第83話 空と陸の覇者(4)
「なんでレビィがここに!?」
いや、それもそうだが、それ以外にも色々な疑問が……。
驚きのあまり、目を丸くしている俺。
そんな俺の問いかけを受け、レビィはこちらに振り向くと、その小さな口を開く。
「……なんとなく、嫌な予感がして。
マルヌスが向かった方向に来てみたの。
そしたら、街の人の悲鳴が聞こえて。
あのワイバーンが……」
そこまで聞いたところで、俺は彼女の後ろでわずかに動くワイバーンの影に気付き、声を張り上げた。
「――危ない!」
俺の声にビクッと体を震わせるレビィ。
彼女はワイバーンに背を向けていたため、未だ現状を把握できていない。
ワイバーンは体制を崩して横たわりながらも、無傷な左目でしっかりとこちらを見据え、口を開いていたのだ。
俺は咄嗟にレビィの側に駆け寄り、前に手を掲げる。
それとほぼ同時に、ワイバーンはその口から、人ひとりを優に包み込める大きさの火球を発射した。
俺は防御障壁を展開し、その火球を防ぐ。
……危なかった。なんとかレビィを守ることができた。
肝を冷やす俺の横で、レビィはワイバーンの火球攻撃に驚いた様子だった。
かと思えば、なんと彼女は、再びワイバーンに向かっていったではないか。
そうして、火球を防がれて驚いている様子のワイバーンの顔の前に立つと、私服であるゴシック調のスカートを少しだけたくし上げた。
「なにを……!?」
俺がその仕草への疑問をこぼしかけた次の瞬間。
彼女はワイバーンの下顎を勢いよく蹴り上げた。
バキッという嫌な音とともに、ワイバーンは強制的に上を向かされた。
すかさず、レビィは地を蹴って飛び上がる。
そして今度はかかと落としの要領で、ワイバーンの頭に足を振り下ろした。
上を向かされたワイバーンは、今度は強制的に頭を地面に叩きつけられる。
その二連撃に、ワイバーンはたまらず白目を向いて意識を失った。
「……つええ」
俺はゆっくりと防御障壁を解除しながらも、レビィのあまりの攻撃力にただただ感服するばかりだった。
***
「……マルヌスも知ってるでしょ?
私の『えれくとりっく・さんだー・ぼると』。
あれの応用」
どうやらレビィの、あの爆発的な攻撃力は、彼女の雷属性の魔法によるものらしい。
「……私は射撃とか苦手だから。
放出型の使い方は向いてないの。
代わりに……」
レビィは足に紫電を纏わせて見せた。
バチバチと鋭い音が弾ける。
「……雷を纏って体の動きを早くしたり。
キック力を強くしたりするのが得意なの」
「そ、そうなんだ」
フフッと微笑む彼女に圧倒され、力無くそう返す。
なるほど。さながら、身体強化の魔法みたいだ。
天使のような微笑みとは裏腹に、圧倒的な強さだな。
彼女がポポロミート杯に出ていたら、俺は勝てただろうか?
脳内シミュレーションしてみる。
ええと。
――試合開始直後、目にも止まらぬ速さで俺の目の前まで詰め寄ってくるレビィ。
そして、その人形のような冷たい視線のまま足を高く振り上げ、俺の側頭部を蹴り飛ばすところまで想像できた。
思わず青ざめ、ぶるるっと震え上がってしまう。
いや待てよ。その場合、パンツが見え――
「……何か履くに決まってるでしょ」
「――なッ!? なんでッ!?」
「鼻の下伸ばしてると思ったら、やっぱり……」
レビィは呆れたようにそっぽを向いてしまった。
くそう。どうやら俺は、自分が思っている以上に顔に出やすいらしい。
気をつけないと。特に、邪な事を考えるときには。
***
しばらくして、サーロンを筆頭に、ロータス城の兵士たちが駆けつけてきた。
「おお! 助かったぞ! マルヌ……スッ!!」
俺の隣に立つレビィが、おそらくポポロミート学園に通う生徒だと察したサーロンは、咄嗟に偽名の方で呼びかけてきた。
と言っても、知ってる者が聞いたら、ほぼ間に合ってないくらいの間があったけど。
そんなサーロンの様子に、レビィは何かを思い出したように口を開いた。
「……そういえば。ロータス城に住んでるんだっけ」
『剣聖』として有名なサーロンが親しげに俺を呼ぶ姿に、少しだけ驚きつつも納得しているレビィ。
ポポロミート杯に出ると決めた翌日の食堂で事前に話しておいてよかったと、今になって思う。
「それにしても、たいしたもんだな。こんな大物を仕留めるなんて。
流石は……いや、なんでもない」
サーロンは、駆けつけた兵士たちによってトドメを刺され、既に息絶えたワイバーンを横目に語りかけてくる。
それに対して、俺はゆっくりと首を横に振った。
「いや、あれは俺じゃなくて。
レビィがやってくれたんだよ」
「――なんと!? 『レビィ』とは、君のことか?」
「……え……?」
驚きを隠せないサーロンにそう問われ、これまた驚きを隠せないレビィ。
そんな二人の様子がおかしくって、ぷっと吹き出しそうになる。
しかし次の瞬間、周りに集まってきた街の人々からワッと歓声が上がった。
「そうだ! 俺も見てた! あの女の子がやってくれたんだ!」
「すげーぞ、嬢ちゃん!」
「助かったわ! ありがとう!」
「美しい……なんと美しいんだ……ッ!」
レビィは顔を赤らめて俯く。
いや、本当に。彼女のおかげだ。
巻き起こる大歓声に、なぜだか俺まで誇らしくなる。
「ありがとう、レビィ。
俺の……いや、みんなの命の恩人だよ」
「……マルヌスこそ……!」
「ん?」
「……さっきは守ってくれて……ありがと」
レビィの最後の言葉は、響き渡る大歓声にかき消され、俺の耳に届くことはなかった。




