を名乗り、神を体現するといっても過言ではないほどの力をもっただけの、ただの人間だった」
フェスタは再び混光を使うと、機械と人間の継ぎ目などなかったかのように肌の色と同化した。
「三年ほど前、その神を名乗ってた奴が、現在生きる全人類を生贄に、再創生……つまり、新たに人類文明をやり直そうとしたんだ。幸運にもその企みは当時、フォルトと名乗る前の若者たちによって阻止された」
「さらっと言いますね」
「で、神の愚行を阻止するために、再創生の起動権限をもった神体、つまり生身の本体の制御権を乗っ取ったのが私だ」
「……ちょっと整理させて下さい」
簡潔過ぎて5W1Hのうち、『なぜ』とか『どのようにして』とかが抜けてるけど、まとめると、三年前、世界を作り変えようとした神様がいて、それを止めるために、当時のフォルトの面々が頑張った。そして、その結果、神の野望は打ち砕かれ、神の体を乗っ取ったフェスタが生まれたってことでいいのか?
まとめておいてなんだけど、あまりに荒唐無稽。
「ま、伝聞で全て信じろとは言わん、詳しいことは自分で調べろ」
「投げやりだなぁ」
「話の本題ではないからな」
脱線しすぎて忘れそうだったけど、話の本題は彼女の「お前の居場所はない」という言葉の真意について聞くことだった。
「改めて、神の亡骸を奪って人間ごっこをしている機械の言葉として聞いてほしいのだが」
「……」
自虐ネタって反応に困るんだよなぁ。
「一時は神という脅威から難を逃れたこの世界だが、何も対策しなければ近い将来、終末が訪れる。ほぼ確実と言って差し支えない」
「え」
「神の権能を用いて、フェイタルの増殖速度と人間の発展速度を比較し検証した結果だ」
……なんとなく言葉の真意が読めてきた気がする。
「何の因果か何者かの意図かは分からんが、異世界からこちらの世界にやってきたお前にとっては災難この上ないことだろう」
異世界系って大概、神の手違いやら、神の介入ありきな気がするけど、この世界の神は既に死に、今目の前の少女は神の亡骸を操る機械人形。
神の力を持っている彼女にとっても俺の存在は異常なのか。
「だが、この世界の問題はこの世界に生きる人間たちの問題であり、それらの解決は奴らの責務だ。この世界に帰属していないお前とこの世界の人間の間には、どうしても隔たりが生まれる。当面の生活の支援をするよう口添えするつもりではあるが、現時点で、この世界にお前の居場所となるような場所は存在しない」
俺はこの世界の危局に関わりがない、この世界の問題に取り組む責任がない。
この世界が歩んできた『これまで』を俺は、ここの人たちと分かち合ってない。
これは言わば勇者パーティーが魔王を倒した後の後日談のような話。
俺が知らない場所、知らない時間に、彼らは手を取り合い難局を潜り抜け、次なる局面を迎えようとしている最中。
そんな中、遅れてやってきた俺という存在。絆もなければ、この世界に思い入れもない、クライマックス後の途中参加者。
「確かに要らないな、俺」
多分、俺がどんなにチートじみた力を手にしていても、この局面をひっくり返すようなことがあっても関係ない。
この疎外感は、絶えず付きまとう。
「そこまでは言ってねぇよ」
「けど、居場所はないって」
「存在論の話なら他所でやれ。私は哲学に興味はねぇ。まったく、これだから人間って奴は、勝手に解釈を広げて悪い方に考えやがる。やっぱ滅んだ方が良かったか?」
主語がデカ過ぎるし、結論が性急過ぎる。
「この世界にお前に居場所はない。なぜなら、この世界には余裕がないからだ。ただ、私らもお前の状況を不憫に思うから、なるだけ不自由ないように努めるが、それだけではなく、帰還するしないに関わらず、しばらくこの世界にいるのなら前自身も相応に馴染める努力をしてくれ、という話だ。この話の意図はそれ以上でも以下でもない」
「……誤解されないように、言葉選んだって言った割には、伝えたい意図と真逆の言葉選びでしたが」
「あ? 真逆の意図があったら『お前はこの世界に必要ねぇから消えろ』って言ってるだろ」
