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黒き空のハルピュイア  作者: 心鏡
二章 錯綜
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十六話 次代の希望

娘は、強い。



震える体を抑えて、あの人間どもの前へ躍り出た。

自らが訴えたその言葉を正しくするために、覚悟を決めた。

若い人間が、敵意をもって睨みつけている中、だ。

そんな人間に私は言葉を発さなかった。

それは、言葉を投げかける事自体が、相手を認めることになるからだ。

人間は賢しい。だからこそ意志が通うことが、恐ろしかった。

なぜ空を暗くしてしまったのかと、なぜこれほどまでに私達を追い詰めるのかと。

その弱さが思わず溢れてしまうことが恐ろしかった。

人間の中には、むやみに私達を害するものばかりでないと知って、皆を守れなくなることが恐ろしかった。

先頭に立って判断できなくなることが恐ろしかった。

老いた人間は、睨む私に敬意と畏怖の眼を向けてきた。

その態度は、山々で出会ってきた獣達と似通っていてどこか安心した。

娘はそんな老人に、敵意の有無や、今後近づかないよう言葉を投げかけた。

思わず叱責したくなったが、若い人間から眼を離すことこそ恐ろしく、黙っていた。

老人はそれに対し、膝を折って平伏した。

言葉が通じないなりの、最大限の敬意なのだろうとは想像がついた。

そして、娘も地に降り、頭を下げたのだ。

この時ばかりは流石に声を張り上げた。

私達全てを貶める気かと、この暗い空を作り上げた人間と同じく、大地と空の恩恵を忘れて生きるモノと同等になるのかと。

娘は私を無視して、老人に微笑みかけていた。

私から見れば、それはやはりぎこちなく、尾が小刻みに震えていたが、老人は驚いたように手を伸ばした。

今すぐにでもその腕を噛み切ってやろうと、意気込んだが若い人間が腰を落とすのを見て躊躇した。

娘は老人の手に触れてから戻ってきた。


この顛末に、皆はよくぞ戻ったと歓迎されたが、混乱も巻き起こした。

結局のところ、人間には、特に老人には敵意はないが、若人は敵意がある。

若人を抑えていたのが老人であることからも、プーヤーを助けたのは老人だろう。

それでも、若人の動きを完全に抑えられると期待できるわけでもなし。

老人が敵意なく、私たちに接触を図りに来る可能性も高い。

情報は増えたが、状況は変わらない。

この結果がもどかしかったが、あれ以上人間から得られることがなかったのも確かだ。

だから

「では、如何いたしますか戦士長。」

そうナヴィドに問われたときも、顔を歪めずにいられたか自信がない。

「物事を多角的に捉えすぎだ。私達はプーヤーを助けた理由が邪でないか確認しに行ったのだ。結果として邪ではなかった。それだけだ。」

「それは、確かに、仰る通りかと。」

「その上で、だ。今後も奴らが接触してきた場合を懸念していることは相違ないな?そしてその懸念はいくつかの段階がある。」

「はい、皆の意見をまとめますと、私達のことが多くの人間に知られること、そして人間共に脅かされる可能性。次に少ないながらも人間が早急に押し寄せ捕らえようとしてくる可能性。最後に人間が今後も接触できる範囲内にいることによる不安感と緊張感の継続、になります。」

「一つ目からだ。多くの人間に知られる事自体はもう止めようがない。私達がいかに山奥へ逃れようとも無意味だ。」

「はい、奴らは言葉以外の伝達手段もあるようです。」

「となれば、奴らはその情報の正しさを確認し、多く集まってくるだろう。それは確実に察知し、情報の確実性を下げるに努めねばならん。」

「そうですね、獣を多く狩ることが難しくなる懸念が残ります。」

「若者を早急に教育する必要があるだろうが、いずれしなければならないことが早まっただけだ。」

「次の懸念ですが、これは主に敵意があったという若い人間に対する懸念、というより不安かと。」

「やつらは尾根を超えてきた。奴らだけであればそちらの警戒を怠らなければ問題ないだろう。それにこの洞の周囲には隠れる場所も少ない。寝首をかかれることはないだろう。」

「…どうあっても受け身になってしまうことが辛いですね。」

「…仕方あるまい。最後だが、女たちが活動する範囲内において安全を確認する戦士を付ける必要があるだろう。その任は私がつく。朝に言ったとおりナヴィド、お前には期待している。」

「分かりました!全力を尽くします。」

「判断に困ることがあれば言え。だが、むやみな相談は私からの信だけでなく、仲間からの信も失うことになる。十分に気をつけることだ。」

「はい、では皆に伝えてきます。」

「頼む、私は女達がどう考えているのか、もう一度汲み取ってみよう。」

「…戦士長、是非、是非姫様と今一度。」

「分かっている。あれは言を通した。だが、それでも譲れぬ部分がある。それだけだ。」

言葉にはしなかったが、ここを離れるということや人間どもを殺してしまうことも選択肢として残っている。

まだ、その選択肢に対する危険性が高すぎるだけだ。


さて、ここでやっていくのであれば、安心して女子供が暮らせなければならない。

その為には子を成すための洞や卵を温めるための場所も必要だろう。

女達はまだ周囲の森に何があるのか見ているだけだったはずだが、それらについての状況も確認せねばなるまい。


娘は一体誰と番う気なのか、全く読めなかった。

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