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第76話 華やかな舞台の裏で(3)

***



 場所は変わって、ここは先程舞台が上演されていた劇場の外。



「よお! ご苦労さん!

 悪いなぁ。主演で忙しいのに、後片付けまでさせちまってよ」


 サーロン役の男は、前方にいる若い男に対して、あっけらかんとしたした声色で呼びかけた。


「いえ……」


 浮かない顔でそれに答えたこの男は、先程の舞台の主演――マルヌ・スターヴィン役の男だった。



 今の彼の姿はとてもじゃないが、舞台上で自信たっぷりに振る舞っていたあの『魔弾の射手』とは似ても似つかない。


 実の所、彼自身は、役柄からは想像もできないほどに、控えめでおとなしい性格なのである。



 先程、舞台終わりの出口で見せていたファンサービスも、あくまで()()()()()()()()()対応していただけであり、彼の中でのマルヌ・スターヴィンのイメージをそのまま具現化させた、偽りの姿だった。


 尤も、この事実を本物の『魔弾の射手』であるマルヌスが知ったら、「とんだ風評被害だ!」とすぐさま怒り出すだろうが。



 それほどまでに、謎に包まれた伝説の魔法使い――『魔弾の射手』に対する世間からのイメージは、美化されすぎていたのだ。



 ――そんなマルヌ役の男の浮かない顔などお構いなしに、サーロン役の男は薄ら笑いを浮かべながら話し始める。


「お前も大変よなぁ。なんだっけ? あの、()()()()って学園」


「……ポポロミート学園、ですか?」


「そうそう。その、ポラポラマーマ学園。

 魔法の才能なくて、中退しちまったんだろ?」


 悪びれる様子もなくそう言い放たれたマルヌ役の男は、悔しさを押し殺すように、唇をキュッと強く噛み締めた。



「でも、良かったじゃねぇか。そんなお前も今や、人気の舞台俳優だ。

 その(つら)で産んでもらっただけでも、感謝しねぇとなぁ?」


「ちげーねぇ!」


 サーロン役の男の調子に合わせるようにして、サクリー役の男もケラケラと笑い出す。

 


「ほんじゃま、いつもの店行こうぜ?」


 サーロン役の男は踵を返し、サクリー役の男にそう促した。

 彼らは舞台終わりにいつも顔を出す、行きつけのバーに向かうつもりであった。




「――いい加減、やめたほうがいいんじゃないですか?」


 そんな彼らの後ろ姿に、ボソリと語りかけるマルヌ役の男。

 彼の言葉を聞いたサーロン役の男は、「あ?」と低く唸ると、鋭い眼光でマルヌ役の男を睨みつけた。


 マルヌ役の男はその迫力に()され、思わず息を呑む。

 しかし、意を決したように重い口を開けた。



「いつも行くバーで、やってるんですよね? ――()()()



 彼の言う『クスリ』とはもちろん、病気や傷を治すためのものではない。

 ――違法薬物のことである。


 二人が、違法薬物として知られる『アマリナ』の常習者だという話は、この業界では有名だった。

 そしてこの話は、まだこの業界に入って日の浅いマルヌ役の男の耳にも入っていた。



 その問いに対して何を答えるでもなく、依然として鋭い眼光で睨み続けてくる目の前の二人。

 そんな彼らに内心では臆しながらも、拳をぎゅっと握り、自らを奮い立たせながら、ゆっくりと口を開く。



「……僕たち俳優は、みんなにひと時の夢を与える立派な仕事です。

 僕はこの仕事に誇りを持っている。

 お二人もそうなんじゃないんですか?」



 ここまで言ってしまえば、もう後には引けない。

 マルヌ役の男は続けた。



「――お二人は、クスリに依存し、蝕まれている自分自身に後ろめたさを感じないんですか!?

 恥ずかしくないんですか!?

 そんなんでお客さん達の前に立って、胸を張って堂々としていられるんですか!?」



 勢いに任せ、次第に声が荒くなっていくマルヌ役の男。

 しかし、そんな彼に充てられたかのように、サーロン役の男の額には、うっすらと青筋が浮かぶ。



「てめぇ――言ってくれるじゃねぇか……ッ!」


 そうしてついに、サーロン役の男は、自分の目の前で声高らかに持論をのたまう若造に対して、我慢の限界を迎えた。



「俺だってなぁ! お前くらいの時には、誰もが憧れるような俳優になってやるって、目を輝かせていたさ!

 いつまで経っても、(かね)にならねぇ芝居を続けた。

 それでもいつか、俺だけを照らすためのスポットライトを浴びてやると、泥臭く続けた。

 そうしてやっと巡ってきたと思ったんだ!

 だが現実はどうだ!?


 蓋を開けてみれば、ポッと出の――素人に毛の生えた程度の()()()()()をヨイショするだけの、ただのお飾りじゃねぇか!

 ――クスリでもやらねぇとやってられねぇだろが!」



 実際には、彼がクスリに手を出したのは、この対魔(たいま)(じゅう)英雄譚(えいゆうたん)の舞台が始まるよりも前だった。

 そのため、今しがた彼が力説した話は、マルヌ役の男に対する完全なる()()()()()である。



 思いの丈を喚き散らしたサーロンの役の男は、後ろのサクリー役の男が両腕に抱えている()()()()()()を数個、乱暴に鷲掴みにする。



「――そりゃあ、こんなガラクタに(すが)りたくもなるさ」


 そう言って、玉の内部で怪しくゆらめく橙色の光をぼんやりと見つめる。

 すると、今までの激しい怒号から一転、まるで何かに取り憑かれたかの如く、静かな声で恨めしそうに呟き始めた。



「目障りなんだよ、お前は。

 ……なあ、頼むからさ。消えてくれないか?

 みんなにひと時の夢を見せたいんだろ?

 だったらよぉ。俺にも夢、見させてくれよ……」



 虚な目でそう語る彼の声に呼応するかのように、彼の手にする玉が、強烈な光を放ち始めた。

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