第63話 後日談(1)
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激闘のポポロミート杯が終わった翌日の放課後。
俺は担任のダーリィ先生に呼び出され、彼の事務室に訪れた。
扉をノックすると、「入っていいぞー」という彼の呑気な声が響く。
この覇気のない声色。毎度のことだが、本当に教師なのかと疑ってしまうほどに気の抜けた声だ。
ただ、だからこそこちらも気負うことなく接することができるのだが……。
ガチャリと扉を開けると、中にはダーリィ先生の他に、二人の人影があった。
一人は、風紀委員長のガント。
もう一人は、生徒会長のアルテアさんだ。
低めのテーブルを挟んで向かい合うように配置されたソファ。
その片方に横並びで座っているガントとアルテアさん。
そして、その向かいに座るダーリィ先生。
ガントやアルテアさんとは既に見知った中ではあるものの、二人揃うとなかなかの迫力である。
なんというか、身に纏うオーラが違う。
さすがは学生団体の二代巨頭を束ねる長たちと言ったところか。
予想していなかった面々を前に固まる俺に対して、ダーリィ先生は口を開いた。
「おーい、いつまでそこに突っ立ってるんだー?」
そう言って、ソファの空席の座面をポンポンと叩く。
その声にハッと我に帰った俺は、先生に促されるままその空席についた。
「やあ」
アルテアさんは、その白く美しい顔で、俺に優しく微笑みかけた。
一方でガントは腕を組み、目も口も硬く閉じたまま険しい顔をしている。
――まさか、昨日の試合で負けたこと引きずってたりしないよな?
昨日は気さくに話しかけてくれ、とかなんとか言っていたが、心変わりしているかもしれない。
やっぱり敬語使った方がいいだろうか……?
そんな俺の微かな不安など知りもしないアルテアさんは、その長い足を組むなり、早速本題を切り出した。
「君も彼らの被害者だからな。
その処遇についてはきちんと説明すべきだと思い、呼ばせてもらった」
その言葉を聞いて、俺の中にある心当たりは一つだけだった。
「ディック達の件……ですか?」
アルテアさんは軽く頷いた。
――ディックと、彼に加担して俺を襲った何人かの生徒達。
結論として、彼等はしばらくの間、自宅謹慎となった。
事のあらましはこうだ。
ポポロミート杯で俺に勝利するための算段として、ディックは出場選手達へ様々な妨害工作を図っていたらしい。
まずは一回戦。ディックは生徒会副会長――ノンネムさんと当たった。
朝一番にそのことを知ったディックは、何人かの生徒達の協力のもと、自宅を出たノンネムさんに『妹さんが馬車と接触して大怪我をした』という嘘の連絡をしたそうだ。
ノンネムさんはそれを聞くなり、妹さんが運ばれたとされた場所に急行。
それにより、彼は一回戦の開始時刻に間に合わず、ディックの不戦勝となった。
続く二回戦。ディックは対戦相手の飲み物に強力な下剤を混ぜたらしい。
――どうやら俺の『お腹痛くなっちゃった』予想は正しかったらしいぞ、委員長。
そして三回戦。俺に対して良い感情を抱いていない男子生徒達を仲間に取り込み、俺を集団リンチ。
……こうして聞いてみると、なんだかなあ……。
丁寧に説明してくれるアルテアさんが可哀想に思えてくるほどに、ディックの計画は杜撰でお粗末なものだった。
こんなもの、あとで簡単に明るみになりそうなものだが。
そんな俺の表情を読み取ったのか、アルテアさんは「フッ」と笑った。
「言いたいことはわかるよ。ただ、今回の件は明るみにならない可能性もあったんだ。
そこまでディック君が考えていたかはわからないが……」
そう言ってアルテアさんは人差し指を立てる。
思えば出会った当初から、彼女は指を一本ずつ立てながら、要点を順序よく説明するのが得意な様子だった。
「一回戦でディック君と当たるはずだったうちの副会長――ノンネムは穏和な性格でね。
家族が事故にあったと聞けば飛んでいくし、それが後で人違いだったと言われれば、心底安心するような男なんだ。
まあ実際は事故すら起こっていなかったようなのだが。
だから、それによって自分がポポロミート杯を棄権することになった時も、『仕方ない』で済ませたと言っていた。
――とはいえ、ノンネムでなくとも、大抵の生徒ならば同様の感想を抱いて終わりだろう」
なるほど。確かにアルテアさんの言う通りだろうと思う。
続いてアルテアさんは二つ目を示す中指を立てた。
「二回戦の彼は、単純に体調不良だと思ったそうだ。
元々、お腹の方が強くないそうで、いつもの事だと思ったらしい。
彼の断末魔の叫びは中々のものだったが、それに込められた想いは、どうやら自分のデリケートな腸に対する積年の恨みだったようだ」
……可哀想に。それ以上の言葉が出てこない。
アルテアさんは三つ目を示す薬指を立てて、説明を続けた。
「そして三回戦。君を襲った生徒達は全員仮面をつけていたのだろう?
明らかに顔を隠すための方策だ。
彼ら曰く、正体を知られることなく、君の意識を奪うまで暴行を働くつもりだったそうだ。
君をそこに案内した生徒も、シラを切り通せばいいと思っていたらしい」
……なんか俺の時だけ、やけに悪質でタチが悪いような……。
今にして思えば、そこまで恨みを買っていたのかと血の気がひく思いの俺だったが、そこまで聞いて、ある一つの疑問が生まれた。
「じゃあ――なんで今回の件は明らかになったんですか?」




