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第47話 勝ち上がる者(1)

***



「いやー。さっきの戦いはすごかったねー。

 まるで決勝戦を見てるかと思うくらいだったよねー?」


 マイクを片手に、ニコニコと笑顔を浮かべながら観客席に向かって問いかけるマリー。


 そんな彼女の問いかけは(もっと)もであった。

 観客席は(いま)だ、ざわざわと騒がしく、そのほとんどが、先程のマルヌスとガントの試合について語らい合うものだった。

 しかし、そんな観客席の彼等の反応は至極当然のことだと言えるだろう。



 優勝候補の一角として呼び声が高かったガント。

 そんな彼が、まさかの初戦敗退。

 そして、そのガントに勝利して駒を進めたのは、編入してわずか一週間の、無名のダークホース。

 そんな波乱の初戦を、誰が予測できただろうか。

 


 まず、『マルヌス・ターヴィン』という名前を知る者が少なかっただろう。


 仮に名前を知っていても、それはディックに(くみ)する者たちが流した良からぬ噂からがほとんどだっただろう。


 そして、仮にその容姿までも知っていたとして、彼の華奢な体つきを見ても、まさかガントに勝利できるとは微塵も思わなかったことだろう。


 

 先に挙げた、()()()()()というのも様々だった。


 例えば、編入早々、学園の綺麗所に声をかけまくる軟派野郎だ、とか。

 貧弱な魔法しか使えないのに編入出来たのは、裏でなんらかの不正な手引きがあったからだ、とか。


 どれも根も葉もない噂だったが、一部のゴシップ好きの興味を引くには十分なネタであり、その界隈で広まるのに、そう時間はかからなかった。

 そして、そのどれもが、決して彼を()()()だとは思わせないような内容だった。




「とはいえ、まだまだ大会も序盤。

 これからの戦いにも期待しちゃうよねー!

 ……なんて、出場者のみんなのプレッシャーになっちゃうかな?」



 そう言って舌を出して笑うマリーの表情からは、とても今の発言に対する申し訳なさなど感じられなかった。


 隣に立つオレガノは、そんな彼女の様子など慣れっこのようで、呆れたように「はぁ……」と小さく溜息をつくと、マイクを口元に構えた。


「では、続いて第四試合を開始します!」



***



 賑わう観客席の中で、運良く二人並んで空いている席を見つけたシエルと委員長。


「次の試合はたしか、生徒会の書記の人が出るんだったよね?」


「そうね。魔法科三年、レタリー・ペティさん。

 小柄で可愛らしい女性なんだけど、そんな見た目とは裏腹に、変な通り名があるみたい。

 なんでも――『速記サイボーグ』とかなんとか」



 委員長が言うように、選手としてステージ横に控えているのは、栗色の髪と、くりくりの目が印象的な、小柄な女性。

 手には本のようなものを抱えている。



「で、レタリーさんの相手は無所属の一般生徒だけど……。

 彼は素行不良でよく問題を起こしているらしいわ。

 おかげで、()()と言う点においては、申し分ないようね」



 反対側に控えている選手は、金髪をリーゼント風にまとめた強面の男。

 魔法剣を地面に擦り、ズルズルと引きずるように持っている。

 まるで絵に描いたような不良。

 彼がなぜこの学園に入学することが出来たのか――それは、この学園の大きな謎の一つである。



 これから戦い合うには、あまりに不釣り合いな二人。

 しかしこの大会には、スポーツとは違い、性別、年齢、階級など、全ての要素を覆す力がある。

 それが『魔法』である。


 現に先程、マルヌスがそれを見事に証明してみせた。



「……やっぱり、有力なのはあの不良の方かしら。

 噂では、肩がぶつかったギルドランカーを叩きのめした事もあるらしいし。

 ……いや。レタリーさんも、あのアルテア会長がスカウトした優秀な人。

 でも、それはあくまで仕事ができるからであって……」



 ブツブツと呟く委員長を横目に、シエルは選手達を交互に見つめていた。


(この内の一人が、この後、マルヌスと戦う事になるんだ)


 そう思うと共に、シエルはこの二人に対して尊敬の念を抱いていた。



 去年のポポロミート杯。

 ――当時まだ一年生だったシエルにとって、その大会は自分とは関係のない世界の出来事だった。

 ただ漠然と、すごいなぁという感想しか抱かなかったと思う。


 そして迎えた今年の大会。

 自分の近しい人が出場する初めての大会となった。



 マルヌスとガントの戦いは、熾烈を極めるものだった。


 マルヌスとは、知り合ってからまだ一週間しか経っていない。それでも彼の事は見てきたつもりだ。



 普段の彼の姿は、決して格好いいものばかりではなかった。


 中級魔法が扱えずに落ち込む彼。

 座学でよだれを垂らしながら寝てしまう彼。

 それが見つかり、ダーリィ先生に教科書で小突かれる彼。

 食堂で財布が見つからず、後ろに長蛇の列を作りながらも焦ってポケットを裏返す彼。


 いつも隣にいた友人の男の子が、今日、この大舞台で真剣に戦っている。



 ――そしてそれは、彼だけじゃない。

 今まさにステージに上がろうとする二人の先輩達も、自分と同じ、この学園の生徒なのだ。


 この大会は自分にとって、決して違う世界の出来事ではないのだ。


 ぎゅっと固く拳を握りしめる。


(来年は――)



 そんなシエルの密かな決意のすぐ横で、一人の男子生徒が、委員長に声をかけていた。

 彼はシエルや委員長と同じクラスの生徒である。


「委員長! ダーリィ先生が呼んでたよ?

 『今すぐ来てくれ』って」


「今!? ったく、こんな大事な時に!

 シエルごめん! 私の分まで見ておいて!」


「え!? あ、うん……」


「ええと。たぶん教授室にいると思うよー?」



 駆け出す委員長の背中にそう呼びかける男子生徒。

 彼はしばらく委員長の後ろ姿を見送った後、シエルの方へと向き直った。



「シエルちゃん、よかったら一緒に見――」


 しかし、彼の視線の先にいたのは、シエルだけではなかった。



「隣、いいだろうか?」


 男子生徒よりも先にシエルに声をかけていたのは、至る所に包帯を巻きつつも、凛々しく腕を組む男。


 つい先程、マルヌスに敗れ、気を失っていたはずの――ガント・ハグバールだった。

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