009 記憶は輝かしく
前回までのあらすじ
謎の襲撃者の二人組を取り逃し、プラムは琥珀を奪われてしまった。不安を残しつつ、話は棗道長の視点へと切り替わる。
安易な視点切り替えは読者から嫌われるらしいぞ。
「と、まあ、そんなことがあったらしくてな。私らがお前を拘束しなければならない理由も理解してもらえるだろ?」
「え、あ、はい……なるほどです」
俺、棗道長はもう一人の異世界からの旅人の話と今日の昼頃に起こったという『アストレア邸襲撃事件』の一部始終を聞かされ、自分が『二人目』であること、そして、こうしてフォルトに捕まった理由を理解した。
話を聞いていて初めて気づいたけど、フォルトの面々は着こなしこそ違えど皆同じ制服(隊服?)を着ている中で、異なるワンポイントアイテムを身に着けている。
ルナの人差し指には水のように透き通った青い石の指輪が。
レオの手首には硝子のように透き通った無色の石のブレスレットが。
フェスタの胸には何かが秘められたような輝きを放つ赤い石のブローチが。
ラヴィの左耳にはバチバチにつけられたピアスの中の一つに太陽を思わせる黄色の石があしらわれていた。
「思ったんだが、こいつに原石渡せば、一先ず、アストレアの姐さんの所を襲ったやつかそうでないかは分かるんじゃないか」
「ナイスアイデア」
もちろん俺は琥珀どころか彼らが言う、能力を使うための『記石』……悪魔の実とかグルメ細胞の悪魔的なこの世界の概念、設定みたいなものについても初めて知ったところだ。
身体検査で俺が石どころかスマホも何も持っていないことは向こうも把握しているはずだけど、完全に疑いは晴れていなかったみたいで、少し悲しい気分になる。
一緒にご飯を食べたことで少しは警戒心みたいなのがほぐれた気がしてたのに。
「ほい、持ってきたっスよ」
フォルトが拠点にしてる車の中から、ラヴィが手のひらサイズの箱を持ってきた。
「原石は素質がある人間が直接触ると、そいつの石に変わっちまうからな、原石のまま保管しときたいなら木箱にいれとくのが安牌なんだ」
「自分で開けて中の石を取り出してくださいッス」
「……はい、わかりました」
なぜかラヴィは、フェスタに箱を経由させる形で俺に箱を届けた。なんか、この面子の中で彼女だけが俺に対する敵意とか警戒心のようなものを隠そうともしない。
ただでさえオタクに厳しそうな見た目なだけあって普通に怖い。
「これが原石、見た目は普通の石なんですね」
箱を開けると、本当に一見すればただの石ころにしか見えない原石が布の座布団を強いて俺を見上げていた。
原石と言えば研磨される前の宝石のイメージだけど、彼らが言う原石はアスファルト片とか河原の石とかとそう変わらないザラついた質感の石だ。俺には石を集める趣味はなかったから、詳しく○○岩っぽい的なことは言えなくてすまない。
「どうやって採掘されるのかとか、産地はどうとか詳しく説明してやりたいところだが、まずは、その石を手に取ってみろ」
握りしめれば手のひらの中に隠れてしまいそうな小さな石を摘まみあげようと、指先が原石に触れたとき、それは目が眩むような輝きを放った。
「珍しいッスね。アタシなんかある程度馴染ませないと輝かないのに」
「原石の輝き方は本人の素質と関係する。とは言っても、微かに触れただけで光ってるのを見るのは、それこそプラム以来だな」
そんな話し声が聞こえてくるが、俺はそんなことよりも目の前の不思議な光景に目を奪われていた。
さっきまでただの石ころのようだった原石が、光と共に絵筆で塗り替えられるように、その色、質感がみるみると変貌していく様が、あまりにも超常的でフェイタルに追いかけられていたときとは異なる意味で『違う世界』にいる実感と興奮が背中を迸る。
知識として聞かされていただけの『未知』が、『既知』の情報へと脳に書き加えられていく。
「これが記石」
輝きが落ち着くと、そこに残ったのは複数の色がグラデーションのように輝くオーロラのような石だった。
俺はその石をよく観察したい衝動にかられ、ライトの明かりに掲げるようにしてその石を掴み上げていた。よく見るとステンドグラスのような模様が走っている不思議な石。
「遊色効果のある石、蛋白石……いや模様がある……『虹化石』か。記石がそれになるのは初めて見た」
「虹化石?」
「本来の虹化石は、アンモナイトの化石が遊色効果を持った結晶質に置き換わった宝石だ。生きた貝殻が真珠を作る仕組みと近いらしいが詳しくは知らん、標本で見たことがあるくらいだからな」
「へぇ……化石の宝石……ん?」
さっきまで何の変哲もない普通の石が突然、化石になるっておかしくないか?
