第17話 動揺
「シ──スレヴィアス上等兵!」
動揺で足がふらつくカウルは、甲板に膝と手をつきながら四つん這いで、シーナのもとに這い寄る。
「スレヴィアス上等兵!」
甲板に横たわるシーナはぐったりしており、カウルの呼び掛けに応じなかった。
(怪我を──)
カウルはシーナの全身に目を遣った。胴体も四肢も目立った外傷はなく、流血もしてない様子だ。
「……?」
カウルが目に留めたのは、シーナの腹部──防弾装具に先端が埋まる形で刺さっていた円錐形の物体だった。
──弾丸?
熱を帯び、鋼鉄でできたそれは、敵の戦闘機から発射された機銃の弾丸であった。
敵機の機銃がシーナに直撃していたのだった。
「──大丈夫ですか!?スレヴィアス上等兵!」
カウルは再度にシーナに呼び掛け、甲板に放り出されたシーナの腕の手首に、自身の指を当てた。
──トクン。
脈は打っている。
呼吸のほうは、辺りを覆う騒音と振動のせいではっきりと確認することはできなかったが、おそらく、シーナは気を失っているだけのように見えた。
(無事だ──)
普通、人体に戦闘機の機銃が直撃すれば、その半身が吹き飛んでもおかしくない。
けれども、シーナの体はどこも欠損していないどころか、流血すらなかった。
『鼓動』──自身の『心』が宿った肉体が、機銃の弾丸の存在に優位したのである。
(どこか安全なところへ──!)
とはいえ気を失ったままのシーナを、そのままにしておくわけにはいかない。
「分隊長!」
助けを求めようと、カウルは左手側の他の掩体にいるセーグネルたちに顔を向けた。
だが、彼女らの状況もひどく動揺していた。
シーナと同じく、誰か被害を受けたのか、銃座の辺りで二人が倒れている。
銃座の機関銃は、その銃手を失ったのか、砲口を真上に向けて沈黙しており、セーグネルは倒れた隊員のもとに駆けつけその安否を確認している。
周囲の騒音──『アマネ』の対空砲火の音や、敵の戦闘機の無数のエンジン音で彼女らの声は聞こえないが、セーグネルは必死に倒れた隊員に呼び掛けたり、周囲の無事だった分隊員に指示を飛ばしている様子で、こちらに気を配る余裕はなさそうだった。
(動かしていいのか……?でも──)
もしかしたら防弾装具や服の下の見えないところ──体内で骨折などの怪我をしているかもしれなかったが、あれこれ思案している猶予はなかった。
「ぐっ!」
なるべく激しく動かさないよう、シーナの体を引きずって、土嚢の掩体の陰──今はもう半分しかない──に引き寄せる。
また、そばに転がっていたシーナの対装甲狙撃銃もあわせて運び寄せた。
「スレヴィアス上等兵!」
倒れたシーナはまだ目を覚まさない。
(くそっ)
比較的安全な掩体の陰をシーナに譲ったカウルは、敵の銃火に曝される甲板の上で自身の小銃を握りしめた。




