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この世界はすでにエンドロールを迎えている  作者: 文月 イツキ


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007 魔王の檻

前回までのあらすじ


和やかなアストレア邸の休日は、白づくめの襲撃者『忘却』によって終わりを迎えた。


「ソル姉の火力は全盛期の1%くらいしかない。そうでもしなければ、彼女が半日普通に生活するだけで街が消し飛びかねないからね」

「それは流石に盛り過ぎじゃない?」

「彼女を投獄してた島が地図から消えた話する?」

「……」


 この二年、ソラリスと共にこの屋敷で暮らしているけど、多少荒っぽいところはあっても無闇矢鱈と他人を傷つけようとする性格には見えない。

 彼女が魔王と呼ばれていた時代をアタシは知らない。見ようと思えば追憶の力で見えるけど、今の彼女を見るアタシの目が変わってしまうかもしれないから、見たいと思ったことは一度もない。


「腕を斬り落とされ、目を抉られて初めて、彼女は屋敷の中でだけ自由を許されている」


 ソラリスはフォルトに所属していることになっているのに、他のみんなと旅に同行しないのは、この屋敷から外出することを許されていないから。 


「過去の話はさておき、この戦いにおいて、自分らの勝ちは襲撃者を捕縛して治安官に引き渡すこと、殺しはNG、撃退は実質負け。この条件で勝ちに持って行くにはソル姉の火力じゃあ足りない」

「アルの解析で忘却を完全攻略して、アイン君の対運命兵装でやってもらうしかないってことだね」


 今のところ、活躍が足を引っ掛けただけで大した見せ場のないアイン君だけど、彼は化物狩り集団(フォルト)の中でも一目置かれる実力者だ。

 現在決め手に欠けているのは、彼が忘却によってほとんど無力化されているからに他ならない。


 厄介なのが忘却を食らうタイミング。

 敢えて忘却までの時間を遅らせて、失った記憶の量を増やされると追憶による記憶の補完にも同量の時間が必要になる。

 いくら追憶で直前の記憶を補完しても、数秒のラグが出来てしまって決定打を繰り出せていない。

 

「活路を拓くなら今だぜ、アル」

「もう拓いたよメト」


 閉じていた目を開き、アルは呟くようにそう告げる。

 

「自分らはもう君を忘れない。語り継いであげるよ、魔王の檻に飛び込んだ愚か者がいたってことを」


 アルの動きにメトが連動する。

 メトが何かを口ずさむと、今まで、追憶の映像を出力して水のスクリーンが集まり、首を捕らえているソラリスごと忘却を取り囲み楕円の球体となって覆い尽くす。


「水面鏡、水壁へと移行完了」


 水壁……確か、味方に簡易的な衝撃吸収用のバリアを提供する術だったはず、それをなんで敵に。


「忘却を食らう条件は、対象がキミを直接視認すること。記憶に関連する能力が光を媒介し、膨大な量の記憶を光速でやり取りをするってのは有名な話だけど、光は屈折すると、人間には知覚出来ないほど僅かに減速する。そのほんの僅かな減速が記憶の消去にズレを生じさせる」


 ……難しい話をしておる。

 要するに、アタシの追憶とは逆で、レンズやらフィルムによる屈折を挟むと、忘却が機能しなくなるってことか。

 だから、そもそも視力を持たないソラリスと、眼鏡を掛けていたアルの体は忘却を食らわなかった。アタシがルーペ越しで忘却くんを見るようになってから忘却の影響を受けなくなったのもそれが理由だろう。


「ありがとうな。よくやった、アル」


 水幕の壁とそこに映る内部の忘却の姿に一筋の線が走る。

 カチャンと納刀の音が聞こえた頃には、水は落ち、藻掻いていた忘却の腕はだらり動かなくなる。


「峰打ちだ、殺さねぇようにするのには慣れてる。ま、首もげるほど痛ぇけど」


 対運命兵装。フォルトの面々や公的機関の戦闘員が持っている特殊な装備。

 フェイタルの硬い外装を破壊するための武器であり、能力者と記石の繋がりを断ち切り能力を封じる、人類が運命に抗するための武器だ。


「ふぅ……」


 アルとメトはそれぞれの肉体に戻り、安堵のため息をつく。

 これで、突発的に始まったわちゃわちゃは一段落──。


「まだ武器を下ろすな!」


 いつの間にかソラリスは忘却を投げ捨て、アタシらの方に向かって飛び上がり、アイン君も納刀の勢いで向きを反転させこちらに視線を向けていた。


「二人とも後ろ!」


 一拍遅れてメトがアタシらの方に気づいて声を張る。


「え」


 呆けていたアタシと一息を付けようとしていたアルは言われてようやく振り返る。


「捉えたぞ、アンバー」


 目前には刃。


「プラム!!」


 飛び込む少年の体、視界が遮られ、ドスっ、と小さく地味な音だけが耳に残る。


「……」

「目の前の……敵を倒して気ぃゆるめたのは、良かねぇが、大切なもん守るために盾になろうとしたのは、悪くねぇ」

「父さん……!」


 一瞬の間をおいて、アタシは事態を理解した。

 アタシを庇おうと間に入ったアルよりも速く──アイン君が自らの身体で、もう一人の敵の刃を防いでいた。


アーカイブファイル 006

ソラリス・アストレア 称号『魔王』

クラス:メイド 能力:『平等』『一途』

武器:対魔王用制限装置 アヴァロン(義手)

22歳 182cm 髪色:ブロンド

出身:旧帝国領 西都ヴィルゴ 記石:太陽石ヘリオドール

好きなもの:喧嘩、アストレア邸の全て、風

嫌いなもの:逃げ腰のやつ


ステータス S〜E (能力値制限中)

火力:E 耐久:A 敏捷:B 指揮:D 支援:B 射程:E


帝国時代、皇帝直轄の帝都レグルスを一夜にして壊滅に追い込んだ『魔王』にして、現、フォルトの戦闘員兼アストレアの養女。

上記の罪は事実とは多少異なるが、現在、彼女はその責を甘んじて受け入れている。


国家転覆事件を起こした特級犯罪者として極刑が決まっていた。

紆余曲折あり、着せられた罪が晴れたわけではないが、特別刑務作業としてフォルトの一員となり人類の利益となっている間は極刑を無期限に延長されている。

かつては死刑囚として脱出不可能とされる監獄島タウラスに収監されていたが、制限装置を付けられているにも関わらず監獄島を半壊させ脱獄が可能であることを証明してしまったため、現在はアストレア並びにフォルトの監視下に置くことが彼女を安全に縛る手段と判断が下されている。


収監の際に『能力剥奪処理』を受けており、能力の使用に必要不可欠な肘から先の両手を切断されており、現在、制限装置の役割を果たしてるアヴァロンを義手として使っている。機械の腕のため細かい作業が出来ない。

脱獄の際に諸事情により止むなく、両目を失明てしまった。


肘より先の腕が無いこともあり、肩周りや胸のトレーニングが不足気味な代わりに、下半身や背筋は屈強、ハムストリングスは木の幹のように強靭、背中に鬼神が宿ってる。

太腿が太くなりすぎることを気にしていた時期もあったが、双子の姉弟をそれぞれの太腿で膝枕できるという利点に気づいてからは気にならなくなった。

こってこての西部地域のなまりが特徴的で、気まぐれながらも人懐っこい性格をしている。

フォルトの制服は所持しているが、基本はアストレア邸に常駐しているため、かつてアストレア邸で侍従をしていた際の着慣れたメイド服姿をしていることが多い。

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