第11話 食堂にて
「……」
黙々と食事を飲み込むカウル。
なんとかそれらをすべて食べきったときであった。
「あれ、きみ……?」
カウルは不意に横から声をかけられた。
カウルが顔をあげると、一人の青年が空の配膳盆を持って立っていた。
柔らかな髪に、垂れ気味の目をした優しそうな雰囲気の青年だ。
ただ、その柔和な印象の顔立ちとは対照的に、肩幅は広くがっちりとした体格をしている。
「きみ、シーナと一緒にいる子だよね?」
青年が目を細めカウルに微笑みかける。
「あ、はい……」
カウルもこの青年に見覚えがあった。同じ分隊の機銃手付き──機関銃を補佐する任務を担う兵士の一人だ。
名前は確か──
「僕はノベル。ノベル=クリスティ。きみは……」
「あ……カウル=ハウンド二等兵です」
カウルが立ち上がり、ノベルに敬礼する。
「あ、そうそう。カウルだったね」
ノベルは思い出したように、うんうんと頷いた。
「彼は一緒じゃないの?」
「え?──あ、いや……」
ノベルが言う『彼』とはシーナのことだった。
カウルは曖昧な口調でごまかした。
これまで、カウルが訓練以外でシーナと進んで時間をともにしたことはない。
それどころか、シーナはカウルだけでなく、他の分隊の兵士とも距離を置いていた。
正確には、協調することなく、独りだけ浮いた一匹狼な振る舞いをしているので、他の隊員との関係は希薄であった。
そのため、他の兵士が、気難しそうなシーナにわざわざ話しかけるということもなく、シーナとパートナーの関係にあるカウルも、シーナと一緒くたにされ、他の分隊員と関係を築けないでいた。
「ノベル」
すると、どこからかノベルを呼ぶ声がした。
見ると、少し離れたところに男女の兵士が立っている。
「早く行こうよ」
女性の兵士がノベルに手招きする。
(あの二人は──)
ノベルのことを呼ぶ男女の兵士の顔をカウルは知っていた。
二人はともに、カウルと同じ第二分隊の隊員──機関銃銃座に配置された銃手と、その補佐を務める兵士である。
シーナとカウルがいる、土嚢で作られた掩体の隣──甲板に接合された鋼鉄板で作られた銃座の掩体で任務に当たる二人で、ノベルとその二人の兵士の三人一組で、機関銃班を構成していた。
カウルとシーナの二人組とは隣り合わせの掩体にいるが、普段関わりはなかった。
──いや、ノベルはともかく、とくにこの男女二人に関しては、シーナやカウルと関わらないでおこうとする雰囲気をカウルは感じていた。
誰にも険悪な態度を取るシーナにあえて関わらず、彼と組むことを強いられたカウルにも我関せずの態度で、いつも自分たちのチームだけで『だま』になっている。
シーナに怒鳴られる自分を馬鹿した目で笑う姿すら、カウルは目にしたことがある。
「ノベル、行くぞ」
男の兵士が再度ノベルに呼びかける。
「ああ」ノベルが二人のほうを向いて軽く応じ、カウルにもう一度顔を向ける。
「じゃあまたね──頑張ろうね、カウル」
ふんわりとしたほほ笑みをカウルに向けるノベル。
「あ、はい……」
彼を引き留めることもできず、カウルはそのまま去っていくノベルの背中を眺めていた。
「……」
独り残されたカウルであったが、『アマネ』に乗艦して以来、ほぼ初めて掛けられたあたたかい言葉に、カウルはわずかに心を慰められた。




