第74話 華やかな舞台の裏で(1)
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「ったくよぉ。
お前、いくらなんでも買いすぎじゃねぇのか?」
先を歩くサーロン役の男は、後ろについてくるサクリー役の男に軽く視線を向けると、「くくっ」と小さく笑った。
そんな彼の様子に、サクリー役の男は同じく笑みを浮かべながら口を開く。
「いいじゃないすか! だってこの呪いのお守り、持っているだけで嫌いな奴を呪えるんでしょ?
多ければ多いだけ、効き目ありそうじゃないすか?」
サクリー役の男は、両腕いっぱいに、例の橙色の玉を抱えていた。おそらく十は超えているだろう。
――彼の言う通り、その玉は『呪いのお守り』として販売されていたもの。
二人が昼食をとった帰りに通った、人気のない小道。そこで、ボロ切れのような小汚いローブを着て、目深にフードを被った怪しげな商人から購入したのだ。
「ばーか。そんなもん信じてどうするんだよ」
「そういう兄貴も、一個買ってるじゃないすか」
サクリー役の男にそう返され、サーロン役の男は手にした橙色の玉を軽く放って、キャッチした。
「まぁな」
彼は別に、これが実際に『呪い』の効力を秘めているとは信じていなかった。
聞けば、この玉一個あたりの値段は、そこらでパンを一つ購入するのと変わらないほどだと言う。
決して高価なものではない、むしろ安価なものだ。だからこそ、なおさら効果なんかないだろう。
そう思って商人の前を通り過ぎようとしたものの、不思議と、この玉の中でゆっくりと渦巻く橙色の光に惹かれていることに気づいた彼は、
(ちょっとした遊びだ)
と、一つだけ購入したのである。
「たまにはこういう遊びも必要だろ?」
「へへっ! さっすが兄貴!
んで、誰を呪うんすか? もちろん、あいつっすよね?」
サクリー役の男の問いに、サーロン役の男は何も答えなかった。
しかし彼らの中では、ある共通の男の姿が浮かんでおり、その事に対しては語らずとも互いにわかりきっていた。
「――んでもまあ、大事なのは適量よ。こんな遊び一つとってもな。
その点、お前はダメだね。欲丸出しで全然スマートじゃねぇ。
だから、もらえる役もパッとしねぇんだ」
サーロン役の彼の言葉に、ムッと眉間に皺を寄せたサクリー役の男は、不満そうに口を尖らせて小さく呟く。
「……そういう兄貴も、主演から降ろされてんじゃないすか」
「ああっ!? なんか言ったか!?」
「……いえ、なんでもねっす」
サクリー役の男の声が聞こえていたのか、いなかったのか。
それは定かではなかったが、サーロン役の男は「ちっ!」と舌打ちをした。
そして、手にした橙色の玉を親指と人差し指でつまみ、目線の高さでコロコロと軽く動かして見る。
「……何やってるんだか。くだらねぇ」
つまらなさそうにそう呟くと、まるで飽きたおもちゃを放るかの如く、橙色の玉をポイッと後方に放り投げた。
「いいんすか?」
「いらねーよ。あんなもん」
一方で、そんな彼らの少し後ろで、物陰に隠れながらも彼らの後をつけている男が一人――マルヌスである。
どうやら、彼らの口ぶりからすると、あの玉について詳しいわけではないようだと察した。
しかし、なんらかの手がかりが得られるかもしれない。
マルヌスは、依然歩みを進める彼らを追いかけるため、次に隠れるべき物陰に目星をつけると、そこに向かって一歩を踏み出した。
すると――。
コロコロコロ。
先程、サーロン役の男が後ろに放った玉が、マルヌスの足元までゆっくりと転がってきた。
「ん?」
それに気づいたマルヌスは、足元を見やる。
(……あれれぇ……?)
この瞬間、マルヌスお得意の嫌な予感というやつが、彼の全身を駆け巡った。
この嫌な予感は、毎度のことながらよく当たる。
カアァァァァ……
足元の橙色の玉から、眩い光が発せられた。
これは先日、マルヌスとリブが森の調査で無数のスケルトン達と対峙することになる直前にも見た、あの強烈な光。
「……うそだろぉ」
半ば諦めが混じったように小さく呟き、臨戦体制に入る。
こんな街中に突然魔物が現れたとなれば、街の人々がパニックになりかねない。
しかし幸いにも、この通りは人通りが少ない。
迅速かつ確実に仕留める必要がある。
その事がわかっているマルヌスは、緊張の面持ちで神経を研ぎ澄ませた。
――しかし、そんな彼の気持ちとは裏腹に、魔物は一向に現れる気配がなかった。