「記石は便宜上、その石の元になった鉱物の名前で呼んでいるが、もちろん鉱物そのものってわけじゃない。本人の素質を反映させ、その記憶を表した地球上の鉱物の姿を象るんだ」
俺の疑問に先回りしてフェスタが答える。
「えっと……」
「要は本人が持つ能力に合わせて見た目が変わってるだけで、そこにあるのは虹化石の見た目に変わっただけで、本質は『記石』っていう鉱物なんだ」
「そういうもんなんですね」
そういうもんと言うことで今は納得しておこう。
「とりあえず、お前が黒玉でも燐灰石でもないってのが分かって良かったな。立ち入り禁止区域にいたことでお咎めはあるかもしれんが、これ以上の尋問とかは多分ないはずだ」
レオが俺の肩に手を置くと、小さく微笑んでいた。
そう言えば、原石を輝かせてはどうかと提案したのもレオだった。どうやら彼は俺のことを案じていてくれたみたいだ。
「そうだな……ナツメ、事情が事情とは言え、この世界について右も左も分からないお前に不快な思いをさせてしまったな、フォルトを代表して謝罪させてくれ」
表情は相変わらず読めないけど、フェスタは俺と正面に向き合い頭を下げる……この人、他人に頭とか下げれるんだ……!
「いや、そんな。どう考えても俺が怪しい人間なのが悪いですし、気にしないでください」
「そうか、分かった」
下げられた頭はすぐに通常のポジションに戻り、話は終わったと言わんばかりに、フェスタは他の作業を始めてしまった。
「……」
少しは気にして欲しかったと、今から言うのは女々しいだろうか。
「ごめんなさい。フェスタは変な人なんです」
「なんか悪いな」
「あ……いえ、変に気を使われるよりか良いですし」
なんか釈然とはしないけど!
「結局、襲撃者のカスどもの足取りは収穫なしか」
「今から車走らせて虱潰しするッスか?」
「夜間の禁域内での行動はリスクが高い。その条件は向こうも同じである以上、こちらが無理をする必要はない」
切り替えの早すぎるフェスタは、もうこっちに興味は無さそうに、ラヴィと話を始めてしまった。
「私とラヴィは明日の行動スケジュールの調整をする。ガキ共はさっさと風呂に入って寝ろ」
ガキ共って、一番若そうな見た目をしているくせに……いや、ここは異世界、見た目と年齢がイコールとも限らないのか。
「てか、野営なのにお風呂あるんですか?」
「ああ、ウチの衛生担当が毎日風呂に入れとうるさいもんだから、持ち運び式の簡易浴槽がカイトスに積んである……あ、カイトスってのはウチの車のことな」
レオが俺の拘束をはずしながら『あっち』と視線で示すほうを見ると天幕が張られていた。俺が気絶しているときに彼が準備していたとのこと。
「そんな上等なもんじゃないから期待するなよ。着替えは俺のを使ってくれ」
「いいなぁ、レオくんの寝巻」
なんか羨ましそうにルナが見ていた気がするけど見なかったことにしよう。
「スキンケア用品とかは自由に使ってくれて構いませんからね。姉様が毎度自社の製品をくださるので、いっぱいありますから」
ルナが持ってきたいかにも高そうな容器に入った化粧品の数々、そんなの持ってこられても、俺はそこまで肌とか気にしたことないんだが……。
「それじゃあ二人とも、先に行ってますよ」
「ああ」
「……ん?」
「多分、アンタが前いたとこと文化とかは違うかもしれないが、少なくとも体洗ってから浴槽に使ってくれれば誰も文句は言わないんじゃねぇかな」
日本の銭湯スタイル。国によっては湯船に浸からなかったりするけど、ここでは浸かるのが当たり前なのか。
……いや、今はそんなことよりも──ルナも一緒に入るんですの!?
