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26悪役令嬢、兄の祖父への用を見守る

「おじいさま!」


おじいさまとしばらくのんびりとお茶を楽しんでいるとお兄様が慌てた様子でやってきた。


「やっと帰ってきたか、エド。」

「城中おじいさまを探し回ってたんですよ!どうしてうちにいるんですか!」

「お前が用があるから時間をくれと言ったんだろうが。ベラやイヴの顔を見がてら来てやったというのになんじゃその言い草は。」

「こっちから会いに行くって言ったでしょうが!」


お兄様はどうやら今まで王城にいたらしい。髪も服も少し乱れている。おじいさまを探して走り回っていたようだ。


「それにまた甘いものをたくさん食べて・・・。おばあさまに密告しますからね!」

「まったく可愛げがない孫だな。・・・それで、用とはなんだ?」

「え・・・っと・・・。」


おじいさまに問われてお兄様の視線がふわりと揺れる。私の方を気にしているようだ。私には聞かれたくない話らしい。空気を読んで私は席を立とうとしたがおじいさまが引き留める。


「イヴ、まだ菓子が残っておるぞ。」

「ええ・・・でも・・・。」

「エドもさっさと座らんか。特別に儂のおすすめの菓子を分けてやろう。」


お兄様は少し顔をしかめたが結局何も言わずにソファーに腰かけた。私も再び座りなおす。昔から私たちはなんだかんだでおじいさまに逆らえない。


「儂もそう暇ではない。そろそろ儂を探しに来る奴らもいるだろうしな。話は一度で済ませたい。」

「・・・はい。」


先程までと空気が変わる。その手にクリームたっぷりのお菓子があるのは変わらないが、おじいさまの言葉は鋭さを帯び、祖父の顔からアヴァンス伯爵の顔になっている。お兄様も背筋をぴんと伸ばし、真剣な表情になる。


「おじいさまは国軍と騎士団の人事権をお持ちですよね?」

「正確には人事権ではなく任命権だ。人事は国軍指令長や騎士団長の仕事だからな。そこから上がってきた報告により任命するのが儂の仕事だ。」

「でもおじいさまからも人事について意見を出すことは一応できるということですよね?」

「・・・可能だがめったにせぬわ。現場のことは現場の者が一番理解しておるからな。」


おじいさまの経歴は特殊で、国軍指令長も騎士団長も経験している。晩年は国軍に籍を置いていたので現在も国軍総督という役職名で在籍しているのだが、騎士団からも懇願され結局はそちらの最高責任者も兼任している。ちなみに国軍総督というのは国の英雄のために特別に作られた地位なので、おじいさま以前にこの役職を与えられた者はいない。


「おじいさま、実はひとり近衛騎士見習いに推薦して欲しい人がいるんです。」

「近衛騎士見習い?」

「はい。現在の近衛騎士は全員男性です。ですが、今後王女が生まれた場合や王妃の警護に女性の近衛騎士がいれば何かと便利なのではないかと思うのです。そこで、思い切って女性の近衛騎士を育ててみてはどうかと考えまして・・・。試験的に一定期間研修として現役の近衛騎士と行動を共にさせてみたいんです。」

「ほう・・・女性の近衛騎士か。おもしろいな。」


おじいさまはお菓子を置いて身を乗り出した。その反応にお兄様はほっとした様子を見せ、さらに説明を続ける。


「候補の女性は現在、国軍の所属なのですが・・・。」

「騎士ではなく軍人か・・・。魔法は使えるのか?」

「それは大丈夫です。彼女は下級貴族の出ですけど、魔力はそれなりにあるようですので。それに男性に負けないほどの武術の腕もあります。」

「ふむ・・・。」

「実はこの件は殿下からの案でもありまして、殿下の近衛騎士に指導を担当させる許可を得ています。」

「殿下の・・・。」


昨夜お兄様が帰ってこなかったのはこの件を殿下と相談されていたからだろうか。それにしてもこれは今やるべきことなのだろうかと疑問に思ってしまう。お兄様は将来的にはお父様と同様に宰相になるべく教育を受けているので、殿下からさまざまなことを相談されるのはわかるのだが、私としては今は殿下との結婚を回避する方法を探る方を優先してもらいたい。私が微妙な表情をしているのに気付いたらしく、お兄様がさりげなくウインクをしてきた。これもなにかの作戦だと言いたいのだろうか。どちらにしてもこの場で私が口をはさむことはできないので、黙って聞いておく。


「・・・わかった。前向きに考えよう。だが、国軍指令長と騎士団長にも意見を聞く必要はある。しばし時間をもらうぞ。」

「ありがとうございます・・・!」

「候補の者の名前を聞いておこう。」

「はい。名前はミリアーナ・アーメルド。たしか第三部隊の所属かと。」

「そうか。では、その件はまた連絡しよう。」

「よろしくお願いします。」


うむ、とおじいさまが頷いた。お兄様の用はこれで終わりのようだ。私が予想していたものとは全く違ったが、承諾が得られてようやく落ち着けたようでお兄様もお菓子に手を伸ばす。


「あ・・・そうですわ、おじいさま。今度、騎士宿舎に差し入れをもっていきたいのですがお話を通しておいていただけませんか?」

「騎士宿舎にか?それは構わんが・・・急にどうしたんだ?」

「先日ある騎士の方にお世話になったのでお礼もかねて皆さまになにか差し入れをさせていただきたくて。」

「おお、そうか。奴らも喜ぶだろう。騎士団長に話をしておいてやろう。」

「ありがとうございます。」


ふと視線に気づき振り向くと、お兄様が口いっぱいにお菓子をほおばりながら顔をしかめてこちらを見ている。私の言葉に不満があるようだ。だが私には何が気に入らないのか分からず首をかしげる。


「イヴ、ちょうどいいな。例の娘も誘ってみたらどうだ?」

「え?」

「さっきの話の娘だ。一緒に騎士宿舎を訪ねるついでに殿下に挨拶に行ってみるといい。娘の名前は出さずにお前が謁見の申請をすれば時間を取ってくれるだろう。」

「私が彼女を誘うのは変な気がするけれど・・・大丈夫かしら?」

「公爵令嬢のお前が誘えばよほどのことがない限り断られんだろう。」

「そうかしら・・・。」


帰還式典ではずいぶんと言い争いになってしまったけれど彼女は気にせずに受け入れてくれるだろうか。


「じゃあ日程が決まったら教えてくれ。そろそろ儂は戻る。」

「はい。お気をつけて。」

「ああ、見送りはいらん。最後にもう一度ベラの様子を見にいってくるから。」


おじいさまは立ち上がりかけた私を制し、ひらひらと手を振って去っていった。軽くため息をつき、再び腰かけるとお兄様が眉間にしわを寄せて問いかけてきた。


「今のは・・・何の話かな?」


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