第47話 勝ち上がる者(1)
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「いやー。さっきの戦いはすごかったねー。
まるで決勝戦を見てるかと思うくらいだったよねー?」
マイクを片手に、ニコニコと笑顔を浮かべながら観客席に向かって問いかけるマリー。
そんな彼女の問いかけは尤もであった。
観客席は未だ、ざわざわと騒がしく、そのほとんどが、先程のマルヌスとガントの試合について語らい合うものだった。
しかし、そんな観客席の彼等の反応は至極当然のことだと言えるだろう。
優勝候補の一角として呼び声が高かったガント。
そんな彼が、まさかの初戦敗退。
そして、そのガントに勝利して駒を進めたのは、編入してわずか一週間の、無名のダークホース。
そんな波乱の初戦を、誰が予測できただろうか。
まず、『マルヌス・ターヴィン』という名前を知る者が少なかっただろう。
仮に名前を知っていても、それはディックに与する者たちが流した良からぬ噂からがほとんどだっただろう。
そして、仮にその容姿までも知っていたとして、彼の華奢な体つきを見ても、まさかガントに勝利できるとは微塵も思わなかったことだろう。
先に挙げた、良からぬ噂というのも様々だった。
例えば、編入早々、学園の綺麗所に声をかけまくる軟派野郎だ、とか。
貧弱な魔法しか使えないのに編入出来たのは、裏でなんらかの不正な手引きがあったからだ、とか。
どれも根も葉もない噂だったが、一部のゴシップ好きの興味を引くには十分なネタであり、その界隈で広まるのに、そう時間はかからなかった。
そして、そのどれもが、決して彼を実力者だとは思わせないような内容だった。
「とはいえ、まだまだ大会も序盤。
これからの戦いにも期待しちゃうよねー!
……なんて、出場者のみんなのプレッシャーになっちゃうかな?」
そう言って舌を出して笑うマリーの表情からは、とても今の発言に対する申し訳なさなど感じられなかった。
隣に立つオレガノは、そんな彼女の様子など慣れっこのようで、呆れたように「はぁ……」と小さく溜息をつくと、マイクを口元に構えた。
「では、続いて第四試合を開始します!」
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賑わう観客席の中で、運良く二人並んで空いている席を見つけたシエルと委員長。
「次の試合はたしか、生徒会の書記の人が出るんだったよね?」
「そうね。魔法科三年、レタリー・ペティさん。
小柄で可愛らしい女性なんだけど、そんな見た目とは裏腹に、変な通り名があるみたい。
なんでも――『速記サイボーグ』とかなんとか」
委員長が言うように、選手としてステージ横に控えているのは、栗色の髪と、くりくりの目が印象的な、小柄な女性。
手には本のようなものを抱えている。
「で、レタリーさんの相手は無所属の一般生徒だけど……。
彼は素行不良でよく問題を起こしているらしいわ。
おかげで、強さと言う点においては、申し分ないようね」
反対側に控えている選手は、金髪をリーゼント風にまとめた強面の男。
魔法剣を地面に擦り、ズルズルと引きずるように持っている。
まるで絵に描いたような不良。
彼がなぜこの学園に入学することが出来たのか――それは、この学園の大きな謎の一つである。
これから戦い合うには、あまりに不釣り合いな二人。
しかしこの大会には、スポーツとは違い、性別、年齢、階級など、全ての要素を覆す力がある。
それが『魔法』である。
現に先程、マルヌスがそれを見事に証明してみせた。
「……やっぱり、有力なのはあの不良の方かしら。
噂では、肩がぶつかったギルドランカーを叩きのめした事もあるらしいし。
……いや。レタリーさんも、あのアルテア会長がスカウトした優秀な人。
でも、それはあくまで仕事ができるからであって……」
ブツブツと呟く委員長を横目に、シエルは選手達を交互に見つめていた。
(この内の一人が、この後、マルヌスと戦う事になるんだ)
そう思うと共に、シエルはこの二人に対して尊敬の念を抱いていた。
去年のポポロミート杯。
――当時まだ一年生だったシエルにとって、その大会は自分とは関係のない世界の出来事だった。
ただ漠然と、すごいなぁという感想しか抱かなかったと思う。
そして迎えた今年の大会。
自分の近しい人が出場する初めての大会となった。
マルヌスとガントの戦いは、熾烈を極めるものだった。
マルヌスとは、知り合ってからまだ一週間しか経っていない。それでも彼の事は見てきたつもりだ。
普段の彼の姿は、決して格好いいものばかりではなかった。
中級魔法が扱えずに落ち込む彼。
座学でよだれを垂らしながら寝てしまう彼。
それが見つかり、ダーリィ先生に教科書で小突かれる彼。
食堂で財布が見つからず、後ろに長蛇の列を作りながらも焦ってポケットを裏返す彼。
いつも隣にいた友人の男の子が、今日、この大舞台で真剣に戦っている。
――そしてそれは、彼だけじゃない。
今まさにステージに上がろうとする二人の先輩達も、自分と同じ、この学園の生徒なのだ。
この大会は自分にとって、決して違う世界の出来事ではないのだ。
ぎゅっと固く拳を握りしめる。
(来年は――)
そんなシエルの密かな決意のすぐ横で、一人の男子生徒が、委員長に声をかけていた。
彼はシエルや委員長と同じクラスの生徒である。
「委員長! ダーリィ先生が呼んでたよ?
『今すぐ来てくれ』って」
「今!? ったく、こんな大事な時に!
シエルごめん! 私の分まで見ておいて!」
「え!? あ、うん……」
「ええと。たぶん教授室にいると思うよー?」
駆け出す委員長の背中にそう呼びかける男子生徒。
彼はしばらく委員長の後ろ姿を見送った後、シエルの方へと向き直った。
「シエルちゃん、よかったら一緒に見――」
しかし、彼の視線の先にいたのは、シエルだけではなかった。
「隣、いいだろうか?」
男子生徒よりも先にシエルに声をかけていたのは、至る所に包帯を巻きつつも、凛々しく腕を組む男。
つい先程、マルヌスに敗れ、気を失っていたはずの――ガント・ハグバールだった。