これが機械の尺度なのか……極端すぎる。
「俺、この世界に居ていいんですね」
「居ていいも何も、帰る当てもねぇだろ。要る要らないの話なら、お前ら人間、全員が誰かしららの許しを得てそこに存在してるわけじゃねぇし、必要とされたからそこに存在してるわけでもねぇ。誰に言われるでもなく、どいつもこいつも、そこにたまたま生えてきただけだろ」
「生えるって……」
植物みたいに言うけど、これも彼女の表現の仕方か。
「お前の存在の不可解さを鑑みれば、しばらくは不自由を強いるが、その後は私らにお前の自由を縛る理由はない。好きにしろ」
「好きにしろって……」
「私がこの話を切り出したのは、お前がこの世界に少なからず興味を示したように『感じた』からだったんだが……やはり、人間特有の言外の意図というものを汲み取るのは難しいな」
この人が、機械の人形だとか神の亡骸だとかいう話が俄に信じられなくなってきた。
物言いこそぶっきらぼうだけど、相手に寄り添おうとコミュニケーションをする仕草は、むしろ、人よりも人らしい。
「間違ってないです。俺は今、この世界に興味しかない。帰れと言われても、帰らないつもりでした」
「……そうか、好きにやれそうか?」
「はい。飽きるまで、堪能してやります」
「結構なことだ」
それはそれとして。
「フェスタさん」
俺もこの世界に馴染んできたのか、感覚が鋭敏になった気がする。
数分前から誰かの視線を感じる。
「わかってる、みなまで言うな」
俺ごときでも感じてることがフェスタに分からないわけもないか。
それでも、あえて動かないのは相手の行動を待っているんだろう。
「ところで、お前を調べていた際に、気になったことが一つあった」
フェスタはコーヒーカップをテーブルに置き、代わりにテーブルの上のカンテラを手に取った。
「お前がこの世界で初めて出会った人間は、本当にルナとレオか?」
ランプの光が一段増し、真夜中の森の中、昼間の如き世界が生み出され、暗闇に紛れて隠れていた何者かの姿が浮き彫りになる。
隠れる、という行為が無意味となった今、姿を見せたのは見知らぬ白装束の二人組だった。
アーカイブファイル011
フェスタ・ウィステリア 称号『神の亡骸』
クラス:記石研究者 能力:『混光』『生誕』
武器:対邪神兵装 アルケー/テロス(懐中電灯/カンテラ)
年齢、覚えていない 148cm 髪色:三毛 (黒白茶)
出身:教団 記石:赤緑石
好きなもの:家族、知識、コーヒーブレイク
嫌いなもの:家族や仲間に牙を剥く奴、コーヒーブレイクを邪魔する奴、盲信
ステータス S〜E
火力:A 耐久:C 敏捷:C 指揮:S 支援:S 射程:B
火力、防御、回復なんでもこなす推定連続稼働時間2000年の万能サポーター。
元々は神が外界へ干渉し、人々に影響を与え世界の結末を操作するために生み出した外界探査用干渉モジュールの内の一基。
ホログラムを投影する機能を有しており、通常時は場所に合わせて不自然でない生物の姿を投影し、人間に干渉する際には神の姿をモデリングした投影にて社会活動に紛れ込んでいた。
本来、神による『再創生計画』を遂行するために、特定のアルゴリズムに従って行動するだけの人工知能(NPC)だったが、ルナ達と関わる内に新たに意識が芽生え、次第に無機の体を持ちながら新たな生命へと昇華し、この世に『生誕』した。
現在は『再創生計画』の中核を担っていた神体を乗っ取り、有機生命体の肉体を獲得しているが、感覚系との接続はしておらず、知覚は今もモジュール部分の感覚センサーで行っている。
外付けの肉体を手にして以降、モジュールのみの状態よりも出力は増しており、モジュールでは精々都市一つを焦土に変える程度の力しか無かったが、現在はやろうと思えば人類の生存圏を更地にできる。
フォルトの制服はスラックス部分とエンブレムしか使っておらず、制服から剥ぎ取ったエンブレムを縫い付けた白衣を普段着の上から羽織っている。




