第62話 渾身の一撃(5)
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マルヌスとディックの試合が終わり、しばらくして……。
「――ここまで、か」
生徒会長のアルテア・スノウは、喉元に突きつけられた剣先から視線を切って目を閉じると、両手を広げて降参の意を示した。
「さすがね。ここまで来るのに苦労したわ」
一方で、剣先を突きつけていた剣聖の娘――リブ・ステイクスは剣を下ろした。
彼女たちの周りには、無数の土の塊が散らばっていた。
それらは、アルテアの土魔法によって作られたクレイドールだったもの。
無数のクレイドールたちは、それぞれが意思を持つように動く人形。
それらは、外敵がアルテアに近づくことを決して許さない。
もちろん、それはリブ相手でも例外ではない。
試合開始直後、アルテアに生み出されたクレイドール達は、一斉にリブに襲いかかった――のだが。
昨日のスケルトン達と同様に、鮮やかなリブの太刀筋の前に、クレイドール達は次々と倒れていった。
そうしてリブに斬り伏せられたそれらは今、ただの土の塊に戻っていた。
三回戦、第二試合――リブ・ステイクス vs アルテア・スノウ。
「勝者! リブ・ステイクス!」
「ワーーー!」
オレガノの宣言によって、会場中が歓声に包まれた。
そんな大歓声の中心で、リブとアルテアは爽やかな握手を交わした。
「さすがリブちゃん! 愛してるよー!」
リブに向けて熱い投げキッスを飛ばすマリー。
実は、マリーが司会進行役に立候補した理由は、『リブの勝利の瞬間を一番間近でみたいから』であった。
三年生となり、リブにとって最後のポポロミート杯。
その、最後の大会で優勝するリブの姿をこの目に焼き付ける――それがリブの親友であるマリーの願いだった。
普段の言動や行動から、何かと軽く見られがちなマリー。
しかしその実、自分の親しい者に対する情熱は、人一倍持ち合わせているのだ。
他方で、オレガノはそれに巻き込まれる形で司会進行役に就いた。
マリーの強引な勧誘に対して、「まったくもう……」と呆れた様子で渋々承諾したオレガノ。
そんな彼女だったが、こうしていざ進行役に就いてみれば、満更でもなさそうであった。
「これにて、三回戦が終了となります!
そしていよいよ、残すところは決勝戦だけ――なのですが……」
言葉尻を濁しながら、ステージ袖に目をむけるオレガノ。
ちょうどその時、スタッフの生徒がオレガノに向かって駆け寄ってきた。
「先ほど、目を覚ましましたッ!」
その声を聞くや否や、ステージに立っていたリブは踵を返して駆け出した。
***
目を覚ますと、俺の視界に映ったのは白い天井だった。
「ここは……?」
現状を把握したい俺は、まだ重い体に鞭を打ってゆっくりと上半身を起こす。
「……!? シエル! マルヌスが……!」
「マルヌス! ――よかった」
俺の横に座っていたレビィの声。
続けて、部屋の隅に立っていたシエルの声。
ベッドに横たわっていた俺と、それを見守っていた二人の様子から察するに、どうやら俺は学園の医務室に担ぎ込まれたらしい。
――それがわかった途端、急に直前までの記憶が蘇ってきた。
「――勝者、マルヌス・ターヴィン!」
「オレガノ! マルヌス君の様子が変だよ!?」
「本当だ。……ちょっと待って! この子、立ったまま気絶してる!」
「誰か、彼を医務室に!」
正確には、その時はまだ気絶していなかった。
バタバタと騒がしい会場の声が耳に入ってきたのだが、それに反応できるような余裕もなく。
駆け寄ってきたスタッフに肩を貸してもらった瞬間から、俺の意識は途絶えた。
そう考えると、肩を貸してくれた彼には悪いことをしたな。
急に全体重を預けてしまったから、さぞや運びづらかったであろう。
それにしても、俺が放ったあの初級魔法がディックの上級魔法に勝てるなんて。
今にして思えば、なかなかに信じがたい光景だったと思う。
俺の魔法はもともと、速度はあるものの、致命的な威力不足が課題だったはずなのだが。
ほぼほぼ無意識下で放ったあの魔法。あれは一体……。
――まあ、いいか。
とにかく、俺はディックに勝った。この大会における目標は無事に達成できたということだ。
今はただ、この二人の笑顔を守れただけで良しとしよう。
そんなことを考えていると、医務室に向かって駆けてくる慌ただしい足音が聞こえてきた。
誰だろう? 委員長だろうか?
ぼんやりとそう思っていた俺の予想に反して、その人物の正体はなんと――リブだった。
「元気……じゃなさそうね」
軽く息を切らしながらもそう問いかけてくるリブに対して、俺は苦笑いを浮かべた。
「体は大丈夫――なんだけど。如何せん魔力の方が、ね」
ディックに勝っても、ポポロミート杯はまだ終わっていない。
彼女の様子から察するに、きっと勝ち上がって決勝戦まで駒を進めたのだろう。
『あなたは必ず私が倒すわ。だから絶対、私に当たる前に負けるんじゃないわよ?』
いつぞや、彼女はそう言った。
今朝も馬車の中で同じ会話をしていたっけ。
彼女は約束を果たした。
対して俺は、決勝戦まで駒を進めることはできたものの――。
「……悪いな。決勝で戦うって約束、守れなくて……」
俺の魔力は底を尽きていた。
魔法が使えない俺なんて、ただの無力なヒョロガリだ。
とてもじゃないが、次の決勝戦に出場する事は叶わないだろう。
悔しいが、棄権するしかない。
力ない笑みを返すしかない俺に対して、リブは腕を組みながら「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「……仕方ないわね。
この大会で優勝しても、私はあなたに勝ったなんて思わない。
だから――勝負はお預けよ」
これはリブなりの優しさなのだろう。
負けず嫌いなリブらしい言葉だ。
俺としては、この優しさを素直に受け取らせてもらおうじゃないか。
「……ああ!」
力強くそう返す。
そんな俺らの様子を見て「ふふっ」と笑うシエルとレビィ。
なんだか、こういうのもいいもんだな。
長らく山で暮らしてきた俺だったが、きっとあのままの生活を続けていたら、こんな感覚に出会うことは一生なかっただろう。
なんだかんだ、この大会に出て――この学園に来てよかった。
「マルヌス、目覚めたんだって!?
さっそく次の試合の作戦会議よ!
いよいよあのリブ・ステイクスの無敗神話を破ってやるんだからッ!
……あっ……」
その直後、勢いよく駆け込んできた委員長が、一足早く到着していたリブと目が合って固まってしまったのも、いい思い出となった。
こうして、今年のポポロミート杯は、リブ・ステイクスの優勝で幕を閉じた。
以上で第四章が終了となります。
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