第10話 暗鬱
訓練が終わり、食事の時間となったカウルは、艦内食堂にいた。
食堂は、同じ時間帯で勤務する各科の兵士たちで混雑している。
食事の載った配膳盆を受け取ったカウルは、空いていた席に独り腰かける。
「……」
食事を前にしても、カウルは全く食欲を感じていなかった。
──つらい。
瞬きを忘れたカウルの双眸は光を失い、力なく伏せられている。
カウルは『鼓動』を使用した反動──『心』をひどく消耗したことによる精神耗弱状態にあった。
頭がずっしりと重く、あらゆることが悲観的に思われる。
(苦しい……苦しいのに、これから死にに行くなんて……)
つらい訓練は、この先の実戦ためにある。
この辛く苦しい訓練を乗り越えたからといって、この苦役から解放されるわけではない。
死ぬかもしれない。
先にあるのは希望ではなく、『死』という絶望。
苦しんで苦しんで、そして自分は死にに行くのだ。
「……」
カウルはふと視線を持ち上げる。
周囲には力強く食事を頬張る兵士たち。なかには、仲間たちと談笑している者すらいる。
──こいつらは何を考えているのだろう。
自分たちが戦地に赴いているという自覚がないのだろうか?
冷笑的な考えがカウルの頭をよぎる。
それとも、自分は死なないと考えているのか……そういうことは今は考えないようにしているのか……
今のカウルには周囲の人間の様子が、全く理解できなかった。
──とにかく食べなければ……
食事の時間には限りがある。今何か食べておかなければ、次の食事まで持たない。
カウルはのろのろと、配膳盆の食事を口に運ぶ。
(……)
何も味が感じられない。噛むことすら億劫だった。
──なんなんだよあいつ……
さらにカウルの脳裏に、この苦しさの元凶である、シーナの顔が浮かぶ。
ただでさえ肉体的にきつい兵役に加えて、カウルを精神的に追い詰めているのは、彼の存在だった。
(くそっ……)
どうしてシーナはいつも自分を責めるのだろう。いつも不機嫌な顔をして、カウルのすること為すことすべてに揚げ足を取って、毒を吐く。
──自分は精一杯やっているのに。
シーナとカウルは『対空迎撃要員』とその『給弾員』という、二人で一組の密接な関係であるが、シーナがカウルに対して友好的であったことは一度もない。
カウルがこの『アマネ』に乗艦し、右舷の守備隊に配属されて初めてシーナと顔を合わせたときから、彼はカウルを足手まといといわんばかりに蔑んだ目を向けてきた。
確かに自分はまだ未熟だ。カウルにはその自覚は十分にあった。
加えて、シーナはすでに実戦を経験しているようで、階級も上の上等兵であり、射撃や『鼓動』に長けた兵士である。
彼から見たら、新兵のカウルなど役立たずなのだろう。
(でも……だからって……)
カウルはこの理不尽な状況が苦しくて堪らなかった。




