第46話 波乱の初戦(4)
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俺の跳弾による全方向集中射撃(仮)により、再び巻き起こる砂煙。
それが晴れた時、ガントは空を仰ぎ見るようにして倒れていた。
「……しょ、勝者、マルヌス・ターヴィン!」
静まり返る会場。少し遅れて、オレガノさんの声。
その宣言により、盛大な歓声が響き渡る――ような事もなく。
観客席はただ、ザワザワとどよめくだけだった。
……しかしまあ。結果的に勝ったとはいえ、かなりぎりぎりの戦いだったように思う。
ギルドランキング29位って、本当かよ?
正直、6位のラウダよりよっぽど強そうだ。
ここからじゃよく見えないが、気を失っているガントの顔は、満足そうに微笑んでいるように見える。
気のせいかもしれないが。
楽しかったか? 俺も楽しかったよ。
傷ついた体の痛みを押し殺し、俺はゆっくりとステージを降りた。
***
「すごいよー! マルヌス!
あのガントさんに勝っちゃうなんて!」
控室についた俺を最初に出迎えてくれたのはシエル。
奥にはレビィと委員長の姿もある。
「……ボロボロになっちゃったね」
そう言いながらも、優しく微笑むレビィ。
とりあえず、初戦を突破してホッと一安心といったところか。
「お疲れさん!
でも、まだトーナメントは始まったばかりよ。
ディックと戦うためには、最低でも、次の試合に勝たないと」
そう。委員長の言う通り、一回戦、ディックは不戦勝で勝ち上がった。
彼は次の試合で、俺の一つ前の試合の勝者と当たる。
そして俺は、この後始まる試合の勝者と当たる事になる。
こりゃ、休んでいる暇はなさそうだな。
「――ちょっと! どこ行くの!?」
部屋から出ようとする俺をシエルが慌てて呼び止める。
「次の試合で勝った方が、俺と当たる事になるだろ?
見ておかないと」
俺たちの目標は、とにかくディックとの勝負に負けない事。
得られる情報は少したりとも欠かしたくない。
ドンッ!
突然、誰かに体を押された。
俺はその勢いに抵抗する事も出来ず、よろめきながら後ろに下がり、近くにあった椅子につまづく。
そしてそのまま、崩れ落ちるようにその椅子に腰掛けた。
「いてて……。何すんだよ委員長?」
顔を上げ、俺を突き飛ばした犯人――委員長を睨む。
しかし、当の本人は何でもないといった様子で、すまし顔のまま眼鏡をクイッと上げ、口を開いた。
「あんたは休んでなさい。次の試合は見といてあげるから」
「え?」
「あんた、今の消耗しきった体で次の試合に臨む気?
それじゃあ勝てるものも勝てないわよ!」
「……」
確かに、委員長の言い分は尤もだと思う。俺は何も言い返せなかった。
そんな俺の様子に、「はぁ……」と小さく溜息をついた委員長は、再び語気を強めて話し出す。
「まだ魔法は使えるわね?」
「……はい」
「特別に痛む箇所とかは?」
「……無いです」
全部が平等に痛いです、とは言わないでおく。
「じゃあひとまず安静にしてなさい!
今はとにかく、体力を温存しておくの!
――シエル!」
「……は、はいッ!」
不意に名を呼ばれたシエルは、思わず背筋をピンと伸ばす。
「あんたは私と一緒に次の試合の観戦! 敵情視察よ!
――レビィ!」
テキパキと指示を繰り出す彼女の姿は、まさにクラスをまとめ上げる時のそれである。流石、我らが委員長!
で、お次はレビィか。
「例のアレ、やっちゃいなさい!」
「……がってん」
……例のアレ……?
怪しげな響きの言葉。それを聞くなり、了解を示すように親指を立てるレビィ。
かと思えば、彼女は羽織っている丈の長いローブの袖をまくる。
そして、そこから出てきた白く小さな手をワキワキと動かし始めた。
え、え。 一体、何の準備なの。
辿々しくも、どこか艶かしい彼女の動きを見ていると、俺の心臓がドクンと強く脈打つ。
不安半分。残りの半分は……ぶっちゃけ期待だ。
何かを企むレビィに、俺は恐る恐る訊ねる。
「……レビィさん? なにを?」
「……心配しないで。
……すぐに気持ちよくなる……よ?」
そう言ってゆっくりこちらに手を伸ばすレビィ。
ま、まさかこんな……ッ! みんなが見ている前で――?
……。
「ぎゃーーーーーーッッ!!」
紫電を纏った手で、俺が腰掛けている椅子の背もたれに触れたレビィ。
それと同時に、俺の身体中に駆け巡る電流。
たまらず悲鳴を上げる俺。
これ、大丈夫!? 骨透けて見えてない!?
「……エクレール家直伝。
えれくとりっく・さんだー・ぼると……ふぃーちゃりんぐ、椅子」
「安心しなさい。それ、レビィの家に代々伝わるマッサージの一種なんだって。
……まあ、レビィの力加減次第だけど」
さらっと怖いこと言った。
多分これ、元は普通に攻撃魔法だよね!?
「……血行促進。自然治癒力を高める」
うんうん、と頷きながらそう呟くと、もう片方の手にも紫電を走らせるレビィ。
まさか――両手で!?
ゆっくりと椅子に近づいて来るもう片方の手。
片手で既に十分だよッ! だから、やめ――
電撃を浴び続け、終わらない悲鳴を上げている俺を置いて、委員長とシエルは部屋を出ていった。
***
「それにしても、すごかったね!
もしかしたら本当にこのまま優勝しちゃったりして……」
未だ興奮冷めやらぬといった様子のシエル。
一方で、委員長はそんなシエルとは対照的に暗い表情を浮かべている。
「それは難しいわね」
「委員長ってば、またそんなこと言って。
だって優勝候補のガントさんに勝ったんだよ?」
「それが問題なのよ」
依然、神妙な面持ちのまま、委員長はさらに続ける。
「この大会はトーナメント方式。勝ち上がるたびに消耗していくわ。
当然、出場者達は皆、強者。戦いも生半可なものじゃない。手を抜ける戦いなんて一つもない。
だから、強敵と当たるのは、できるだけ後半の方がよかったの。
その方が、相手も消耗しているはずだしね。
逆に、マルヌスは一回戦で消耗しすぎてしまった。
これからの戦いが、より厳しいものになってしまうほどに……ね」
――ディックとの勝負に負けない事。
確かに、その点で言えば、序盤で強敵と当たってしまったことはかなりの痛手と言えるだろう。
委員長の言葉に、ゴクリと唾を飲むシエル。
「さあ、私たちは少しでも、情報を収集しないとね」
「……うん!」