「おし、んじゃ俺達も行くか」
「え、あハイ」
そうだ、さっきもレオが言っていたじゃあないか、俺の元いた世界とこの世界では文化が違うかもしれないと。
この世界ではもしかしたら、もしかしたら! 男女で一緒に入浴するのは普通の文化なのかもしれない。むしろ、ここでそれを指摘したら『そうか、じゃあそっちの文化を尊重しよう』とかになりかねない。
そうだ、アホになれ俺、アホなフリをしろ! 違和感に気が付かない間抜けになるんだ!
あー、異世界のお風呂楽しみだなー。何色なんだろー。
セットアップ完了。俺は胸の高鳴りを悟られないよう、しれ~っとした表情でレオの後に続く。
「ここが脱衣場な、脱いだ服は籠にまとめておいてくれ、あとで洗濯当番が……どうした?」
「そんな……俺は、俺の目には何も『真実』なんて見えてなかった……!」
天使のような彼女……否『彼』は微笑む。まるで見られて困るような物は持ち合わせていないと、ギリシャの彫刻かのように堂々と。
「どうしたんです……あぁ、そう言えば話してませんでしたっけ」
……どうして、俺は気が付けなかった。見た目と年齢に乖離があるなんてファンタジーが成立しているのだから、もっと重大な見た目と本質の違いだって起こりえただろうッ!
違う、俺はルナが『彼』であったことに憤ってなどいない、彼は何一つ悪くない……! むしろそれでいいし、それも一つの正解だ、彼の向ける愛の矛先がレオにしか向いてないとしても、今のシチュエーションは健全な男子高校生である俺には、致死量過ぎるエッチだ。
ルナにち〇ち〇が生えてるのは別にいいんだよ……悪いのは俺のち〇ち〇だ……。
ステータス画面なんかで彼のことを知った気になって、ちゃんとルナの本質を見ていなかった、目に映るものだけが『真実』だと思い込んで安直な期待を膨らませていた自分に嫌気がさしているだけなんだ……!
この世界での正しい自決の所作を教えてください。
「……あ」
「どうかしたかラヴィ?」
「ナッツくんに、アタシらにとっては当たり前すぎて話してなかったことがあったなぁと」
「話してなかったこと? ……ああ、ルナのことか。一緒に風呂に入るってなった時点で気付いてたんじゃないのか?」
「そりゃ無理あるッスよ。お嬢、そんじょそこらの女の子より女の子らしいッスから」
「だとしても、普通男女で風呂に入らんだろ」
「文化の違いってやつッスかねー」
アーカイブファイル009
ルミナス 称号『運命の再編者』
クラス:錬金術士 能力:『回帰』『跳躍』
武器:対運命兵装セレーネ・二グル厶 (万能銃)
15歳 162cm 髪色:白銀
出身:旧帝国領 帝都レグルス 記石:蒼海石
好きなもの:レオナルド、狩猟、料理、可愛い格好
嫌いなもの:自分勝手な人、自分
ステータス S〜E
火力:B 耐久:A 敏捷:A 指揮:E 支援:A 射程:S
仲間から『ルナ』もしくは『お嬢』と呼ばれている少年。
自家製の薬や便利な道具で味方を支援し、中遠距離に対応した万能銃で火力貢献もできる回復役。
表面的には可憐な美少女で物腰も丁寧だが、高貴な身分であったことも災いし、絶えず命を狙われていた経験から人間不信で仲間以外に心を開かない。
また、前述の背景から人から与えられた食事を口にすることができないため、食材の調達から料理まで一人で行っている。
仲間のことは信頼しているが、中でもレオとフェスタには絶大な信頼を寄せており、二人のためなら全てを差し出せる。
レオにくっつくのが趣味で、現在の目標は彼の子を身籠ること。
元々は身を隠すために嫌々女装していたが、今では本人はノリノリで常に可愛いを更新し続けている。
隊服は一見するとちゃんと着ている風だが、シャツをフリルのブラウスにしたり、ネクタイをリボン結びにしたり、スラックスをスカートにしたりと、元の隊服からの改造度合いはフォルト随一である。




