10 珈琲香る深い夜に
前回までのあらすじ
ナツメくんは自分の記石「虹化石」を手に入れた。
そして、冒頭でナツメを救った少女ルナは少年だった。今どき性自認の話をすると面倒くさい輩に絡まれかねないぞ!
「眠れねぇのか?」
「えぇ、まあ」
ショックのあまり風呂に入ってる間の記憶があまりないが、気が付けばレオとルナはテントの寝床で眠りに付き、ラヴィはカイトスの車内で寝落ちしていた。
食事を囲んだ焚火の近く、テーブルに必要最低限の明かりだけを灯し、まだ起きていたフェスタは珈琲を飲みながら読書に耽っていた。
「フェスタさんは寝ないんですか?」
「夜の見張りだ。フォルトは二十四時間必ず誰かしらが起きるようになっていてな。私の就寝時間は朝の九時から昼の十二時なんだ」
夜型な上にショートスリーパーなのか。
「体内時計狂いそうですねそれは」
「危険地帯での野営である以上は仕方あるまい」
俺は食事をしていた焚火の近くに腰を落とし、今日手にしたばかりの俺の記石、虹化石を眺める。
フォルトの人たちのように身に着ける装飾品にするにはもうひと手間必要になるらしく、今は裸石と呼ばれる研磨もなにもされていない状態。
不可思議な現象がごく当たり前のように起こる世界。
そういったものに憧れがないといえば嘘になる。そして今、俺はそんな本の中のような世界の夜に浸っている。
この半日、たった半日なのに人生の大半を経過したような濃密さを感じる。
本当なら、俺は元の世界へ帰ることを目的にしないといけないはずだ。
それなりに仲の良かった友達がいた学校、大した功績もなくてもダラダラと仲間と過ごす時間が心地よかった部活、居心地がいいと言っていいのか分からないけど鬱陶しさと確かな情があったはずの家族。
それらを取り戻すために行動しなくちゃいけない……はずなのに。
湧き上がってこなくてはいけない焦燥感が訪れない。
虹化石の不可思議な七色が俺の視線を掴んで離さない。
「……帰りたくないのか、俺は」
何もかもが突然で今の今まで冷静に考えることすら出来なかったけど、焚火がパチパチと燃える音と本が捲られる微かな音だけが支配するこの空間の中で、この世界にやってきて初めて落ち着いて考えを巡らせられている。
クリアな頭の中で導き出された結論。
『知らない』に溢れたこの世界。記石の輝きを受けたあの瞬間に感じた、未知が、既知へと移り変わる動のエネルギー、胸に焼き付いた高揚感。
『好奇心』言葉にすればなんて陳腐で子供じみたものだろう。だけどそいつが放つ閃光こそが、俺を元の世界への渇望を妨げる原動力の正体。
お前を倒さなければ、俺は元の世界に帰れない。
「……プラムもそうだったが、この世界はそんなに魅力的か?」
俺が独り言ちてまろび出た言葉が聞こえていたらしい。
「まだ、そんなにこの世界のことを知らないはずなのに、まだ、一端にしか触れてないのに、俺はこの世界を知りたい、そう思ってるんです」
元の世界が無味乾燥とは言うまい、俺が触れられていないだけで元の世界にも未知や魅力に溢れているんだろう。
ただ、俺はこの世界に触れてしまったから。
俺の興味を刺激するものが偶然にもこの世界だったというだけ。
「そうか……」
何か続けようとしたフェスタが珈琲を口に含み一呼吸置く。
「お前には申し訳ねぇが」
草木も眠り辺りが静まり返る深い夜。薪が爆ぜる乾いた音を背後に『神の亡骸』と称される少女が気怠そうに、でも慎重に言葉を選びながらゆっくりと口を開く。
「この世界にお前の居場所はない、異世界からの迷い人」
「……言葉を選んでそれですか」
「言葉を濁して誤解を生むよりは、幾分マシだと思っただけだよ」
『誤解を恐れずに』とはよく言うが、少女が恐れてる様子は全くと言っていいほどない。
「ここからの話は少し長くなる、眠たいなら明日にしてもいいぞ」
「……このままじゃ、気になって寝付けやしないですよ」
「そうか……それじゃあ、とりあえず」
そう言って少女は焚火にかけられていたポットを手に取る。
空間に深く煎られた豆の匂いだけが漂う。
「コーヒーでも淹れようか」
アーカイブファイル 010
レオナルド 称号『救世の神盾』
クラス:技術者 能力:『発条』『不屈』
武器:対運命兵装『霜月流火』(大剣)
16歳 180cm
出身:王国 髪色:暗めの赤 記石:代剛石
好きなもの:工具、バイク、ルナの作った料理、仲間
嫌いなもの:信頼を裏切ること、自分
ステータス S〜E
火力:C 耐久:S 敏捷:D 指揮:B 支援:A 射程:D
身の丈程もある大剣を扱い、敵からの攻撃を引き受け、能力を使い味方にバリアを張り味方を守るフォルトの盾役。
性格は冷静でクールだが、誰に対しても優しく気遣いができる少年。
フォルトでは武器のメンテナンスや機材の調整保守などを担当しており、いざというときのサブドライバーもこなす。
元々身分が低く、まともな教育を受けられなかったことから、勉学に意欲的で現在はフェスタから勉強を教わっている。
仲間からは年下組として、弟のように可愛がられている。
隊服はジャケットを着ているが、中は普段着でネクタイは当然締めてないラフな格好を好む。




