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第63話 後日談(1)

***



 激闘のポポロミート杯が終わった翌日の放課後。

 俺は担任のダーリィ先生に呼び出され、彼の事務室に訪れた。


 扉をノックすると、「入っていいぞー」という彼の呑気な声が響く。

 この覇気のない声色。毎度のことだが、本当に教師なのかと疑ってしまうほどに気の抜けた声だ。

 ただ、だからこそこちらも気負うことなく接することができるのだが……。



 ガチャリと扉を開けると、中にはダーリィ先生の他に、二人の人影があった。

 一人は、風紀委員長のガント。

 もう一人は、生徒会長のアルテアさんだ。


 低めのテーブルを挟んで向かい合うように配置されたソファ。

 その片方に横並びで座っているガントとアルテアさん。

 そして、その向かいに座るダーリィ先生。



 ガントやアルテアさんとは既に見知った中ではあるものの、二人揃うとなかなかの迫力である。

 なんというか、身に纏うオーラが違う。

 さすがは学生団体の二代巨頭を束ねる長たちと言ったところか。



 予想していなかった面々を前に固まる俺に対して、ダーリィ先生は口を開いた。


「おーい、いつまでそこに突っ立ってるんだー?」


 そう言って、ソファの空席の座面をポンポンと叩く。

 その声にハッと我に帰った俺は、先生に促されるままその空席についた。



「やあ」


 アルテアさんは、その白く美しい顔で、俺に優しく微笑みかけた。

 一方でガントは腕を組み、目も口も硬く閉じたまま険しい顔をしている。



 ――まさか、昨日の試合で負けたこと引きずってたりしないよな?

 昨日は()()()に話しかけてくれ、とかなんとか言っていたが、心変わりしているかもしれない。

 やっぱり敬語使った方がいいだろうか……?


 そんな俺の微かな不安など知りもしないアルテアさんは、その長い足を組むなり、早速本題を切り出した。



「君も()()の被害者だからな。

 その処遇についてはきちんと説明すべきだと思い、呼ばせてもらった」


 その言葉を聞いて、俺の中にある心当たりは一つだけだった。


「ディック達の件……ですか?」


 アルテアさんは軽く頷いた。



 ――ディックと、彼に加担して俺を襲った何人かの生徒達。

 結論として、彼等はしばらくの間、自宅謹慎となった。



 事のあらましはこうだ。

 ポポロミート杯で俺に勝利するための算段として、ディックは出場選手達へ様々な妨害工作を図っていたらしい。



 まずは一回戦。ディックは生徒会副会長――ノンネムさんと当たった。

 朝一番にそのことを知ったディックは、何人かの生徒達の協力のもと、自宅を出たノンネムさんに『妹さんが馬車と接触して大怪我をした』という()()()()をしたそうだ。


 ノンネムさんはそれを聞くなり、妹さんが運ばれたとされた場所に急行。

 それにより、彼は一回戦の開始時刻に間に合わず、ディックの不戦勝となった。



 続く二回戦。ディックは対戦相手の飲み物に強力な下剤を混ぜたらしい。

 ――どうやら俺の『お腹痛くなっちゃった』予想は正しかったらしいぞ、委員長。



 そして三回戦。俺に対して良い感情を抱いていない男子生徒達を仲間に取り込み、俺を集団リンチ。



 ……こうして聞いてみると、なんだかなあ……。


 丁寧に説明してくれるアルテアさんが可哀想に思えてくるほどに、ディックの計画は杜撰(ずさん)でお粗末なものだった。

 こんなもの、あとで簡単に明るみになりそうなものだが。



 そんな俺の表情を読み取ったのか、アルテアさんは「フッ」と笑った。


「言いたいことはわかるよ。ただ、今回の件は明るみにならない可能性もあったんだ。

 そこまでディック君が考えていたかはわからないが……」


 そう言ってアルテアさんは人差し指を立てる。

 思えば出会った当初から、彼女は指を一本ずつ立てながら、要点を順序よく説明するのが得意な様子だった。



「一回戦でディック君と当たるはずだったうちの副会長――ノンネムは穏和な性格でね。

 家族が事故にあったと聞けば飛んでいくし、それが後で()()()()()()と言われれば、心底安心するような男なんだ。

 まあ実際は事故すら起こっていなかったようなのだが。


 だから、それによって自分がポポロミート杯を棄権することになった時も、『仕方ない』で済ませたと言っていた。

 ――とはいえ、ノンネムでなくとも、大抵の生徒ならば同様の感想を抱いて終わりだろう」



 なるほど。確かにアルテアさんの言う通りだろうと思う。

 続いてアルテアさんは二つ目を示す中指を立てた。



「二回戦の彼は、単純に体調不良だと思ったそうだ。

 元々、お腹の方が強くないそうで、いつもの事だと思ったらしい。

 彼の断末魔の叫びは中々のものだったが、それに込められた想いは、どうやら自分のデリケートな腸に対する積年の恨みだったようだ」


 ……可哀想に。それ以上の言葉が出てこない。

 アルテアさんは三つ目を示す薬指を立てて、説明を続けた。



「そして三回戦。君を襲った生徒達は全員仮面をつけていたのだろう?

 明らかに顔を隠すための方策だ。

 彼ら曰く、正体を知られることなく、君の意識を奪うまで暴行を働くつもりだったそうだ。

 君をそこに案内した生徒も、シラを切り通せばいいと思っていたらしい」


 ……なんか俺の時だけ、やけに悪質でタチが悪いような……。



 今にして思えば、そこまで恨みを買っていたのかと血の気がひく思いの俺だったが、そこまで聞いて、ある一つの疑問が生まれた。



「じゃあ――なんで今回の件は明らかになったんですか?」

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